第23話 真紅の闇を乗り越えて

世界が平和となる時が来るとするのなら、

それは人類が絶滅する時であろう。

一人の灯りが消える時が来るのなら、

それは人類が過ちを犯した時だろう。

もしも世界から争いがなくなるとしたら、

それは人類が人類に勝利する時であろう。


第三節 スタークジェガン編


第23話 真紅の闇をのりこえて


「私たちは人類を蘇らせる薬を開発しようとしてるのです。これは、いままで人類が成し遂げることが出来なかったものを、私達が成し遂げるのです」


スタークジェガンはファミレスで酒を飲みながらテレビを見ていた。人類の禁忌。つまりリダイブアッシェントを行う者の増加により、治安の悪化、アドルフの増加。大きな社会問題へとなっていた。この薬の開発は社会問題解消だけではなく、数々の悲惨な死や無念の死を取り返すことが出来る。誰もが待ち望んだ事だった。国家的な計画であり、莫大な予算と人材があったため、この薬は完成するであろうと誰もが予想していた。


「なんだ浮かない顔だなスタークジェガン」


そう言ったのはスタークジェガンの上司のカヤバ・イシグロだった。


「先輩・・・来てるなら言ってくださいよ」

ははは、とカヤバは笑った。

「それで?なんでそんな顔してるんだ?」

「そうですね・・・こんな薬、出来ていいのでしょうか・・・」

スタークジェガンは少々気になっていた。スタークジェガンも親を戦争でなくし、兄は心臓発作で倒れた。そんな過去を持っているから、逆に本当にいいのだろうかと思ってしまう。

「良くも悪くもない・・・かなぁ。人が人の行いを否定することなんてできないからね。それぞれの思いがあるかもだけど、ここは抑えるところだよ。まぁ・・・正直僕も疑わしいけどね・・・」

「先輩もですか・・・私、思ったんです。私も家族を失いましたが・・・それが果たして死んでいった者達へのする事なのでしょうか」

「スタークジェガンは考えすぎじゃないか?肩を楽にしないと、自分の首を絞めるぞ」

「・・・はい、」

先輩も十分すぎるぐらいの過去を遂げてきている。アレクダルア共和国との戦争で沢山の戦友、友人、家族、恋人・・・正直私よりもこの事への感情は高い。・・・何故、割り切れるのだろうか。


翌日の朝。自宅から窓の外を覗くと、そこにはなにか騒がしい集団達がいた。降りてみてその場所へ向かうとそこには見知らぬ人達がいた。肌は白く髪も白く瞳は青い。聞いたことがあった。アレクダルア人はこんな姿だと。だから白豚と呼ばれるらしい。だが、こんな事を先輩が見てしまったら・・・。


「これはこれは・・・大勢の皆さんが集まってくれましたか。有難く存じます。」

黒ずくめに紫の仮面。明らかに怪しい。だが、喋り方と訛りは違和感がない。そしてなにか重みのある声だ。

『おにーさんだーれー?』

少女が声を上げて問う。すると仮面男は優しい声で

「おやおや、私とした事が、失礼。私の名前はアフォンソ・メアシャーク。アレクダルア共和国軍の北方方面総司令官です。以後お見知り置きを」

アフォンソ・メアシャーク・・・。聞き覚えのない名前だ。何故かわからないが、私の心がこいつを危険だと悟っている。なぜ仮面をかぶっているのか、何故、訛っていないのか・・・私たちの国の言語は特に難しい。訛りなしでは喋れない・・・。なにか、何か秘密があるはずだ。そうして彼は手を広げて話す。

「あなた達は、海、を見たくありませんか?」

『海・・・』

私たちの国では海外へ行くことは容易ではなく、海と言うものがなく、海外の文化、情報がない全くと言っていいほど孤独な国だ。海と言えばこの国の人々が口を揃えていう。「死ぬ前には見てみたい」、と。それが現実になるという今、私は先程の彼に対する疑いなど吹っ飛んで、前へでてしまっていた。


「貴方たちは幸運ですね。さぁ、このカプセルへ乗ってください。なにかの持ち込みは許しませんよ。さぁ、乗ってください。」


そう、疑いなど・・・ゼロだ。

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