ゆらりゆらら

 防波堤の上を歩いていた。夜。波の音に慣れてしまえば、冬の海はとても静かだ。中途半端な形の月が後ろから僕らを照らす。車道に落ちる影。僕のコートと彼女の髪が、風を受けて膨らんでは萎む。潮の匂いも冷たい。

 腕に硬いものが当たる。振り返ると、彼女がペットボトルを差し出していた。

「この場所?」

「うん」

 彼女はうなずいて足元を指差す。小さな白い丸のしるしがペンキで描かれていた。

「開けるよ」

「うん」

 今夜のために用意した炭酸飲料だ。フタを回すとプシュッと軽い音がして、透明な液体の中を細かい泡が上った。そのままフタを外して彼女に渡す。

「先にいいよ」

「ありがと」

 受け取った彼女は一気に半分飲み干す。その残りを僕はやっぱり一気に飲み干した。ほんの少しだけ甘い。

 海に向かって立ち、僕らは手をつなぐ。

「せーのっ」

 掛け声に合わせてジャンプする僕らを、たくさんの細かい泡がするすると宙に押し上げた。シュワシュワと弾ける泡の上から海を見下ろして、僕らは笑顔をかわす。空のペットボトルに月光を集めてもっと遠くまで行こう。




終わり

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