【カクヨム異聞応募作品】ここが異世界心霊スポット【連載中!】

ちびまるフォイ

どうして連載してしまったのか・・・

「本当にここって出るのかよ?」


「ああ、マジマジ。この城で魔王と勇者一行が戦って、

 その渦中で命を落としたメンバーの幽霊がさまよってるんだ」


「まあ、志なかばで死んだから未練もありそうだな……」


夏休みなので友達とやってきた異世界のとある城。

なかはモンスターはおろか平和になった痕跡もない廃墟同然になっている。


ちょっとした物音もぞぞぞっと鳥肌を立ち上がらせるほど恐怖がぴんと張りつめる。


「くっつくなよ。ホモか」


「うるせぇな。だいたいこういう場所来ると離れたやつから消えるんだよ」


「なに言って……。おい、あっちになんかあるぞ!! 行ってくる!」


「だからそういう死亡フラグたてんな!!!」


怖がる友人を茶化して遊んでいると、奥からガチャンと音がした。


「……なに? 今の音……」


「なぁ、やっぱり帰ろうぜ。野郎だけで肝試しするなんて意味わかんねぇよ」


「男だから肝試すんだろう。恐怖耐性をつけるんだよ」


「お前なんでそんなに余裕なんだよ!」


「とにかく、ちょっと行ってみようぜ」


「お、おい!」


女の子のようにビビる友人の手を引いてより奥へと進む。

外れたままの窓からは夏の生暖かい風が入ってくる。


「このあたりが決戦場だったらしいぜ……。ほら、血の跡あるだろ……?」


「ちちちちち、ちちち、ちげーよ。そそそ、それはただのシミだよよよよ」


友人の声は上ずって震えている。

この緊張感に耐えれなくなったのか友人はじりじりと出口へと引きずり戻っていく。


「もういいだろ。肝試しは十分じゃないか、早く出よう!」


「…………」


「お、おい! 聞いてるのか!?」



「…………大丈夫だよ。ほら、こっちへ行こう」



「ちょっ……! なに進んでるんだよ!! おい!!」


友人からどんどん離れて光も届かない廃墟の奥へと進んでいく。

その足取りはまるで誰かに動かされるかのように不自然で……。



「いい加減にしろっ!!!」



ゴンッ。


後頭部に小さなコンクリートブロックがぶつけられた。死ぬぞ。


「痛ぇ!! なにするんだよ!」


「こっちのセリフだ!! もう我慢できねぇ! 帰るぞ!!」


友人はダッシュでこっちに来たかと思うと、胸ぐらをつかんで出口へ猛ダッシュ。

きっと幽霊も出るタイミングを逃す勢いだった。


友人は額に汗を流し、肩で息をしている。


「ぜぇぜぇ……ふざけ……んなよ……。

 なに"大丈夫だよ"、だ。死亡フラグはもう十分だっつったろ」


「え? 俺そんなこと言った?」


「……あぁ? 言ったよ。俺が聞いてるか、って怒鳴った後に」


「俺は"うん、帰ろう"って言ったじゃん」


「えっ……」

「えっ?」


「じゃあ俺が聞いたあの声は――」



夏なのにやけにひんやりとした空気が背中をなでさわっていった……。









「ぶっははははははは!! なんてね!? なんてね!? 怖かった?!」


俺はついに我慢できなくなって拭いてしまった。

友人は鳩が豆鉄砲どころかガトリングくらったような顔をしている。


「いやぁ、悪い悪い。全部うそなんだわ。あそこは心霊スポットでもなんでもないんだよ」


「は、はぁ!? それじゃ物音は!? あの声は!?」


「地元のゴブリンに協力してもらったんだよ」


「おまっ……。なんて壮大ないやがらせしやがる!!」


「俺なりの愛情表現さ」


「マジで殺すぞ……」


「ここを本当の心霊スポットにする気!?」


かくして友人をことごとくビビらせることに成功した俺たちは近くのホテルに泊まった。



「……なぁ、本当にあそこは心霊スポットじゃないんだよな?」


「しつこいなぁ。よく考えてみろよ。

 チートだの盛りだくさんの異世界勇者がほいほい死ぬと思うか?」


「あ、そっか」


「そうそう。異世界に心霊スポットなんてないんだよ。

 あの城もただの廃墟。だから安心して寝ろ。電気消すぞ」


電気が消えて部屋に暗い静寂がおとずれる。



ドンドンッ。


壁をたたく音がする。



ドンドンッ。


音は近くの床をたたく。近づいている。



ドンドンッ。


ついにベッドを下から音がする。




「はい!! もうひっかかりませんーー!!」


友人は俺の布団をめくって高らかに宣言した。


「んにゃ……んだよ。せっかくまどろんできたのに」


「はいはい。縁起乙。さっきからドンドンうるせぇんだよ。ドラマーか」


「だから……なんだって言ってるんだよ。こっちは眠いのに」


「だったら心霊ごっこで怖がらせるのやめろよ!」


「はぁ?」


身に覚えがない。

というか、1回ならまだしも2回この手のイタズラやるとさすがに友情崩壊の危機になる。


「俺じゃねぇって。本当にさっきの場所はなんでもないんだよ。

 異世界勇者が簡単に死ぬわけないだろ」


「お前じゃなかったら誰が――」



"かけ……"



今度は俺の耳にもはっきりとその声が聞こえた。


わずかに残っていたイタズラ気分も完全にふっとんだ。


「お、おい……今の……」


「本当にあの城は心霊スポットじゃないんだよな!?」


「しつこいって!! 行く前にちゃんと調べたよ!!」


「だったらなんで幽霊の声がするんだよ!!!」




"かけ……かけ……"




声はどんどん大きくなる。

それもひとりじゃない。


ありとあらゆる方向から責めるように複数の声が聞こえる。


「なんなんだよぉ! 俺たちがなにしたっていうんだ!

 あの城はなんでもない場所なんだ! 間違いないんだよ!」


「まさか……心霊スポットは……城じゃなく、このホテルなんじゃ……」




"かけ……ゆるさない……かけ……"



幽霊の声は耳元まで迫っている。


慌ててネットでこのホテルの情報を調べた。




『異世界宿屋"ゆうべはおたのしみ"』


異世界にどこでも登場する宿屋さん。

連載され、完結されないまま消えた勇者の怨念がある心霊スポット。




"かけ……つづき……かけ……"



声が体の内側から聞こえたとき、もう部屋には誰もいなくなっていた。







"かけ……つづきかけ……かんけつさせろ……"



この小説ではときおり忘れ去られたその声が聞こえてくるという……。



\ キャー /

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