第十九幕:夏の海に弾む虹
これから、七夏ちゃん、天美さん、高月さんと海へお出掛けだ。三人はとても楽しそうで何よりだが、俺は手荷物が多い為、自然と三人の後を付いてゆく形に・・・。夏の暑い日差しの為か、思っていたよりも暑苦しい・・・クーラーボックスが結構負担かも・・・。七夏ちゃんを始め、天美さんや高月さんも俺の事を気に掛けてくれるが、荷物持ち役だから、ここは気合を入れる!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「ふー、やっとついたよー・・・って、ここ、普通に地元なんだけどね」
七夏「お疲れ様です。あっ、笹夜先輩! こちらの場所がお勧めです!」
笹夜「ありがと。七夏ちゃん。でも、どおしてここがお勧めなのかしら?」
七夏「えっと、この場所が一番早く日陰になります」
心桜「笹夜先輩って肌が白くて綺麗だもんねー。日焼けしない方がいいと思う」
七夏「はい。私もそう思います☆」
笹夜「ありがと。心桜さん七夏ちゃん♪」
心桜「笹夜先輩って、日焼けしないタイプかな?」
七夏「そう言えば、夏でも長袖が多いですよね」
笹夜「私、日焼けすると、肌が真っ赤になって、また元の色に戻るだけみたいですので」
心桜「あたしは割りと焼けてしまうから、白い肌がうらやましぃ~」
笹夜「私は、心桜さんみたいに焼けた肌に憧れたりします」
心桜「なるほどねー。いわゆる『無い物ねだり』だよね~」
時崎「よいしょっと。七夏ちゃん、この辺りでいいかな?」
七夏「あ、柚樹さん。はい。ありがとうです☆ お疲れ様です☆」
俺は、借りてきたパラソルをセットし、日陰を作る。見たところ、高月さんは日差しに弱そうなので、パラソルがある方がいいだろう。
時崎「七夏ちゃん。その浮き輪も膨らますよ」
七夏「あ、ありがとうです♪」
俺は、七夏ちゃんから浮き輪を受け取り、膨らます・・・と同時に、七夏ちゃんは泳ぐのが苦手なのかなと、思ったりもした。天美さんや高月さんは、海で泳ぐ事に特に問題は無さそうだ。
心桜「それじゃ、お兄さん。あたしたち、着替えてくるから!」
時崎「ああ、荷物は見ておくから」
心桜「ありがとー。お兄さん!」
七夏「柚樹さん、また後で☆」
笹夜「一度、失礼いたします」
三人が、着替えている間、俺は七夏ちゃんの瞳の事について考える。天美さんや高月さんは、七夏ちゃんの瞳の事については、一切話している様子が無い。まあ、これは三人がそれなりに長い付き合いだからなのかも知れないが、初対面の時には一度は話題になっているはずだ。もしかすると、七夏ちゃんは、初対面の時に、瞳の話題をされなかった人に対しては、特に好意的なのかも知れない。確証は無いが、俺自身も初対面の時、七夏ちゃんの瞳には驚いたが、その事については話さなかった。ただ「写真を撮って良いかな?」とお願いしたけど、その時その理由を訊かれ「瞳が印象的だから」と正直に答えたら、写真撮影自体を断られたかも知れない。正直に答える事で相手を傷つけてしまうのなら、正直でない事の方が正解というケースも、あるかも知れない。俺は今後、七夏ちゃんに対してどう接してゆくべきなのか・・・考えが上手く纏まらない・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「おっ! つっちゃー それ! 新しいの!?」
七夏「はい☆ どう・・・かな?」
笹夜「七夏ちゃん。とっても可愛いわ♪」
心桜「うんうん! つっちゃーその色、セブンリーフみたいだね!」
七夏「はい♪」
心桜「んで、笹夜先輩は・・・ストラッピーにパレオと着ましたか!」
七夏「笹夜先輩! とっても素敵です☆」
心桜「ホント、笹夜先輩! 眩しすぎ!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪ 心桜さん♪」
心桜「うんうん。でも、笹夜先輩。パレオは取った方が、もっと受けるかも~なんてね~」
笹夜「そうなのかしら?」
七夏「ここちゃーも、スッキリしていて素敵です!」
心桜「あははー。ありがと。あたしはどっちかって言うと、動きやすさ、泳ぎやすさ重視だからねっ! つっちゃーや笹夜先輩の水着みたいな『ひらひら~』なんか付いてると似合わなそうだし」
