第六幕:太陽があって虹は輝く
大きな音で目を覚ます。「蝉の目覚まし」は、なかなか破壊力があると思うが、不思議と、目覚まし時計の音のような嫌な印象は受けない。
時崎「ん、もう朝か・・・」
布団から出て、部屋の窓を開ける。蝉の声が一気に押し寄せ、加えて強い朝日が眠気を吹き飛ばしてくれる。これは、なかなか心地よい。ふと下を見ると人影があった。視線を合わせると、七夏ちゃんが、お花に水をあげていた。俺が窓を開けた音に気付いたのか、こちらに視線を送ってきて微笑んでくれた。
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「えっ? あっ、おはようございます!」
俺の少し大きな声に驚いたようだ。顔を洗う為、一階の洗面所へ向かう。
凪咲「おはようございます」
時崎「おはようございます! 凪咲さん!」
凪咲「朝食、もう少し待ってくださいね」
時崎「はい。ありがとうございます!」
今日は、七夏ちゃんは、お庭での用事なのか、朝食は凪咲さん一人で準備しているようだ。そこへ、七夏ちゃんが戻ってきた。
時崎「お疲れ様。七夏ちゃん」
俺の言葉に七夏ちゃんは微笑みを返してくれた。
七夏「柚樹さん。今日は、お友達が来ますので、ちょっと騒がしくなるかもです」
時崎「全然、構わないよ」
七夏「ありがとうございます。なるべく静かにするように心がけますので」
時崎「気にしなくていいよ」
昨日の夕食時のように、朝食も七夏ちゃんと一緒に・・・と、思ったが、七夏ちゃんと凪咲さんは既に済ませていたようだ。朝食を頂いていると、台所に居た七夏ちゃんが話しかけてきた。
七夏「柚樹さん。お部屋のお布団、干したいので、お部屋に入ってもいいですか?」
時崎「あ、ああ。勿論構わないよ! ありがとう」
七夏「ありがとうございます☆」
七夏ちゃんはそう話すと、二階の俺の居た部屋へ向かったようだ。そう言えば、昨日、部屋に七夏ちゃんが来てくれて、お布団を準備してくれた。民宿風水では、宿泊客が食事を済ませている間に、お布団を用意してくれるようなのだが、昨日の夕食は七夏ちゃんと一緒に頂いた為、後からお布団の準備に来てくれた・・・という事らしい。
朝食を終え、居間で少しくつろぎつつ、目を閉じる・・・近くからは、凪咲さんが朝食の後片付けをしている音だろうか・・・食器が楽器のような音色を奏でている・・・規則性の無い無秩序な響きが逆に心地よい。トットットッと階段から音もする。これは七夏ちゃんの足音だろうか。普段意識しない生活音が民宿風水に居ると、意識の対象となっている事に気付く・・・これは、慣れない場所に居る為、感覚神経が研ぎ澄まされている為だろうか。聞き慣れつつあった蝉の声と遠くの波の音に耳を預ける・・・何か聞き逃している事は無いだろうか・・・そんな事を考えつつ、しばらくすると・・・。
??「おはよーございまーす! つっちゃーいる?」
玄関の方から明るく元気な声がした。その声のした方向に目を運ぶと、一人の少女が居た。初対面時の七夏ちゃんと同じ青と白のセーラー服姿。茶色のショートヘアで、明るく元気そうな印象であるその少女と、俺は目が合ってしまう。
時崎「えっと、こんにちは」
俺の言葉に、少女さんの表情は、少し固くなりつつ、
少女「ど、どうも~」
さっきの大きな声とは、打って変わって小声だ。俺は次の言葉に詰まっていると、
七夏「あ、ここちゃー。いらっしゃいです!」
心桜「あ、つっちゃー! おはよー」
七夏ちゃんが顔を見せる・・・助かった。その少女さんの表情も明るくなった様子で、俺はホッとした。
七夏「柚樹さん。えっと、お友達の
七夏ちゃんの取り計らいで、俺も天美さんに自己紹介をする。
時崎「
心桜「
やはり、俺と話す天美さんの表情は、少し固い印象だ。まあ、初対面なのだから当然だと言える。何やら、小声で七夏ちゃんと話しているようだ。
心桜「(つっちゃー)」
七夏「(なぁに、ここちゃー)」
心桜「(今日、お客さん居ないって聞いてたんだけど)」
七夏「(あ、ごめんなさい。昨日、来られまして)」
心桜「(そっか。あたし、大きな声出してたら注意して)」
七夏「(柚樹さんには、騒がしくなるかもっていう事は話してます。『気にしないで』って)」
心桜「(・・・ふーん。話の分かりそうな人で良かったよ。だけど、あたしが居ると騒がしくなる前提っていうのは、素直に喜べないかなー)」
