天国へ行こう!
夏川 俊
第1話、ここは、どこ?
・・・僕は、死んだらしい。
あっという間・・ というよりは、あっけない最期だった。
これが、死と言うものか・・・
ま、別段、この世に未練があったワケじゃないし、もう試験勉強なんぞ、しなくてもいいんだから、楽かも。
強いて言えば、彼女の1人くらい、作っておきたかったな。
もし、いたら・・・ 死んだ僕の為に、泣いてくれたかな?
いや、さっさと、他のカレ氏を見つけて、ルンルンになってたかも。
ヤだな、そんなの。
・・じゃ、いなかった今の方が、いいか・・・
どうでもいいが、ココは、どこだ?
辺り一面、霧の中だ。 薄明るく、寒くもなければ、暑くもない。
何の音も、聞こえない。
・・僕は、ビニールボールを追って、道に飛び出して来た、5歳位の女の子を
助けようとして、死んだ。
トラックが来てたんだ。
とっさに女の子を抱き抱えて・・・ トラックに跳ねられて・・・
あの女の子、無事だったのかなあ。
『 ママ~、このお兄ちゃん、寝ちゃったよ~? 』なんて、言ってたから、多分、無事だろう、うん。 良かった。
・・と、言う事は、ここは、天国への入り口か?
天使は、いね~のかよ、天使は。 超美人で、イケてる天使は?
僕は、しばらく、ボ~ッとしていた。
何とも、安らいだ、いい気分だ。 そう言えば、ちょっとハラが減った。
「 天国にも、マックあるかな? 」
僕は、ズボンのポケットの中のサイフを探した。
「 天国って・・・ 円、か? 」
もし、ドルだったら、どうしよう。 今、相場は、どのくらいだったっけ?
いや、天国なんだから、無料に決まってる。 そうでなきゃ、天国の意味が、ないじゃんか。
・・そうだよな・・・! すげ~な、全部、タダかよ! プレステも、あるかな?
僕は、ワクワクしながら、勝手な想像をしていた。
着ている服は、事故当時と同じ、学生服。
黒のズボンに、校章の付いた、白いカッターシャツ。 お気に入りの、コンバースのスニーカーを履いていた。
「 ・・・どっちに行けば、いいのかな? 」
辺りには、何も無い。
天国の入り口が、どこかにあるはずなのだろうが・・・ 何もないぞ?
真っ白なモヤが、立ち込めているだけで、方向すら分からない。
僕は、しばらく、その場に座り込み、迎えを待つ事にした。
誰か、迎えに来てくれるに違いない。 多分、そうだろう。
きっと、天使が来てくれるのだ。 カワイイ、超美人の天使が・・・!
・・・でも、誰も来ない。
「 ったく、どうなってんだよ・・・! どっかに、階段でもあんのか? 」
改めて、回りを見渡したが、何もない。
足元の地面は、フワフワした感触で、土ではなかった。
「 ゴムか? いや、プラスチックかな? 」
僕は、指先で地面をほじくってみた。
「 やめんか、少年・・! 地面をほじくるんじゃねえ! 」
突然、後ろから声がした。
びっくりして振り返ると、そこには、身長2メートルくらいの、大男が立っていた。
ハデなアロハを着て、顔色は浅黒く、ヒゲ面。 ボサボサに伸びた長髪に、サングラス。 白っぽいチノパンのようなズボンを履き、頭には、アーミーの、ブーニーハットのような帽子を被っている。
「 ・・あ、あんた、誰だよ? 」
大男の風体に、少々、ビビリながら、僕は、その大男に尋ねた。
「 ん? オレか? オレはな・・・ シャアだ 」
「 ・・・・・ 」
「 ガンダム、知らんのか? おまえ 」
「 ・・・は? い、いや・・ 知ってるケド 」
「 ザクとて、それくらいの芸当は出来るっ! ドピシュッ! ドピシュッ! 」
大男は、何かに向かって、銃を撃つような格好をした。
・・こいつは、アホだ。
多分、普通にアホなのだろう。 おそらく、悲しくなるくらいにアホだ。
「 あの~・・・ シャアさん? 」
「 誰が、シャアだとっ? おのれぇ~・・ さては貴様、幕府の回し者だなッ? 松蔭先生は、我らが、お守り通す! 」
・・何の設定・・?