七夏「そんな事ないと思います☆」
笹夜「心桜さんもフリル、似合うと思います♪」
心桜「だといいけどねー・・・お兄さん! お待たせー」
七夏「えっと・・・・・」
笹夜「お待たせいたしました♪」
時崎「あっ! ああ・・・」
俺は三人の水着姿にかなり動揺する。七夏ちゃんのセブンリーフのようなデザインの水着姿は、以前にも見た事があるけど、夏の強い日差しと海の効果なのか、若葉色がより色鮮やかで可愛らしく見えた。さっき、荷物を持っていた時は、ちょっと憎く思えた夏の強い日差しだったが、今は感謝の気持ちが押し寄せてくる。
天美さんは泳ぎやすそうな赤色とオレンジ色のスポーツタイプ・・・というのだろうか・・・可愛いというよりも格好良く決まっている。高月さんは、藤色と白色のとても優美な水着姿だ・・・なんて言うタイプの水着なのだろうか・・・風に揺れるパレオが可憐だ。
心桜「つっちゃー! お兄さん見とれてるよ~」
時崎「なっ!」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ! すみません! 時崎さん」
心桜「あははー! んじゃ、ここで記念撮影~♪ お兄さんっ!」
天美さんは、俺の方を見て決めポーズ(?)を作ってきた。
時崎「それじゃ!」
俺は、三人の眩しさに負けないよう、しっかりと焦点を合わせる。
心桜「んじゃ! いっただっき・・・まーす!」
変わった掛け声だなと思ったが、三人をしっかりと記録した。
七夏「ここちゃー?」
心桜「ん?」
笹夜「今の掛け声は・・・」
心桜「お兄さんの心の気持ち~」
時崎「んなっ!」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ! すみません! 時崎さん」
心桜「あははー! お兄さんも、早く着替えてきなよー」
時崎「いや、俺はいいよ。一応、三人の保護者的な位置付けだから」
心桜「え!? そうなの?」
時崎「凪咲さんに、そう言って来てるから」
心桜「ふーん・・・つっちゃー、お兄さん『保護者』だって! それでいいの?」
七夏「えっと・・・私はいいと思います☆ 頼りにしてます♪」
心桜「はぁー・・・前途多難な気がしてきた・・・」
七夏「え? なーに? ここちゃー?」
心桜「よし! 前途多難な二人は放っといて、笹夜先輩! 泳ごっ!」
笹夜「え!? ちょっ、心桜さんっ!!!」
天美さんに手を引かれた高月さんの様子が、少しおかしい・・・。何か泳ぐのを拒んでいるかのように見える。
心桜「ん? 笹夜先輩、どおしたんですか?」
笹夜「・・・えっと・・・その・・・」
心桜「???・・・!!! ・・・もしかして、笹夜先輩って、カナズチとか?」
七夏「こ、ここちゃー!!! 笹夜先輩っ! すみません!!!」
笹夜「うぅ・・・すみません。足の届かない所で泳ぐのは、ちょっと苦手でして・・・」
七夏「笹夜先輩! 私、浮き輪ありますから、使ってください!」
笹夜「でも、それだと七夏ちゃんが・・・」
七夏「私、浮き輪でゆらゆらするのが、好きなだけで、泳げない事はないですので・・・」
笹夜「そ、そうだったの・・・私、てっきり・・・」
心桜「つっちゃー・・・人の事言えないよ・・・」
七夏「え!? あっ、すみません! 笹夜先輩! と、とにかく浮き輪どうぞです!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「じゃ、笹夜先輩! あたしが足がつかない所でも大丈夫な泳ぎ方ってのを教えてあげるよ!」
七夏「私も協力します!」
笹夜「はい。お手柔らかに、お願いいたします」
海水浴・・・というよりも高月さんの泳ぎの練習みたいになってしまっているが、三人ともとても楽しそうだ。三人を包む優しい海と砂浜は煌びやかで、虹色のような輝きを放っており、しばらくの間、その光をぼんやりと眺めている・・・と、七夏ちゃんが此方に戻って来た。
時崎「七夏ちゃん、お疲れ様。ココアでいいかな?」
俺は、クーラーボックスからココアを取り出し、開栓して七夏ちゃんに渡す。
