ヘブンズ・ウォール
くすぐるの誰や
プロローグ
毎回同じような授業ばかりを受けて、みんな飽きないものだろうかとテッドは思った。前回と同じような歴史の授業を受けているが、その内容は以前聞いたものと同じもののように思える。国家の歴史を学ぶという、大切な授業のため、優秀な成績を修めれば、卒業後の進路にとって大きな加点になる。
毎回の授業にきちんと出席するだけで卒業はできるが、優秀な成績を修めようと思うと、授業中に先生が黒板に書いた内容を一字も漏らさずにノートに書く必要がある。授業を最後まで受けた末に課題として授業のノートの提出が命じられ、その内容でこの授業での成績が決まる。そのため、ほとんどの生徒は皆、一生懸命にノートに向かい、黒板の内容を必死に写している。テッドはその中で浮いている方だ。生徒のほとんどが黒板の内容を写している。その様子は、この授業に一生懸命になれないテッドにとって、とても不思議な光景だ。うらやましいと思う。
片肘をついて、隣の席にいるクラスメイトが必死にノートに書き写している姿を見て、自分には無いものを持っていることに感動する。ただそれを見習いたいと不思議と思わない。国の歴史を学ぶことに一体に何の意味があるのだろうかとテッドは思っている。自分が生きていく上で、その知識が役に立つなら喜んで、自分も必死にノートを今頃取っている。それができないのは自分にとって、納得いかないことがこの授業にあるはずだ。それが何なのかを今日の授業が始まったところから考え始めたが、さっぱり良い答えが思い付かない。
つまらない授業を聞いている内に、ずっと同じ席に座り続けるのが焦れったくて仕方がない。早く昼休みに入らないか。昼休みになったと同時に席を立ち、億劫な教室から一早く出たい気持ちになっている。仕方がないので、窓の方を向いて、外の景色を見ていると、先生からテッドに声がかかる。
「テッド、窓の外に何かあるのか?授業を真面目に聞きなさい」
その言葉にテッドは振り返り、先生に向かってすぐ謝罪する。
「失礼しました。以後気を付けます」
先生の方を向いて、頭を下げるも、彼の表情から読み取ると、何とも納得いってなさそうだ。授業に集中せずに机の上に片肘をついて呆然としていたテッドを見て、かなり印象が悪くなったようだ。さすがにまずいと考え、今更ながら真面目に授業を受けているフリをする。ノートを開いて、ペンを持ち、黒板の内容を書き写す作業を始める。その様子に納得したようで、先生は再び黒板の方に向き、教科書の内容を復唱しながら、黒板に教科書の内容に沿った補足の説明を書いていく。
黒板に書き足されていく情報をしばらく黙々と書いていたが、途中で結局飽きてしまい、先生がこちらの方を見ていないことを良いことに、ノートに黒板の内容を書く振りをしつつ、時々よそ見をするように窓の外を見る。何度かよそ見をしている間にまた同じように窓の外を見る時間が長くなり、その内にノートに完全に目を向ける事が無くなっていく。
窓の外に広がる風景はいつも教室から見ているものと変わらない。同じ景色を何度見ても、それはそれでつまらないことだ。せめて、新しい何かがあれば、わくわくすることもできるだろう。その新しい何かとは、場所かもしれないし、物かもしれない。あるいは人かもしれない。わくわくして楽しい時を過ごせるのは、そういった今まで出会ったことがない、得体の知れない何かに出会えた時だ。
「おい、テッド。真面目に聞いているか」
「すみません」
先生の呼び掛けで我に返る。気が付けば、また呆然としていた。気を取り直して、再び授業を受けている振りをするためにペンを持ち、黒板の内容をちょっとずつ写す。それでも、時々窓の外から頭上を見上げる。頭上には一面に広がる天井が覆い被さるように存在していた。その存在感は視線を遠くに向けても、遙か地平線の向こうまで包み込んでいる。頭上の一面に広がる白い壁。壁の向こう側に何かがある。いつの頃からか忘れたけど、そんなことを考えるようになっていた。
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