七夏「(あ、ごめんなさい)」
心桜「(冗談だよ。つっちゃー、ありがと)」
しばらくすると、七夏ちゃんがこっちに来る・・・
七夏「それじゃ、柚樹さん。私たちは、お部屋に居ますので、また後で」
心桜「?」
時崎「ああ、じゃ、用事が済んだら声かけて」
七夏「はい☆」
心桜「???」
天美さんは、俺と七夏ちゃんの会話を聞きつつ、俺の手元をじっと見ている。その視線の先には、写真機があった。写真を撮ってほしいのかとも思ったが、天美さんの表情から、その逆の意思である事は明らかだ。完全に警戒されている。天美さんも写真に対して、あまり良い印象を持っていないのかも知れない。俺はその真意が分かるまで、天美さんの前では写真機や写真の話題は控えようと思った。俺が天美さんに会釈すると、天美さんは、ちょっと困惑気味の表情を浮かべつつも、軽く会釈を返してくれた。
七夏ちゃんとは随分印象が異なる天美さん。民宿育ちで、凪咲さんのお手伝いをしている七夏ちゃんは、人当たりがよく、気も利くので、それに慣れてしまっていた。冷静に考えると、天美さんの反応の方が一般的だと言える。七夏ちゃんと話す天美さんの様子から、本当の天美さんは、明るくて元気な女の子だと俺は思っているし、それは間違ってはいないだろう。
七夏ちゃんと天美さんを見送った後、隣の広間を見渡すと大きなテレビ・・・お客様用だろうか。テーブルの上には、そのテレビ用と思われるリモコンが置いてある。俺はそのリモコンを手に取り、眺めていると・・・
凪咲「テレビ、ご自由にご覧くださいね」
時崎「ありがとうございます。随分大きなテレビですね」
凪咲「はい。少し前まで小さなテレビだったのですけど、故障してしまって・・・」
時崎「そうなのですか?」
確かに、大きなテレビは、年季の入った部屋に対して、明らかに時代が異なる印象を受けた。
凪咲「それで、遠くからでも見れるように考えたら、この大きさになりました」
時崎「なるほど」
凪咲「あと、七夏がテレビに近づき過ぎないように・・・という意味もあるかしら」
時崎「七夏ちゃんは、そんなに視力が弱いイメージはないですけど」
凪咲「七夏は視力は弱くないですけど、時々テレビに近づいている事があるの」
時崎「そうなのですか? 興味のある放送だったとか?」
凪咲「それもあるかも知れないですけど、真面目なニュース番組とかでもそんな時があって、そういう時は目を細めて見えにくそうにしていたかしら」
時崎「その時のニュース番組の内容は?」
凪咲「特に決まってはないみたい。この前は天気予報だったかしら?」
時崎「その時、七夏ちゃんは見えにくいとか話してました?」
凪咲「特にそういう事は・・・私が話しかけると、すぐにテレビとの距離をとっていたから」
時崎「そうですか」
凪咲「あ、すみません長々と。テレビ、ご自由にご覧くださいね」
時崎「いえいえ。ありがとうございます!」
凪咲「あ、あと、テレビの音量は少し控えてくださると、助かります」
時崎「はい」
俺は、七夏ちゃんがテレビに近づいている事があるという理由が気になるが、突然そんな事を本人に訊く事は出来ない。もし、七夏ちゃんがテレビに近づいている事があったら、その時にでも訊いてみる事にしよう。
改めて、俺はテレビの電源を入れようとして・・・ある物に目が行く。
時崎「ん!? これは、PS!!」
「PS」とは「Power Station」の略で、いわゆる家庭用ビデオゲーム機である。大きなテレビといい民宿風水、侮りがたし。俺の言葉に居間へ戻りかけていた凪咲さんが答える。
凪咲「あ、ごめんなさい。その機械は調子が悪いみたいで」
時崎「そうなのですか? ちょっと見させてもらっていいですか?」
凪咲「ええ。ただ、ぼやけた感じに見えて、目を悪くするかも知れないので。あまり長時間にならないように、なさってくださいね」
時崎「はい」
俺は、テレビとそのPSの電源を入れ、テレビの入力切替を行う。PS本体の近くにあったコントローラーを手に取る。しばらくするとPSの映像が映る。
時崎「うわっ!! これは・・・映像がぼやけてる!」