七夏「はい☆ ありがとうございます! どおして分かったのですか?」
時崎「なんとなく、七夏ちゃん、喉渇いたんじゃないかなと思って」
七夏「・・・・・」
ココアを受け取ると、七夏ちゃんは無言のまま俺の隣に座ってきた。こうした七夏ちゃんの無言の行動を読めるようになる必要がありそうだ。恐らく、俺が七夏ちゃんの考えている事を読んでココアを渡した事が影響しているのだろう。七夏ちゃんは嬉しい事があった時、無言で行動に表すのではないかなと思ったりしたが、まだ確証はなくこれは可能性のひとつに過ぎない。俺は遠くを眺めている無言の七夏ちゃんの視線を追いかける。天美さんと高月さんは、まだ泳ぐ練習を続けているようだ。
心桜「笹夜先輩、随分飲み込みが早いっ! 驚きだよ!」
笹夜「ありがとう。心桜さんが教えるの上手だからかしら?」
心桜「あはは! 笹夜先輩にそう言われるとちょっと照れるよ」
笹夜「心桜さんが照れるのは、初めて見るかしら?」
心桜「笹夜先輩! 一通り泳げるようになったら、つっちゃーに潜行も教えてもらったら?」
笹夜「潜行?」
心桜「っそ! 素もぐり・・・かな? 泳ぎはあたしの方が得意だけど、潜行はつっちゃーの方が得意だから」
笹夜「はい☆ 上手く泳げるようになれましたら、七夏ちゃんにお願いしてみます」
心桜「うんうん! ・・・海の中も綺麗だよー」
笹夜「そう言えば? 七夏ちゃんは?」
心桜「ん? あっちに居るみたいだよ」
笹夜「あら、いつの間に・・・」
心桜「笹夜先輩! あたしたちも、つっちゃーや、お兄さんの所に戻りますか?」
笹夜「いえ、私はもう少しこのままで・・・」
心桜「!? ・・・笹夜先輩!?」
笹夜「・・・七夏ちゃん・・・『初恋双葉』みたいですから・・・」
心桜「初恋双葉!?」
笹夜「ええ♪ 初恋双葉。大切に応援して、育てて実れば、七夏ちゃんなら、私たちにも幸せをお裾分けしてくれると思います!」
心桜「・・・そっか、あたしたちが大切に見守って育ててあげるって事か!」
笹夜「はい♪」
心桜「いいなぁ~。そういう考え方。笹夜先輩らしい~」
笹夜「そ、そうかしら?」
心桜「じゃ、そろそろ・・・その浮き輪をあたしに貸して? ちょっと疲れちゃった・・・」
笹夜「え!? えぇ!?」
心桜「笹夜先輩! もう十分泳げてますから、浮き輪無くても大丈夫だよ!」
笹夜「そ、そうでしょうか・・・まだ不安です」
心桜「あたしがちゃんと笹夜先輩を見てるから、頑張って!」
笹夜「・・・はい。お手柔らかにお願いします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夏「あっ!」
突然、七夏ちゃんが声を上げる。
時崎「七夏ちゃん、どおしたの?」
七夏「笹夜先輩が、浮き輪無しで泳いでます!」
時崎「おっ! 本当だ。逆に天美さんが浮き輪を付けてる・・・一体どういう事だ!?」
七夏「柚樹さん、今の笹夜先輩と、ここちゃーの写真・・・お願いできますか?」
時崎「え!? あ、ああ。勿論!」
俺は、遠くで泳ぐ天美さんと高月さんを、ズームしながらファインダー内に収め、シャッターを切った。
七夏「ありがとうございます! 柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃんも、一緒に!」
七夏「え!?」
時崎「ここに来て」
七夏「は、はいっ!」
俺は、浮き輪をした天美さん、浮き輪なしで泳ぐ高月さんと、七夏ちゃんをファインダーに収め、シャッターを切った。
しばらくすると、天美さんと高月さんも、戻って来た。
時崎「お疲れ様。天美さん、高月さん」
笹夜「お疲れ様です♪」
心桜「ありがとーお兄さん! ・・・はいっ! 笹夜先輩! 紅茶!」
笹夜「ありがとう。天美さん♪」
七夏「少し遅くなりましたけど、お弁当もありますから、どうぞです♪」
心桜「確かに、泳いだらお腹減ったよー! ありがとー! つっちゃー!」
笹夜「・・・少し疲れました・・・」
時崎「高月さん、ここへ座って」
笹夜「ありがとうございます♪ 時崎さん」
俺は、パラソルの日陰の多い場所へ高月さんを案内した。
心桜「おー! お兄さん、紳士だね~」
七夏「くすっ☆」
