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「ぎゃっ!?」


 私は勢いあまって大きくのけぞりながら、背中から床に叩きつけられてしまう。


「がはっ!? ご、ゴブッ……リン!?」


 ゴブリンの待ち伏せだ……!

 倉庫の陰に隠れて……不意打ちを仕掛けてきたんだ……!


 しかし、気付いたときにはもう手遅れだった。倒れたところを大勢に囲まれ、容赦ない追撃を受ける。

 ゴブリンたちはよってたかって棍棒のようなもので、人のことを突き出た杭みたいにボコボコと殴ってきた。


 私はたまらず、死にかけの昆虫みたいに手足を縮こまらせて身体を守る。

 最初の一撃で意識がほとんどすっ飛ばされてしてしまったので、叫ぶことも抵抗することもできず、アルマジロのように身体を丸めるだけで精一杯だった。


 重罪人みたいにしばらく殴られ続け、腕や脚の骨が砕けるほど痛めつけられると、もう防御もまともにできなくなる。


 それでもしつこく打ち据えられて、肉の塊を柔らかくするみたいに全身を殴りつけられた。

 身体じゅう火傷したみたいにアザだらけになり、内臓は破裂したみたいにひどく痛みだす。お腹も蹴られて、苦しくて息もほとんどできなくなる。


 そして私は、抵抗する気力まで打ち砕かれてしまった。

 紫色になった手足を投げ出してぐったりしていると……ゴブリンたちはようやく気が済んだのか、ヒィヒィと息を整えながら、棍棒を床にカランと投げ捨てた。


 しかし、イジメはこれで終わりではなかった。

 リーダーらしきゴブリンがギャッと号令を下すと、私は胴上げするみたいに一斉に担がれて、メインルームへと運ばれる。


 襲ってきたゴブリンは六匹いて、私を丸テーブルの上に仰向けに寝かせたあと、それぞれで両手両足を押さえつけてきた。


 私は残った気力で大声をあげようとしたけど、口も押さえられてしまう。

 それでも私は手足を動かし、物音でも悲鳴でも何でもいいから起こして、外に知らせようとした。


 しかし、がっしりと押さえつけられているので身体の自由は全くきかず、口も塞がれているため声もほとんど響かない、くぐもったものになってしまう。


 ウーウームームーと呻き声をあげまくっていると、リーダーゴブリンが私の上に馬乗りになった。

 まるで岩を載せられたみたいに重苦しい痛みがしたけど、それよりもこれから何をされるかのほうが気になってしまった。


 な……何をするつもり……?


 のしかかってきたゴブリンはひん曲がった包丁を手に、裂けた口を三日月みたいに開いて気持ち悪い笑顔を作っていた。

 生贄を見おろす悪魔みたいな表情に、私は嫌なことを思い出してしまう。吹き出た冷汗が、全身をまさぐるように伝い落ちていくのを感じていた。


 め……眼だ……! 私の眼をえぐり取るつもりだ……!

 ここにいるゴブリンたちの狙いがわかった……!


 暴れるアインを見て、どこかに主人がいると考えたんだ……!。

 そしてこの地下にノコノコやってくるのを読んで、待ち伏せをしてたんだ……!


 主人さえ倒してしまえばどんなに強いゴーレムも無力化できる。

 最初はそれを狙ってたんだろうけど、主人がこんな子供だとわかったから、奴隷にすることにしたんだろう。


 私を奴隷にしてしまえば、ゴーレムも無傷で手に入る……!


 そっ、そんなこと、させるもんか!

 やめろっ、やめろっ、やめろっ!

 やめろおおおおおおおおーーーーーーーーっ!


 私は身体をわななかせ、喉が枯れるほどに叫んだ。


 でも、その訴えはゴブリンたちにしか届かない。

 かえって彼らを楽しませただけのようで、ギャッギャッと嫌らしく爆笑されてしまった。


 歪みきった包丁の先端が迫ってくる。目を閉じようとしたけど、指先で強引に開かされてしまう。

 長く伸びた爪が瞼に食い込んで痛い。


 やだやだやだやだやだっ! やだああああああああああーっ!


 目をくり抜かれたら何もかも見えなくなっちゃう! そんなの絶対に嫌だっ!

 パパとママが帰ってきても顔も見れなくなっちゃう!


 助けて! 助けてリコリヌ! 私はここだよ!

 助けて! 助けてってばぁーーーーーーっ!


 しかしいくら声をあげても、応えるのはゴブリンたちの下品な笑い声のみ。

 私は涙があふれてくるのを感じていた。敵の前で涙を流すなんてシャクだったけど、その悔しさも加わって、もう止まらなくなってしまう。


 涙で視界がぐにゃぐにゃになる中でも、サソリの毒針みたいに曲がった包丁がどんどん近づいてきているのがわかった。

 泣いても喚いても逃れられない恐怖に、身体が冷たくなってくる。私の怯えた顔の何が楽しいのか、臭い息がかかるほどに覗き込んでくるゴブリンたち。


 こ……こんな奴らにやられるなんて……悔しい……悔しいよぉぉ……。

 ぱ……パパ……ママ……ごめん……帰ってくるまで留守番、できそうもない……。


 でも、がんばったんだよ……がんばってウサギも狩って、がんばって捌いて、自分の力で肉を食べたんだ……嫌いだった野菜も、自分で作れるようになったんだよ……。


 がんばった、がんばったんだよ……何度も死にかけたけど、リコリヌと一緒に、いっぱいいっぱいがんばったんだよ……。


 不意に、目玉の表面がへこんだ気がした。

 それだけで、グリッと抉られるような感覚に襲われる。頭を鉄の棒で貫かれたみたいな激痛が走った。


 でも動けない。動いた途端にザックリ切れるから、いまは動いちゃダメだ。

 頭がおかしくなりそうなほどの痛みと恐怖。寒くもないのに歯がカチカチ鳴りだす。


 ああっ、終わりだ。これで終わりだ……。

 私はもう、何もかも見えなくなっちゃうんだ……。


 これから一生、真っ暗な中で、ゴブリンたちの奴隷として、こき使われちゃうんだ……。

 そうなっちゃう前に、パパとママの顔、見たかったなぁ……。


 …………さようなら…………。

 さよう……なら……パパ……ママ……。


 私の視界は、まるで水の中に沈んでいくように、暗くなっていった。

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