アホな上に、情緒障害まで、きたしていらっしゃるようだ。
でも、心はピュアなのだろう。 だから、天国に来たのだ。
・・しかし、厄介だな。 どう、対応すればいいのだろうか?
とりあえず、僕は、彼に合わせてみた。
「 落ち着きたもんせ。 おはん・・ 坂本はんの、お身内の方とは、違いもすか? 」
「 おおっ! 貴殿、薩摩藩のお方でおわすかっ?! 」
大男が、喜んで答える。
「 いかにも 」
「 して、ロシアのバルチック艦隊は、どげんしたと? 」
・・は? いきなり、時代が数十年、飛んだように思えるが・・・?
僕が困惑し、迷っていると、大男の顔は、みるみる修羅の形相を呈して来た。
「 ・・何ち・・! 旗艦、三笠に着弾だとうっ!? 東郷元帥閣下は、どげんされたとッ!? 」
・・・イカン、ついて行けん・・・
しかし、この男、歴史に、かなりの執着があると見える。
ふと、大男は、何事も無かったかのように、真顔に戻った。 ポケットからメモ帳を取り出し、先っちょに、消しゴムが付いたチビた鉛筆で、何やらメモりながら僕に聞いた。
「 さて、少年。 迎えに来た。 名前を聞こうか? 」
・・おいっ、そう来るんかよ! むっちゃ、前置きの長いギャグ、かましおって!
しかし・・ このムサ苦しい男が、天国への案内人だったとは・・・!
・・いや、待て。
コイツ、本当に天使か? 僕と同じく、天国へ来た新入りで、僕をからかっているのかもしれないぞ? 大体、天使たる者が・・ こんな、ダウンタウンのヒッピーのような格好をしているはずが無い。 頭の上に、輪っかも無いし・・・
僕は、その男に尋ねた。
「 その前に・・ あんた、誰よ? 」
僕の問いに、男は、ニヤリと笑った。 ポタリと、メモ帳と鉛筆が、大男の足元に落ちる。
「 ・・いい度胸だ。 来な・・! 」
男は、今度は、カンフーの構えをしながら、ほっ、ほほうっ? と、奇声を上げている。
・・何で、そうなるんだよ。 僕が、ナニしたっての? オッさん・・・!
「 ・・もう、いいよ。 僕、アッチにいってるね? じゃ・・・ 」
あの体格だ。 本気に相手したら、ボコにされるに決まってる。 なんせ、ヤツの毛むくじゃらの腕は、ゆうに僕の、太ももくらいは、あるのだ。 こんなヤツと、天国と一緒じゃ、先が思いやられる。 相手にしないでおこう。
そう思って、歩き出した僕の頭に、男は手を乗せ、僕の髪を、くしゃくしゃさせながら、言った。
「 はっはっは! 少年、すねるなよ 」
すねとらん。 相手にしたくないだけじゃ、ボケ。 あっち行け。
僕は、男が『 少年 』というのが、気に食わなかった。
何か、彼の方が優位に立っているようで、少々、ハラも立って来た。
「 オレにはな、天野 進って、名前があるんだ。 少年、って言うな! 」
彼の方を向き直り、僕は言った。
「 天野 進? はて・・ 連絡には、無い名前だな 」
何じゃ、その、連絡っつーのは? また何か、ギャグを考えてるな、コイツ。
「 あんたこそ、何て名前なんだよ? 」
彼のギャグを阻止すべく、僕は、尋ねた。
「 ん? オレか? オレはな・・・ 」
やめろよ・・? おい。
「 オレ様はな、地獄に来たヤツを、閻魔様の所へお連れする案内役の鬼で、サンダス、ってんだ 」
やっと、彼は名乗った。
「 ふ~ん、サンダスってのか・・・ って、待て、おいっ! 今、地獄って言ったか? 」
「 ああ、ここは地獄の1丁目だ。 あっちに行くとね、パン屋さんがあってね。 おいしいんだよ? 」
「 パン屋なんか、どーでもええっちゅーの! 」
「 でね、でね、こっちに行くと、遊園地があるよ? 」
「 ふざけんな、てめーっ! 何で、地獄なんだよ、おいっ! 」
サンダスと名乗った彼は、きょとんとして答える。
「 ・・知らないよ、そんなの。 あんた、自分でココに来たんだろ? 」