この原因がすぐに分かった。このPSはコンポジット(RCA)・アナログ接続されているのだと。テレビとPS本体の背面を覗き込んでみると、予想通り「黄・白・赤」の三色のケーブルで接続されていた。大きなテレビに旧式のアナログ接続は映像がぼやけてしまう事を凪咲さんは知らないのだろう。くっきりと映るテレビ放送を見た後では、なおさらの事である。さっき凪咲さんはテレビを買い換えたと話していたから、PSに使っているこのケーブルが、アナログ接続のままというのはすぐに理解できた。せっかくのPSが、これではかわいそうだ。七夏ちゃんがこのぼやけた画像を見ているかも知れないと思うと、色々と心配だ。俺は凪咲さんに相談してみる事にした。
時崎「すみません」
凪咲「はい。どうかなさいました?」
時崎「テレビに繋がっているPSの事なのですけど。取扱説明書や付属品ってありますか?」
凪咲「PS? あ、テレビゲーム機の? えっと、こちらにあったかしら?」
俺は凪咲さんに付いて行く。
凪咲「これかしら?」
時崎「はい、そうです! ちょっとお借りしても良いですか?」
凪咲「はい。どうぞ」
時崎「ありがとうございます」
凪咲さんからPSの元箱一式を受け取り、テレビの置いてある広間に戻る。PSの元箱の中には、取り扱い説明書の他に縦置き用スタンド、他に付属品は見当たらない。俺は取扱説明書を見る・・・確認したかったのは付属品だ。どうやらデジタルケーブルは付属していないようである。何故PSにデジタルケーブルが付属していないのか、疑問に思う。この説明書通りに付属しているアナログケーブルで接続したら映像は、ぼやけるのだが、それを「そんなものである」と思う人も居るという事だ。
デジタルケーブルがあれば「ぼやけた映像」ではなく「はっきりと映る映像」が得られるだろう。テレビ側にはデジタル入力端子の空きもあるので、後はデジタルケーブルのみあれば、解決できそうである。俺は、PSの元箱一式を元の場所に戻しに行く。
時崎「凪咲さん、ありがとうございます。元の場所に置いておきますね」
凪咲「はい」
時崎「映像のぼやけた感じがする原因が、分かったのですけど、こちらで調整させてもらってもよろしいですか?」
凪咲「まあ、よろしいのですか?」
時崎「はい。ちょっとテレビの裏側の配線を変えさせてもらいますけど、基本的にテレビの操作方法が変わる事はないですので」
凪咲「ありがとうございます!」
俺は凪咲さんの了解を得たので、早速デジタルケーブルを買いに出掛ける事にした。テレビとPSの電源を切り、PSコントローラーも元の場所に戻す。
時崎「ちょっと出掛けてきますね」
凪咲「はい。お気をつけて」
商店街の電気店へ向かう。昨日、七夏ちゃんが写真屋さんを案内してくれている時に電気店を見かけていたので、場所は分かる。その電気店でデジタルケーブルを購入する。少々高額でもパッケージにはPS対応と書かれている商品を選んだ・・・。そして、足早に民宿風水へ戻る。
凪咲「あら、おかえりなさい。お買い物かしら?」
時崎「ええ。まあ、そんなところです。ちょっとテレビを動かして裏側を見ますね」
凪咲「ありがとうございます。ご無理はなさらないでくださいね」
時崎「はい」
俺は広間の大きなテレビを少し動かす。凪咲さんは「ご無理は~」と話していたが、薄型のテレビで、キャスター付きのテレビ台に乗っている為、然程苦労は無い。俺はPSとテレビに接続されている三色のアナログケーブルを外し、購入してきたデジタルケーブルでPSとテレビを接続する。
時崎「これで大丈夫のはず」
俺はテレビとPSの電源を入れる・・・。
時崎「ん? 何も映らない。あっ、そっか」
直ぐにその原因が分かった。デジタル入力に切り替えなければならない。早速デジタル入力に切り替えてみると、そこには驚くほど鮮明に映った文字が表示されていた。文字の内容を確認してみると「テレビ側のデジタル入力を検出しました。この設定に切り替えますか?」と表示されている。勿論「はい」を選択だ。PSが再起動し、先程とは比較にならないくらい鮮明な映像が表示された。デジタルケーブルに変えれば良い事だと分かっていても、ケーブル交換だけでこの差はちょっと感動的である。さて、このPS対応のソフトがあるのかとちょっと周りを見回すと、それらしいケースが目に留まる。俺はそのソフトのラインナップにちょっと驚く。「トランプ」「将棋」「花札」の類は、なんとなく分かるが・・・その他にも「車」「電車」「飛行機」「音楽」と、なかなかマニアックなソフトも置いてあった。そんな中から、俺は「音楽ゲーム」を選択してみる。これはリズムに合わせてボタンを押す割と単純で、分かりやすいルールのジャンルだ。