みんなで、七夏ちゃん手作りのお弁当を美味しく頂いた。高月さんは、少しウトウトしている様子だ。
笹夜「・・・・・」
時崎「高月さん?」
笹夜「・・・はい?」
時崎「少し、横になる?」
笹夜「・・・すみません・・・」
時崎「これ、使って!」
俺は、バスタオルを高月さんに渡した。七夏ちゃんもタオルを折って枕を作り、笹夜先輩に渡す。
笹夜「ありがとう・・・ございます・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「・・・・・」
そのまま高月さんは目を閉じた。天美さんが小声で話しかけてきた。
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「あたし、もう少し泳いでくるから、笹夜先輩のこと、よろしくねっ!」
時崎「ああ、もちろん!」
心桜「つっちゃー、いこっ!」
七夏「え!? 私も?」
心桜「だって、今日つっちゃーあんまり泳いでないでしょ!?」
七夏「・・・・・」
七夏ちゃんの瞳が綺麗な翠碧色になる。
時崎「七夏ちゃん! 泳いできたら?」
七夏「えっと、いいの?」
時崎「もちろん!」
七夏「ありがとうです☆」
心桜「それじゃ! お兄さん!」
七夏「また後で♪」
天美さんに手を引かれながら七夏ちゃんも海へ掛けてゆく・・・。海で楽しそうに泳いでいる二人と、側で休んでいる高月さんを見守りながら、俺はこれからの事を考える・・・。七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたいと思っても、どうすれば良いのだろうか・・・本物の虹自体がそう滅多に出逢えないから、本物の七色の虹を七夏ちゃんに見せてあげる事は、とても困難な気がしてきた。だったら、他の方法は無いだろうか・・・・・。
笹夜「ん・・・」
高月さんが少し寝返りを打つ・・・パラソルから落ちる影も移動してきており、高月さんの体に夏の強い日差しが当たりそうになっていた。俺は、高月さんの体全体が日影で覆われるようにパラソルの向きを調整した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「つっちゃー、何見てんの?」
七夏「あ、ここちゃー。えっと、ヤドカリさんです♪」
心桜「あ、ホントだ。二匹いるね~」
七夏「はい☆ 仲良さそうです♪」
心桜「ん?」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「これは・・・仲良さそうに見えるの?」
七夏「え? 違うの?」
心桜「なんか、嫌な予感がする・・・」
七夏「え!?」
心桜「あ゛っ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「うわぁー、コイツ、相手をヤドから引きずり出したよー」
七夏「ど、どおして?」
心桜「ヤドの強奪!!!」
七夏「えっ!? そんな・・・」
心桜「やっぱり・・・コイツ、相手から強奪したヤドに入ったよ・・・」
七夏「仲良しさんじゃなかったの?」
心桜「残念ながら、そうじゃないみた・・・ん?」
七夏「まだ何かあるの?」
心桜「強奪された方が、強奪した方のヤドに入った!!!」
七夏「これって、お家の交換なの!?」
心桜「そうだろうけど、見たところ、お互い合意じゃないのは確かだよね」
七夏「ちょっと、可哀相・・・です」
心桜「んー、まあ、そうなんだけど、弱肉強食の世界だからね・・・。皆、生きる為の行動だから・・・」
七夏「それは、そうなのですけど・・・」
心桜「可哀相だけど、命を狙われなかっただけまだ・・・ん?」
七夏「あれ?」
心桜「コイツ、さっき強奪したやつから、また強奪しようとしてない?」
七夏「えっと・・・私たちのお話が通じたのかな?」
心桜「いやいやいやいや・・・さすがに、それはない!」
七夏「じゃあ、どおして・・・」
心桜「あ゛っ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「うわぁー、コイツ、また同じ相手をヤドから引きずり出したよー」
七夏「ど、どおして?」
心桜「ヤドの再強奪!!!」
