受験勉強その1
俺は大学受験に向けて、本気で家と図書館の往復コース入った。
流石に必須科目が多すぎて普通に授業している時間だけだと全然足りない。
かと言ってうちは家庭教師や塾に通う余裕は無いのも知っている。
最近父さんがタクシー売上が悪くて副業まで始めてしまい、体調がかなり心配だ。──それも全部大学受験を決めた俺のせいなんだけど……。
母さんも体調があまり芳しく無いのに月の夜勤を2回増やしたらしい。
俺と雪が丁度一番金のかかる年頃だから本当に申し訳ない。
俺ももっとバイトをしておけば良かったのだが、やはり中学生の雪1人を家に残して遅くまでバイトするのも気が引けたし、寂しがらせてしまったので結局今は全く行けていない。
「数学、全然わっかんね……」
俺はシャープペンをテーブルに置いて大きく伸びた。最近は朝6時には家を出て学校へ向かうのが日課になっている。
学校に早く行った所で用務員さんが居るし、事情を話すと図書室を開けてくれるのだ。その後は8時半までに鍵を閉めて、また教員室に鍵を持って行けばいいだけの話。
ちらりと時計を見ると朝8時を回っていた。そろそろ授業の準備をしないといけない。俺は図書室の鍵を閉めて教員室へと向かった。
「おう、雨宮いつも熱心だな」
「北村先生、いつも鍵ありがとうございます。うちは妹が居るんで学校か図書室じゃないと集中出来なくて……」
「今年から少し過去問の傾向が変わるらしいな。数学が変わる事は無いから応用を増やすしかない。不適切問題がどれくらいあるか、後はお前の得意分野どこで稼ぐかだぞ」
「物理が苦手で……数学もⅢがなかなか入らないです」
「一番の所じゃねえか。あと1ヶ月ちょいで追い込むしかないな。するてぇと、お前は短期でも塾行かないのか?」
「うちは経済的にちょっと……妹が私立の女学校なもので」
「ああ、お前と田畑か。あの例の芸能人がいる女学校に通う妹がいるっつーのは」
教師間で意外と私立S女学校は有名らしい。多分、牧野ジェシカの編入によるものだろうけど。
俺は一瞬ジェシカちゃんの名前が出るかと思いギクリとしたが、とりあえずS女学校だけの話で終わってくれたので、俺はそそくさと理系の教室へと戻った。
「なあ雨宮、俺の行ってる塾で配ってる過去問コピーしようか?」
「えっ!
「なんだよ、もっと早く言ってくれりゃ良かったのに。その代わりに頼み1つ聞いてくれるか??」
「うん、いいよ?」
銀縁メガネThe理系の外崎のお願いなどたかが知れている。俺が困るような女の子関係では無いはずだ。
しかも外崎は両親が医者という完全お坊ちゃま家系。お金に関係するようなお願いも無いはず。
「あのさ、雨宮って牧野ジェシカとヤバい関係なんだろ? 1部のネットであの男は誰だって騒がれてたけど、どう見てもあれ雨宮だよな……?」
俺の予想に反して完全に女の子関係の話だったので、若干声が上擦る。
「な、何の事だ? あ、ああ確かに、牧野ジェシカちゃんは俺の妹の友達だけど、それが……?」
「いやいや分かるよ、知らない奴は気が付かないと思うけど、穴が空くほど見たんだよあのスクープ写真」
やばい、外崎のメガネが不気味に光っているように見える。これは嘘をついても逃れられない展開なのか……。冬休みの温泉旅行がまさかこんな火種になるなんて。
俺は外崎に嘘をついた所でどうしようもないので、声を潜めて真実を伝えた。
「絶対言うなよ。別に俺はジェシカちゃんとヤバい関係じゃない。あの写真は俺の妹が爆睡してたから、相部屋の彼女が裸で出てきたってだけだ。俺は無実、被害者なの」
「被害者で牧野ジェシカの裸拝めるなんて、お前どんだけ幸運の持ち主なんだよ! 俺と変わってくれ……!」
悔しそうに机をバンバン叩く外崎は初めて見た。というか、こいつそんなにジェシカちゃんのファンだったのか?
「で、外崎の頼みってまさか?」
「俺さ〜、牧野ジェシカが子役で芸能界デビューした時からずっとファンなんだよ。1枚でいいから、ジェシカと一緒に写真を撮らせて欲しいんだ。勿論、お前も入って大丈夫だからな!」
あれ、ジェシカちゃんって子役も経験しているのか。俺はてっきりモデルから入ったと思っていただけに初耳だった。
もしかして、昔に芸能界に入り牧野教授の転勤か研究か何かで日本と海外を行き来していたんだろうか?
「なんだ、それくらいなら何とかできそうだよ」
「マジかぁ〜、お前って普通の奴なのにそういう所すげーな。ジェシカと写真撮れるなんて夢のようだ……雨宮が薬大学入れるよう俺も何年か分の過去問貰ってくるよ!」
俺としては外崎の方が神対応してくれているようにしか見えない。
模試に向けて、過去問を色々なパターンで攻めていかないとどうしても切り捨てないといけない範囲が出てくる。暗記部分は特にそうだ。ある程度的は絞っておきたい。
俺はしばらくの間、受験勉強の為と称して雪と会話もしていないし、生活リズムも完全に変えていた。
外崎の為にどうジェシカちゃんを家に呼んで貰おうか、その言い訳を考えるのに必死だった。
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