時崎「む、難しい・・・」
単に俺が下手なのか、思ったようにタイミングが合わない。元々、そんなにゲームは得意ではないが、どうもボタンを押すタイミングが遅い傾向にあるようだ。改めて、音楽ゲームの取扱説明書に目を通す・・・
時崎「遅延現象!?」
テレビの機種によっては倍速技術によって、映像を作り変える際に時間的なズレが生じる事があるらしい。この音楽ソフトにはその遅延現象への配慮があるようで、設定で調整できるようだ。これで先程の入力タイミングが遅い傾向は改善されたのだが、点数は然程良くならない・・・。俺はこの手のゲームは苦手なのかも知れない・・・下手な理由は、遅延現象だという事にしておいた方が、良かったような気がしてきた。俺が音楽ゲームにてこずっていると、
??「あ、PS直ってる!?」
声のした方に振り返ると、天美さんが少し遠くからテレビの画面を見ていた。続いて、七夏ちゃんも顔を見せた。
七夏「ここちゃー。どしたの?」
天美「つっちゃー。PS直ったの?」
七夏「え?」
天美「だって、ほら! あれ!」
天美さんがテレビ画面を指差す。七夏ちゃんもテレビ画面を見て驚いた様子。
七夏「わー。とても綺麗に映ってます! どおして?」
天美「いや、どおしてって、あたしが訊いてるんだけど?」
七夏「あ、そうでした」
そんな二人の会話に、俺は合わせる。
時崎「このPS、コンポジット(アナログ)接続されていたみたいだよ」
七夏「こんぽ・・・じっと?」
七夏ちゃんが不思議そうな表情を浮かべているが、俺は話を続ける。
時崎「コンポジット接続だと、大きなテレビでは映像がぼやけてくるので、HDMI接続に変えさせてもらったんだ。勿論、凪咲さんのご了解を得て」
七夏「えいちでぃー・・・えむ・・・?」
時崎「要するに、ここにある三色のRCAケーブルを交換したって事」
七夏「三色のあーる・・・しーえー?」
何か、七夏ちゃんの様子がおかしい。俺の言葉が通じていないのだろうか? ちょっと困っていた俺・・・どう説明しようか・・・すると、
天美「つっちゃー。要するに、このお兄さんがPSを直してくれたって事だよ」
七夏「・・・そうなのですね。柚樹さん、ありがとうございます!」
凄い「要するに」ではあるが、一応間違ってはいない・・・か。正確にはPSは故障していた訳ではなく、単にケーブルの問題だったのだが、細かい事はどうでもいい。天美さんは、テレビ画面と俺を交互に見て、少し笑みを浮かべる。ちょっとした微笑ではあったが、それはとても眩しく思えた。そして、
天美「お兄さん、機械の修理は得意でもゲームは苦手?」
七夏「こ、ここちゃー!! 柚樹さん、すみませんっ!」
時崎「・・・実は、今、それを実感していた所で・・・天美さんはゲーム得意なの?」
天美「まあ、お兄さんよりは良い点数取れると思うけど」
天美さんが乗ってきたので、俺は無言のままPSコントローラーを天美さんに差し出す。天美さんはPSコントローラーと俺とを交互に眺めつつ・・・少し考えた後、笑みを浮かべながらPSコントローラーを受け取る・・・そして、
天美「ざっと、こんな所かなー」
時崎「う、上手い!」
七夏「ここちゃー凄いです!」
言うだけの事はあって、天美さんは俺より遥かに高い点数を叩き出し、頑張ってやっとランクインしたばかりであった俺の点数は、ランク外に蹴り出された。
時崎「・・・参りました」
天美「お兄さんも、ガンバレー」
時崎「がんばれー・・・って、言われても」
天美「じゃ、あたしに勝てたら、いいのあげるよ♪」
時崎「え? いいのって?」
天美「それは、あたしに勝ってからのお楽しみって事で!」
時崎「勝てそうな気がしない・・・」
天美さんの叩き出した点数によって「新楽曲」と「新衣装アイテム」が開放されたようである。新楽曲は遊べる楽曲が増え、新衣装アイテムは、このゲームに登場するキャラクターに着せるアイテムのようだ。
天美「おっ、何か新アイテム来たよー」
七夏「わぁ、可愛いくて綺麗ー!」
何やら二人でこの新衣装アイテムのコーディネートについて、色々試し始めた様子。ゲーム本編そっちのけで、衣装コーディネートに夢中になるのは、やっぱり女の子らしいなーと思ってしまう。
凪咲「あら、みんな揃って楽しそうね!」
七夏「あ、柚樹さんが直してくれたみたいで、とても綺麗に映ってます!」
