第1話 都市伝説研究部


 部室棟四階。運動部や吹奏楽部の音を遠くに聞くどこか別世界のような空間。

 そこに『都市伝説研究部』、略して都市伝部の部室はあった。


「こんにちはー」

「みぃちゃんおっそーい!」


 中に入るとすでに同学年の部活仲間が二人。入った途端抱きついてきた小さく愛らしい妹キャラは櫻宮千奈だ。

 本から顔を上げたのは橘京子。清楚な大和撫子に見えて実は体育会系だったりする。

 全部で部員数は五人。あと二人は先輩だ。


「ごめんごめん。掃除と日直でね。先輩たちは?」

「顧問のとこ行ってる。面白い記事見つけたらしいよ」

「へぇ。面白い記事って?」

「神隠し、だって」


 部室の扉が開き、資料を抱えた部長、小鳥遊陵冴が入ってきた。その後ろには副部長の信楽裕樹もいる。


「待たせたな。おっ、彩雅もいるじゃねぇか」


 部長が資料を配る。長身で顔も悪くないイケメンで女子人気をかっさらう。副部長も副部長で女子人気の高い美人系イケメンだ。さらに二人とも細身でキレイな筋肉が付いている。

 つくづくこの部の部員はレベルの高い人ばかりなんだ、と慣れたはずの光景に考えてもしょうがないことを考えていた頭を切り替え、資料に目を通す。

 いや、通す以前に書き出し数行目で書かれていた事件の場所が目に付いた。


「……あれ……ここ……これ、本当ですか?」

「それを調べに行くんだろ。どうかしたか?」


 そこに書かれていた場所は、私が中学卒業まで住んでいた小さな田舎の村だった。

 私は高校入学を機に祖父母の住む田舎から共働きの両親の住むこの街へ引っ越してきたのである。


「ここ……昔私が住んでいたところです」

「そうなの? 嫌だったら場所変えようか?」


 私の態度から行きたくないことを察したらしい副部長がすぐさまフォローを入れる。


「えー! みぃちゃんが住んでた所行きたい! 行こうよ!」


 行ったところで住んでいたときに、影も形もなかったこんな噂がどうにかなるとは思わない。虫も多く、野生動物もいつ出るかわからないような田舎にコンクリートの中で育ったこの人たちが行ったところでデメリットしかない。


「…………こんな田舎に行っても泊まるところありませんし、なんのメリットも……」

「あー、そうだな……じゃあ、野宿か」


 あぁ、ダメだ。こうなってしまっては聞くような人じゃない。普段は周りに振り回されてるくせに一度決めたらなにがなんでも貫き通すこの強い意思。

 それは部長のいい所であり、すごく尊敬しているが、できればこれに関して発揮して欲しくなかった。


「…………わかりました。野生動物も出て危険ですし、祖父母の家をお貸しします。もちろん私も参加しますよ。これで満足ですか、小鳥遊部長」

「ありがとう彩雅! すごく助かるよ!」

「…………計画のくせに……性格わる……」

「京子? なんか俺に言いたいことがあるようだな?」 

「イエ、ナンニモアリマセンヨ」


 部長と京子は親戚で幼い頃から交流があるらしく、よくこんなやり取りをする。

 実は私が言えないこともこうやって言ってくれるからありがたかったりそうじゃなかったり。



 再び資料に目を戻して計画を立てていく。

 おそらくというか、絶対に祖父母宅は大丈夫だろう。会うのは引越し以降初めてだが。そのまま何もない田舎でマイナスイオンでも吸って大人しく帰ってくれればいいのに。


 パンパン。鋭い手拍子の音で視線が一気に副部長に集まる。


「期間はゴールデンウィーク中の四日間予定してるけど、本当に抜けてくれて構わないからね? ご家族大切にしなよ? こんなバカに無理に付き合うことないよ」

「ハァ!? 誰がバカだと!?」

「大丈夫でーす! 妹が部活で合宿行くからどこにも行けないしー」

「兄貴が帰ってくるから家族は家でゆっくりするって言ってたし、参加で」

「えっ? 健人さん帰ってくんの? じゃあ、オレ不参加……」

「何言ってんのかな? 陵が持ってきた話でしょ。そんなことが通用すると思ってるの?」

「はい。すみませんでした」

「今のところ全員参加だね。顧問と話を進めておくよ。陵。記事の概要を説明して」

「えーっと、まぁ、書いてあるまんまなんだけど――」




 〇〇県で起こったといわれている神隠し。四方を山で囲まれた小さなこの村で二年前のゴールデンウィークに一人の女子中学生が姿を消した。警察の捜査も入ったが、手がかりは一向に掴めず、現在捜査は打ち切られている。それまでに神隠しがあったのかは不明だが、全く痕跡も残っていないことから神隠しだと考えられる。




「もしかしたら、忘れられてるだけで昔にも起こってるかもしれないし、面白そうじゃないか?」

「これ、ほんとに神隠し? 実はマジの事件でしたー。とかいうオチ嫌ですよ?」

「まぁまぁ。本当の事件だったとしても、警察が調べてきて出てこなかったんだから、僕たちが調べたところで何も出ないよ」


 それは行く意味あるのだろうか。他の事件を探した方がいい気がする。

 しかし、言い出した京子も信楽先輩の言葉で納得したのかやる気になっている。もう変更はありえないだろう。


「本当にそんな噂聞いたことないですよ? いいんですか?」

「この時期に警察が入ったってのは本当なのか?」


 二年前、私が中学三年生のゴールデンウィークだ。その頃の村の記憶はなぜだか全くない。


「……その時期は隣街の大きな病院に入院してたので村の様子は記憶にありませんね」


 なぜ入院していたのかも覚えてないが、そんなことはどうでもいい。本当に警察が調査していたのなら、村の誰かに聞けばわかるだろうし、記録もきっと残っている。


「そうか……となると、やっぱ行くしかないな!」



 そうして、部員たちが決めた合宿に顧問が反対するはずも無く、無事にゴールデンウィーク中の四日間で行われることが正式に決まった。

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