時間犯罪と親殺しのフーガ
壺中天
動機は痴情か怨恨、それとも悪意と快楽
鶏と卵とどちらがが先か?
自分の尾を喰らう
「へえ、あんたはなんで子供を捨てたりしたんだ?」
俺はベッドで煙草をくわえる。
「べつにたいしたわけなんてないわ。母親である前に女だったった、それだけのことよ」
女は髪を掻きやった。乱れた髪が汗ばんだ額に張りついている。
「女である前に人間なんじゃねえのかい?」
俺は女の乳首を軽くつねる。
「人は身勝手なものでしょ」
女は甘い声を洩らして身を捩らせる。
「なるほどな。じゃあ、俺も身勝手でいいか」
俺は含み笑いをもらした。
「そうよ、たのしみましょ」
「そうだ、たのしもう」
「な、何をするの? はなして!」
「べつにたいしたことじゃない。あんたはあんたの好きなようにしたしたんだろ。
俺も好きなようにする。勝手に恨んで勝手に殺す。ただそれだけのことさ」
「あなた、まさか…」
「そうだよ、あんたの子供だけど何か?」
「痛い、苦しい。や、やめ…、待って!」
「ああ、待つさ。あんたが死ぬまでじっくりとな」
「お…願い、たすけ……て」
「もう、おそい」
時間犯罪捜査官のわたし、
その男はタイムマシンなしで過去へ跳ぶ能力を持っていた。彼は生前の頃の母親を惨殺して、また過去へ跳んだ。
まだ若い娘だった母親を騙して自分を生ませ、さらに遠い過去へ跳ぶ。
そこで事業家として成功した彼は、記憶を失っている幼い少女を養女にする。
成長した少女は彼の妻になった。そして彼は自分自身の母親を生ませる。
けれども、わたしはその時代からはじかれるみたいに入り込めなくて、調査は一向にはかどらなくなった。
わたしが辿りついたとき、すでに彼、
「ようやくかよ、待ちくたびれたぜ。間に合わないかと思った。
あんたみたいな
俺がもうちょい若くて元気だったら、あんたのほうを
クヒッ、ケヘヘヘッ」
シミとシワだらけの骸骨のような老人が痰を喉に絡ませながら嗤った。
わたしは彼の抹消を終えたが、まだ事後処理が残っている。
とりあえず一息吐こうとしたとき、彼の仕掛けていた罠が発動する。
そのときに薄れゆく意識の中で、虚空に浮かぶ透明で巨大な歯車が、蠢いているのを幻視したような気がする。
わたしは過去に跳ばされ、年齢も逆行して記憶を失い――。
桜衣舞衣は知らない。自分が体外受精によって生まれ、遺伝子提供者が阿僧祇久世であることなど。
何かの悪意によって仕組まれたかのようなそれを知ることはない。そしてすべてを忘れ去った。
自分を拾った男が誰かなどわかる
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