七夏「そんな・・・」
心桜「きっと、強奪したヤドが思ったよりも、しっくり来なかったんだろうねー」
七夏「だからって・・・」
心桜「やっぱり・・・コイツ、相手から再強奪したヤドに入った・・・んで、強奪された方が、強奪した方のヤドに入った!!!」
七夏「元のお家に戻りました・・・良かった」
心桜「なんというか・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「コイツッ!!!」
七夏「ひゃっ!!!」
心桜「どっか行けぇーーー!!!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「ふー、かなり遠くまで飛んでったねー・・・海へぽちゃ~ん!」
七夏「そんなに、思いっきり投げなくても・・・」
心桜「さすがに、今のは身勝手過ぎて、イラッときた!」
七夏「もう・・・」
心桜「もう・・・一生出遭うことがないように、お手伝いしてあげた訳ですなぁ~」
七夏「その『もう』じゃなくて、さっき、弱肉強食とか話してたのに・・・」
心桜「ん? だから、あたしが遠くに飛ばしてあげたんだよ」
七夏「え!?」
心桜「だって、たぶん人間の方が、ヤドカリより強いよ・・・あたしは、食べないけどね☆」
笹夜「心桜さん・・・この場合、流石・・・で、いいのかしら?」
心桜「あ! 笹夜先輩! お疲れ様です!」
七夏「笹夜先輩! 疲れは取れましたか?」
笹夜「ありがとう。お休みして、少し楽になりました♪」
七夏「良かった☆」
笹夜「時崎さんが、そろそろ帰る時間だから、二人を呼んできて・・・って」
心桜「え!? もうそんな時間? お兄さんは?」
笹夜「お片付けをしてくれてます♪」
七夏「あ、私もお手伝いしなきゃ!」
心桜「そっか。んじゃ、戻るとしますか!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「お! 三人とも、お疲れ様!」
七夏「お疲れ様です☆」
心桜「お疲れ様ー!」
笹夜「お疲れ様です♪」
七夏「柚樹さん、私も手伝いますね!」
時崎「七夏ちゃん、ここは俺一人で大丈夫だから、三人とも着替えてきなよ」
七夏「え!? お手伝いしなくて、いいのですか?」
時崎「ああ。もう殆ど片付けてるから」
七夏「ありがとうございます☆」
心桜「お兄さん、ありがとね!」
笹夜「ありがとうございます♪」
海への名残惜しさは・・・また、こんな風に四人でお出かけできればいいな・・・と、思う俺の気持ちと重なるのを実感する。そんな俺の思いを余所に、民宿風水に戻る三人は、とても楽しそうにお話していたが、しばらく見ていると、高月さんが時折少し曇った表情を見せている事に気付いた。
時崎「高月さん?」
笹夜「はい!?」
時崎「今日は、疲れた?」
笹夜「いえ、とても楽しかったです♪」
時崎「そ、そう・・・良かった」
笹夜「すみません・・・少し、考え事をしてしまって・・・」
高月さんは、俺が気に掛けたことを読み取っていた。もしかすると手の力が強い事と関係があるのかも知れない・・・。
時崎「考え事!?」
笹夜「ええ。私、今日、時崎さんと一緒にいる七夏ちゃんを見ていて、私達と居る時と少し違うなって・・・」
時崎「え!?」
それは、俺が天美さんや高月さんと居る時の七夏ちゃんを見て、同じような事を思っていたのと通ずる。
笹夜「上手く言えないのですけど、幸せと、少し不安を合わせたような感じ・・・かしら?」
時崎「不安!?」
笹夜「・・・はい」
幸せと不安・・・幸せだけなら素直に喜べたのだが、その後の不安という言葉が引っかかった。俺は七夏ちゃんには幸せであってほしいと思っている。そして、そうなるように意識して行動したつもりだ。七夏ちゃん自身も楽しそうなので、これでいいと思っていたが、高月さんは、七夏ちゃんが不安がっているかも知れないと話す。
時崎「・・・・・」
笹夜「時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「私の思い込みかも知れませんので・・・その・・・すみません」
時崎「ありがとう。高月さん」
