温泉旅行なのにほっこりできません!その5


「あ〜……疲れが取れる……」


 先程まで部屋の外で雪がくだらない事で喚いていたが、俺は流石にこれ以上構わない事にした。折角牧野教授が連れてきてくれた温泉旅行なんだから堪能して帰りたい。


 苦手な科目の課題も漸く一段落した所で俺は露天風呂に入っていた。35階という高い部屋のお陰で空に浮いたお風呂に入っている気分になり、久しぶりにワクワクした。

 ぼんやりと淵に腕を乗せて次の課題についてあれこれ考えていると、右側の方から楽しそうな声が聞こえてきた。


「ちょっとお、ジェシカちゃんくすぐったいよ!」


「まあ! ユキちゃん肌ツルツルね」


「ああ〜、いいなあジェシカちゃん。胸大きい」


「ユキチャンの勉強になるか分かりませんが、触ってもいいですよ。ヒロキにも触って貰いました」


 ちょっと待て、何爆弾発言投げ込んでいるんだ!?

 流石に女の子のイチャイチャお風呂を盗み聞きする趣味は無かったが、ジェシカちゃんの爆弾発言に俺は完全にフリーズしていた。

 ジェシカちゃんは日本語話せるが、細かい言葉を伝えるのがまだ上手くない。

 そして雪は天然の勘違いしまくりで間違えた方向に進んだら修正出来ない。


 そもそも、さっき俺の部屋に来て勉強したいからって言ったのはジェシカちゃんだろ!!

 誘惑に負けて触った俺も敗因なのか? 問題はそこじゃない。この後雪がどう反応するか、だ。


「えっ、ジェシカちゃん……ひろちゃんに胸触られたの?」


「ノーノー、触って貰いました。ヒロキに触ってもらって、胸が変わるか勉強です」


「そ、それで結果は?」


「ンン……特に変わりませんでした。ヒロキ大好きなマリアなら変わるかも知れませんが、ジェシカのLove足りませんでしたかね?」


「マリアちゃんは絶対ダメ!!! ひろちゃんを絶対にロリコンにしないで!」


 それをお前が言うかと突っ込みたい。


 俺と雪は3歳差。俺とマリアちゃんは多分6〜7歳差って所だ。

 そもそも、高校生と中学生。片や小学生。

 あと10年もすりゃ3歳差だろうが6歳差だろうがどうでもいいんだろうけど、ハッキリ言って今の2人は俺にとって妹のような存在でしかない。

 とりあえず俺の危惧していたジェシカちゃんの胸を触ったのにどうして雪の胸は触ってくれないのとゴネない事に安堵した。


「ひろちゃんに触って貰っても雪の胸は大きくならないのかなあ……」


「ユキチャンはヒロキ大好き。Loveいっぱい。でも、ムード足りない」


「ムード??」


「ただ触ってもダメね。ドキドキさせる」


「ふんふん」


「ユキチャンに、キスします」


「えええ!?」


「もう! ムード大事! 目、閉じます」


「ん〜、ん〜」


 何が起きているのか分からないが、隣が途端に静かになった。

 俺は視線だけ右側に動かしたが、勿論盗撮防止の為に巨大な壁があるので隣の様子は一切分からないようになっている。

 ジェシカちゃんが海外仕込みの変な事を教えていなければいいけど……そう思いつつ俺はこれ以上2人の話を聞いていたら余計な悩みが増えそうだと先に露天風呂から上がった。




 ──────




 翌日。


 珍しく起きて来なかった2人にドアをノックして声をかけたが、眠っているのか全然反応が無かった。

 そして俺は牧野教授と2人でモーニングを食べてチェックアウトの準備の為部屋に戻った。


 あと1時間もしないでチェックアウトだと言うのになかなか2人の部屋が動いている気配が無い。

 あまりにも心配になり、牧野教授からジェシカちゃんの携帯に電話して貰った所、今起きたから準備すると返事があったらしい。

 雪が準備に手惑い遅れるのは申し訳無かったので、俺はさっさと荷物を纏めてもう一度2人の部屋をノックする。


「おい、あと30分で出るみたいだぞ、早く──」


「ヒロキ! ヘルプミー!」


「はい!? ちょっと、ちょっとジェシカちゃん

 その格好はヤバいからきちんと服着て!!」


 半泣きで出てきたのはほぼ全裸に近いジェシカちゃんだった。何故こうなったのか、ジェシカちゃんは寝相が悪いのか!?

 雪は全然動かないで寝る子だから粗相はしないと思うのだが……。


 部屋の中に入るとやはり寝相が悪いのかぐちゃぐちゃになっているジェシカちゃんのベットと、まだ幸せそうに眠っている雪の姿があった。

 ジェシカちゃんはあまりにも起きない雪を見てかなり心配になったらしい。


「ああ、もしかして昨日夜ふかしでもした? 雪は体内時計で動いているから、しっかり睡眠8時間以上取らないと起きないよ」


「oh......sorry、ユキチャンといっぱい、お話してました」


「まあ、別に準備って準備もそんなに無いから、寝たまま連れて帰るよ。ジェシカちゃん悪いけど雪の荷物お願いしてもいい?」


「ハイ! わかりました」


 あれほど浴衣で喜んでいたのに、やっぱり寝られなかったのだろう。ピンク色の浴衣は綺麗にたたんで横に置いてあった。

 結局普段着のまま寝ていたらしい。お陰でこのまま連れて帰れる。


 俺は背中に眠ったままの雪を背負い、自分のリュックを腕にかけ、雪の荷物はジェシカちゃんにお願いして部屋を出た。忘れ物が無いことを確認して牧野教授と合流する。


 何事もなく平和に終わったかのように見える温泉旅行だったが、まさか1番最後の最後でジェシカちゃんのカメラマンがまだスクープを狙っていた事なんて──俺は知らなかったんだ。


 顔は白く隠されていたが、俺とジェシカちゃんの密会とか言うとんでもない記事が出回っていた。

 多分、いくらモザイクをかけても知っている人がこれを見たら多分俺だとバレる。とんでもない爆弾を落とされた。


 そもそも、俺は未成年なんだから個人情報の保護どうなってんだよ……と心から言いたい。

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