09

「テイト、悪いが俺達は撤退させてもらう。昔のよしみで見逃してくれないか?」


「ん?昔のよしみ?水臭ぇ事言うなよ。俺らまだ友達だろ?」



あれ?もしかしてもう友達じゃない…とか?



うわ!余計な事言わなければよかった!とは言え後の祭りだ…



「…そうだったな」



おお!久しぶりにこいつの笑顔を見た気がする。



「まあ友達じゃなくても見逃すさ…俺らは無駄な戦闘、無駄な犠牲は出したくないからな」


「それでいいのか?仮にも魔王軍だろ?」


「役割が違うんだよ…俺らは『侵略部隊』だ、侵略だけが仕事」


「そうか」


「『戦闘部隊』はヤバイけどな。主な役割は戦闘、殲滅だ」



戦闘部隊こそまさに魔物。



敵を圧倒的な力で一人残らず、一人も逃がさず殲滅していくと言う恐ろしい部隊だ。



女子供関係無し、建物は全てぶっ壊しながら進んでいく。



俺とは全く持って馬が合わない。



「戦闘部隊か…一応友達として忠告しておくが、お前らも一時撤退した方がいいと思う」


「?なんで?」


「俺達と一緒に『あいつ』が派遣されている」



誰だよ。あいつとか知らんし。



てか良く考えたらこいつら派遣小隊なんだよな?



「そう言えば国軍は?お前らより先に来るべきじゃないのか?」


「今は魔物どころじゃない…いや、魔物が攻めてきてるのだからそれどころじゃないはずなんだ…」



?何が言いたいんだ?



「テイト達は丁度、と言うべきかかなり運が良い時に攻めて来ている」


「………もしかしてクーデター?」



丁度、運が良い、魔物どころじゃない…テロかクーデターのどちらかだろうな。



「大規模なテロだ。数日前から続いている」


「ありゃ、奇しくもタイミングピッタリってわけね」


「俺達は本当はテロ鎮圧と言う名目で派遣されていたんだ。そしてあいつも…」



国軍は手一杯だから派遣されたお前らに任されたのか。



確かに魔物退治もお手の物だしな。



「お前はあいつに会ってはいけない!」


「いや、だから誰だよ!」



エルーが叫んだから思わず俺も叫んでしまった。



「あいつ、で分からないのか?…『メルガ・D・クルセイダ』だ」


「いや知らんけど」



だれ?そんな大層な名前と知り合いになった記憶は無いけど。



「マッドマーダーと呼ばれてた男で、在学中の戦いで唯一引き分けたお前をしつこく追い回してただろ?」


「ああ!あのストーカーの事か!…で、そいつが何?確か俺がわざと負けたら興味失ってたじゃん」


「お前な…一応伝説になってるんだぞ?」



伝説?恥ずかし!なんで!?



「987戦977勝5敗5引き分け。引き分けた5戦はお前だけだろ?あいつからしたら引き分けはこれ以上に無い屈辱らしいからな」


「ただ防御か受け流すか、それかみっともなく逃げ回ってただけなのに」



まあ自分が気に入らない奴を片っ端から狩っては病院送りにしてたって聞いてたからな、病院送りにできなかった俺を恨んでたのか?



「そのあいつが今、この国に来ている」


「ああ、だから一時撤退ね」



そう言う事か。納得はしたが仕事を途中で投げ出すわけにはいかないでしょ。



「あいつは更に強くなってる、お前も『D』の持つ異名は忘れてないだろ?」



『D』デスサイズ

死神の異名を持ち異常なまでの強さを誇る一族の名前に入る文字。



「だけどそいつはそこまでの才能は持ってないんだろ?」



確か…一族の最高傑作と称されたのもつかの間で、年の離れた弟と甥っ子が長い一族の歴史上でも類を見ない程の才能に恵まれてるとか。



少し思い出すとどんどん思い出すな。



「弟が史上最高傑作になるらしい…が、だからと言ってあいつは決して弱くないぞ?」



それはそうだけど…あ!ヤバイ!



「…なあエルー、噂をすれば影、って言葉分かるか?」


「どういう意味だ?」


「人の噂をしたら噂の当人が現れるって言う俺の故郷のことわざなんだけど…」



多分もう遅いかも…なんかエルーの後ろの方から凄いスピードで近づいてくる人が見えるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る