第27話
ふわふわと遥か高みに浮いている1枚の羽に、羽に不敵に笑った亜芽の言う意味が分からなくて。だが、それもすぐにわかることになる。
「悪魔だ」と亜芽が言った瞬間、その黒い羽根がめりめりっと音を立てる。だいぶ遠くにいるのに聞こえるということはかなり大きな音なのだろう。そのまま1枚だった羽根が2枚、4枚、6枚と倍に増えていき、1分もしない間に人形の羽根の集合体となった。
「みかちゃ」
「エリ、早くしろ!」
「わかった!」
「「
亜芽の影から出てきた黒蛇がずるずると這いずってツァルツェリヤのもとへ行くとに巻き付く。そしてそのまま瞬きの間に亜芽の姿は消え、蛇も消える。それと同時に。深紅の変わった装飾の刀と緋色の模様が入ったスピードレスブーツ。ツァルツェリヤは赤い7つの防除壁を宙に浮かせていた。
その中でも、1mほどもある赤い円盤が3つ前に出る。それに視界を塞がれたことに、ヒナゲシは文句を言おうとしたが、結局それは口に出されることはなかった。何故なら、黒い羽根の集合体の中から現れた亜芽によく似た人物に黒い羽根の渦で攻撃されたからだ。それを赤い円盤3つが完璧に防いでいたから。
「へ、蛇神殿。あれは……あれはなんだ!?」
「だから『悪魔』だって言ってるだろう? 純血種の王。ってみかちゃんが言ってるよ、ヒナゲシ」
「それはさっき聞いた! ではなぜその悪魔は、貴殿に似た形をとっている!?」
『よう、兄弟。久しぶりだな、最後に会ったのはそう……1000年ぶりくらいか?』
(……はっ! なにが兄弟だ。俺の姿を真似してるだけの坊やが。なめた口きいてんじゃねえぞクソガキ)
「みかちゃん1000年も生きてたの!?」
「何を話しているかわからんがつっこみどころは確実にそこじゃないだろう!?」
どこかずれたところに視点を置くツァルツェリヤに、思わずヒナゲシがツッコミを入れる。
赤い防御壁の隙間から見えたその人物に、勝手な震えと恐怖が止まらない。脳内に直接語り掛けてくるという神業にも恐れが止まらない。
なんだ、あの存在は。なぜ自分たちは狙われている。
恐怖と困惑が最高潮に達しようとしたとき、その答えはツァルツェリヤの中にいる亜芽から返ってきた。
「『あれは『悪魔』。敵対するものの姿を真似、力を真似る化けもんだ。ただ俺のこの契約の力までは真似できないようでな、俺にパートナーがいれば必ず勝てるくらいの雑魚だ』だって」
『雑魚とは……これはひどいな兄弟。こんなにも俺はお前を愛しているのに』
(だから、俺のパートナーを殺すって? はっ、やれるもんならやってみろ。今度こそ、俺は守り抜くぞ。行くぞ、エリ)
「うん! みかちゃん!」
亜芽に『守り抜く』と言われたことが嬉しくて。ツァルツェリヤは元気よく返事をして、大理石の床を蹴って、扉から飛び出す。
と思ったら、空中にいた。
「え?」
(エリ右によけろ)
「うん!」
亜芽の声にあわてて身をそらせば、そこを黒い剣が通り過ぎる。当然上に飛べば落ちるわけで、あわてかけたが自分には羽があることを思いだしたツァルツェリヤはとっさにばさりとその大きな白い羽を広げて空中にとどまることに成功する。
ちっと行儀悪く舌打ちした声が聞こえて、悪魔の方を見れば、その亜芽によく似た……全く同じ面差しを嫌悪に歪めていた。なぜ斬られかけたこちらが嫌悪されているのかよくわからないが。ツァルツェリヤの不思議そうな顔が見えたのだろう、悪魔がぺっと唾を吐いてゴミでも見るような目でツァルツェリヤを見る。
『兄弟に愛されている天使……最悪、最悪、最悪だ。嫌いなものしかない。兄弟をたぶらかした、あの女を殺したいま。兄弟は今度こそ俺のものになるはずだったのに』
(誰がなるかバーカ)
「みかちゃん子どもじゃないんだから……」
亜芽と全く同じ見た目でのその態度に若干不機嫌になったツァルツェリヤ。そもそもがして、亜芽の姿を真似ているところから気にくわないのだ。亜芽を諫めながらも、亜芽が不要というのならさっさと殺してしまおうと剣を構える。亜芽が不愉快になるのなら、そんな存在はたとえ自分であろうともいらないのだから。
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