高月さんは俺なんかよりもずっと七夏ちゃんの事を知っているはずなので、この事は間違いではないだろう。
心桜「ん? お兄さん・・・どしたの?」
時崎「あ、いや・・・なんでも・・・。天美さん、帰ったら花火があるよね?」
心桜「あー! ほんとだ。結局、昨日は花火できなかったから、今日しとかないとね」
七夏「まだ、少し明るいですから、花火は夕食後にしますか?」
心桜「そだね~」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
笹夜「七夏ちゃんのお家に到着・・・かしら?」
心桜「笹夜先輩、お疲れさま!」
七夏「お疲れ様です! ただいまぁ☆」
凪咲「お帰りなさいませ。お夕食はもうすぐできますので・・・七夏、みんなと流してらっしゃい」
七夏「はーい☆」
心桜「では、ひとっ風呂とまいりますかっ!」
笹夜「はい♪」
時崎「凪咲さん、荷物、ここに置いておきますね。後で片付けますから」
凪咲「柚樹君。今日はありがとうございます。七夏たち、とっても楽しそうで柚樹君にお願いして良かったわ♪」
時崎「いえ、こちらこそ。とても楽しかったです!」
凪咲「お疲れ様でした」
凪咲さんは、そう話すと、冷たいお茶を用意してくれた。
時崎「ありがとうございます」
凪咲「柚樹君も潮風に長くあたっていたのでしたら、早めに流してきてくださいね」
時崎「はい」
凪咲「あ、露天の方なら、今すぐでも大丈夫かしら?」
時崎「では、そうさせてもらいます」
早速、俺は露天で軽く流す・・・今日一日の疲れが軽くなってくるのを実感する。天美さんたちの声が聞こえてくる・・・
天美「イヤー! ・・・肩がヒリヒリする~」
笹夜「確かに、お肌が少し痛むかしら?」
七夏「少し、お水を足しますか? えっと、冷たいタオルで冷やした方がいいのかな?」
・・・が、会話の内容までは分からない・・・。この露天風呂は混浴の為、七夏ちゃんたちが入って来る可能性もあるけど、既に屋内のお風呂を利用しているから、それは無いだろう。俺はささっと流して、露天風呂を後にした。
凪咲「あら、柚樹君。少し待っててくださいね」
凪咲さんは、そう話すと、冷たいお茶を用意してくれた。
時崎「ありがとうございます」
俺は、今日使った荷物を元の場所に戻す事にした。
心桜「ふーさっぱりー! すっきりー! でも、ちょっと肩がヒリヒリ~」
時崎「天美さん、お疲れ!」
七夏「柚樹さんも、流してきてくださ・・・って、浴衣?」
時崎「ああ、もう流してきたよ・・・露天の方で」
七夏「そうなのですね♪」
心桜「お兄さん! 露天に居たの!?」
時崎「まあ、軽く・・・だけど」
心桜「あー、居るんだったら突撃しとけば---」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「わわっ! 笹夜先輩! 早いですねっ!」
笹夜「え!?」
心桜「髪乾かすのに、もう少し時間掛かると思ってたんですけど」
笹夜「もう・・・」
七夏「くすっ☆」
凪咲「お料理、できましたから、どうぞこちらへ」
心桜「ありがとうございますー!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夕食を頂いた後、少し休憩して、みんなで花火を楽しむ。
七夏「これ、どうするのかな?」
時崎「あ、それは吊るして使うんだよ。物干し竿、使っていいかな?」
七夏「はい☆」
俺は物干し竿に花火を吊るす・・・。
時崎「えっと・・・火は・・・」
心桜「お~に~ぃ~さ~ぁ~ん~」
時崎「うぉわ!」
心桜「こ~れ~つ~か~い~な~よ~ぉ~」
時崎「あ、天美さん・・・」
七夏「もう・・・ここちゃー!」
笹夜「それ・・・花火・・・なのかしら?」
天美さんは青白い不気味な光を手元でゆらゆらさせていた・・・その光の影響か「それらしい顔」になってて、ちょっと怖い。
時崎「ひとだま花火・・・か」
心桜「っそ! 火種にどぞー」
時崎「あ、ありがとう」
ひとだま花火から命を貰った吊るし花火は、回転しながら、華やかな光を放ち、みんなでその花火を眺めていたのだけど、様々な色に変化するこの花火、七夏ちゃんにはどのように見えているのだろうか?