「 気が付いたら、ここにいたんだよ! 僕は、小さな女の子、助けて死んだんだぞ? だったら、フツー、天国行きだろが? 」
「 女の子? 」
「 ああ 」
「 うぷぷっ・・! スキだね、あんたも。 ロリコンなの? 」
・・・刺すぞ、お前。
サンダスは、首に掛けていた長いストラップを引っ張り、携帯( スマホではない )を出すと、どこかへダイヤルした。
「 あ~、もしもし? 死神、いる? ・・出掛けてんの? あ、そう。 ちょっと、聞きたいコトあるからさあ・・ 折り返し、返事くれない? うん、そう。 1丁目。 ・・あ、それからさあ、カマゆで地獄なんだけどさ、タオルが無いってさ。 うん、シャンプーも切れてたな・・・ いいよ、安いので。 リンス・インで、いいじゃん。 頼むよ 」
・・・この男は、一体、ドコへ電話しているのだろう・・・? まるで、温泉旅館の管理課に問い合わせしているようだ。
サンダスは、携帯を切ると言った。
「 ちっ・・ もう、電池切れかよ。 そろそろ、電池パック、新しいのにしなきゃな。 ははは・・! 」
僕の方を向いて、にこやかに笑う、サンダス。
ははは、じゃない。 その携帯は、誰が、電波提供しているのだろうか・・・? 『 あの世で 』流通しているサーバーなんて、聞いたコトない。
サンダスは、アロハの胸ポケットから、マイセン( 旧銘柄:マイルドセブンの事 )を出すと、百円ライターで、火を付けた。
ひょいと、タバコを1本、出しながら、僕に聞く。
「 吸う? 」
「 いるか、そんなモン! 」
「 どうやら、死神の手違いらしいな。 あのアホ・・ たま~にやるんだよな。 まあ、連絡、すぐにあるだろうから、待ってようぜ 」
そう言うと、サンダスはウンコ座りをして、タバコを吹かし始めた。
この男から見ても、アホな死神なら、相当なアホと言う事になる。
僕は、心配になって、サンダスに聞いた。
「 大丈夫かなあ・・・! オレ、ホントに、天国に行けるのかなあ・・・ 」
煙で、輪を作りながら、サンダスは答えた。
「 しばらく、遊んでったら? カマゆで地獄、面白いよ? 」
そんなん、見たくもないわっ! 僕は、早く、キレーなお姉さんたちと、優雅に、お茶でもしたいのだ。
「 そう言えば、獄長が、逆落とし谷のフロント、探してたなあ。 どう? 時給、結構イイよ? 寮もあるし! 」
・・なんで、地獄くんだりまで来て、住み込みバイト、せにゃならんのだっ! しかも、金が流通しとるのは、どういうこっちゃ?
僕は、吐き捨てるように言った。
「 こんなトコ、1秒もいたくない! 早く、天国へ案内してくれよ 」
「 まあ、待てよ。 そう焦るなって 」
腰にブラ下げていた携帯灰皿を取り出し、吸殻を入れるサンダス。 風体に似合わず、結構、几帳面なところもあるらしい。
やがて、サンダスの携帯が鳴った。 着メロは、ルパン三世である。
「 おう、死神! ドコ行ってた? 何? クソ? お前なあ・・ また、ヘンなモン、拾い食いしたんだろが。 ・・はあ? 賞味期限切れ後、2週間経った草餅・・? バカか、お前 」
ああ・・ やはり、アホだ。 しかも、想像通りの、かなりのたわけだ。
サンダスは、続けて言った。
「 いいから、はよ来い! お客さんが待っとるんだぞ! 速攻、ダッシュな! 」
僕は、『 お客さん 』らしい・・・
携帯を閉じたサンダスが、僕に言った。
「 もうすぐ、来るぜ。 野郎、ハラ壊しやがって、トイレで唸ってたらしい。 仕様の無いヤツだ、まったく! 」
・・・お前もな。
僕は、『 死神 』のキャラに、一抹の不安を覚えつつ、とりあえず『 迎え 』とやらを待つ事にした。
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