凪咲「まあ、本当! ありがとうございます! 改めてお礼させて頂きますね」
時崎「いえいえ。簡単な事でしたので、お構いなく」
凪咲「ありがとうございます!」
台所に戻る凪咲さんを見ていると、天美さんが話しかけてきた。
天美「あ、お兄さん、ごめん」
時崎「ん?」
俺は何故、天美さんが謝ってきたのか分からなかったが、少し考えると思い当たる事があった。「機械の修理は得意でもゲームは苦手?」と言われた事。
時崎「俺は確かにゲームは得意じゃないから、気にしなくていいよ」
天美「んー、そうじゃなくて、今朝の事」
時崎「今朝?」
天美「あたし、ちょっと冷たい対応したかなーっと思って」
時崎「初対面だと、そんな所じゃないの?」
俺がそう言うと、天美さんは少し何かを考えているようだ。
天美「・・・つっちゃーの言ったとおりの人で良かった」
時崎「?」
今までの流れから「つっちゃー」が、七夏ちゃんの事・・・つまり、あだ名であるという事は、なんとなく理解できているが、何故その呼び方なのか気になったので、それとなく訊いてみる。
時崎「つっちゃー!?」
七夏「えっ!? は、はいっ!」
俺の言葉に七夏ちゃんが驚き、反応する。しかも、結構恥ずかしそうだ。この事で「つっちゃー」が七夏ちゃんの、あだ名である事は確実となった。
天美「『つっちゃー』は七夏の事」
七夏「・・・・・」
天美「『ななつちゃん』→『つちゃん』→『つっちゃー』かな?」
時崎「なるほど」
七夏「えっと、ここちゃーは『ここなちゃん』→『ここちゃん』→『ここちゃー』です☆」
時崎「そっちは、直ぐに分かったよ」
天美「つっちゃーの他にも『みのちゃー』とかも、あったかなー?」
七夏「こ、ここちゃー! それは忘れて!」
時崎「? みのちゃー?」
七夏「なっ、なんでもないですっ!!!」
俺は七夏ちゃん非公認のあだ名「みのちゃー」が気になったが、七夏ちゃんの様子から、この事には触れてほしく無さそうなので、これ以上追求するのは止めておく事にした。
天美「まあ、そんな訳で、また会えたらよろしくねっ! お兄さんっ!」
時崎「ああ。こちらこそ。・・・って、もう帰るの?」
天美「うん。午後から部活の練習あるから」
時崎「部活?」
天美「そっ!」
天美さんは、鞄の端から飛び出している「ラケット」と、筒のような物の中から羽根を取り出して見せてくれた。
時崎「あ、バトミントン!?」
天美「あ、お兄さん『バドミントン』ね」
時崎「あ、バドミントンなのか・・・」
天美「そうそう、あっ『羽根つき』って思った!?」
時崎「いや、羽根つきの印象もあるけど、スポーツ競技としては、スピード感があるよね。スマッシュなんかは目に見えない速さだよ」
天美「おー、お兄さんっ! 分かってる!」
時崎「いや、今、バドミントンで知ってる事を全てさらけ出したんで、これ以上は無いよ」
天美「あははー。それだけで十分だよー」
七夏「えっと、羽根つきは、羽子板になりますね」
時崎「羽子板! 確かに!」
天美「ちなみに、羽根の事はシャトルって言うんだよ」
時崎「シャトルか・・・なるほど」
天美「それじゃ、失礼しまーす!」
天美さんの大きな声で、凪咲さんが姿を現す。
凪咲「天美さん、またいらしてね」
天美「はい。凪咲さん! つっちゃーも、またねっ!」
七夏「はい☆」
天美「お兄さんも、また会えたらねっ!」
時崎「あ、ああ」
天美さんが帰ると急に静かになった・・・と思うが、こんな事を考えては天美さんに失礼かな。俺の思ったとおり、天美さんは、とても明るく爽快な女の子で、天美さんと一緒に過ごす七夏ちゃんは、俺と話す時とはまた違って、とても自然に輝いて見えた。また天美さんとも楽しく過ごせる機会があるといいなと思った。
凪咲「柚樹くん、七夏。お昼にしましょう」
凪咲さんの言葉で、壁の時計を見ると、長針と短針が縦一直線になっていた。
第六幕 完
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次回予告
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・
次回、翠碧色の虹、第七幕
「翠碧色の虹」
自分が正しいと思う事なんて、自分の中だけでしかない・・・俺はそれに気付かされた。
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