七夏「綺麗・・・」
笹夜「・・・ですね♪」
七夏ちゃんが、花火を見ている表情からは、この花火がどのように見えていても「綺麗な花火である事に変わりはない」と話してくれているように思えた。
心桜「あ、終わっちゃった・・・綺麗なんだけど、一瞬なんだよね~」
笹夜「ですから、その一時をより大切に思えるのです♪」
七夏「はい☆」
心桜「んで、不気味なだけあって、そっちの方はしぶといね~」
時崎「ん?」
そう言いながら、天美さんは俺が持っている「ひとだま花火」を指差した。
笹夜「心桜さん・・・」
高月さんが、呆れた様子で苦笑いしている。
心桜「なんかこう、未練がたらたらあるような不気味さもあって、なかなか秀逸な花火だよ・・・それ」
時崎「未練か・・・自縛霊みたいな・・・あっ!」
心桜「・・・落ちた! ここまでか~・・・たまや~ならぬ、くちおしや~」
笹夜「心桜さん・・・どこでそんな言葉を・・・」
心桜「ん? お爺ちゃん!」
時崎「とりあえず、これは成仏させとくか・・・」
心桜「え!?」
俺は、ひとだま花火の亡骸の切れた糸の部分から持ち上げて、水の入ったバケツに入れた。
ひとだま花火「ジュワブッ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「うわぁ!」
笹夜「きゃっ!」
心桜「なんか、この燃えカス、『成仏』って言わなかった!?」
七夏「そ、空耳です!」
笹夜「き、気のせいです!」
時崎「くくっ・・・」
俺は、込み上がってくる笑いを堪えていたんだけど・・・。
心桜「つっちゃー! お兄さん、余りにも恐ろしくて、体が震えてるよ~」
七夏「え!?」
時崎「違う! 可笑しくて笑いを堪えてたんだよ!」
心桜「あ、そなんだ!? 怖かったら、つっちゃーに抱きついたっていいんだよ~! ねっ!? つっちゃー!」
七夏「え・・・えっと・・・ま、まだ、せ、線香花火もありますからっ☆」
七夏ちゃんは線香花火が置いてある縁側の方へ掛けてゆく・・・。
心桜「はぐらかしたか~」
笹夜「心桜さんっ!」
凪咲「みんな楽しそうね♪」
時崎「凪咲さんもご一緒にどうですか?」
凪咲「あら、いいのかしら?」
時崎「はい是非!」
凪咲「ありがとうございます」
凪咲さんも線香花火を楽しむ・・・また一人、
心桜「そういえば、7月も今日で終わりだねー」
笹夜「『7月』なら、来年もあります♪」
心桜「笹夜先輩・・・相変わらず鋭いですねー」
笹夜「来年も楽しい夏でありますように♪」
七夏「そうなるといいな♪」
心桜「うんうん!」
凪咲「天美さん、高月さん。また是非、風水にいらしてくださいませ」
心桜「もちろん!」
笹夜「ありがとうございます♪」
七夏「くすっ☆」
みんなで線香花火を楽しむ姿は、定番だけど、やっぱり絵になるなーと思う。凪咲さんと一緒に花火を楽しんでいる三人の様子を、俺は写真として記録した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今日、一日とても楽しかったが、俺は高月さんの話していた、七夏ちゃんの不安そうな表情の事が気になっている。高月さんに言われてから、七夏ちゃんの事を注意して見ていたけど、不安そうな表情を読み取れなかった。もし、七夏ちゃんが不安に思っている事があるのなら、取り除いてあげたいと思う。俺は高月さんにその事を聞かずに自力でなんとかしようと決意するのだった。
第十九幕 完
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次回予告
大切な存在が大切に想っている事・・・それが自分には関係ない事であったとしても、その想いが変わらずにいられるだろうか?
次回、翠碧色の虹、第二十幕
「ふたつの虹の大切な夢」
一緒に大切に想ってようになってこそ、その気持ちは本物なのかも知れない。
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