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 あっ、そろそろお昼か。

 昨日はもう何も食べたくないくらい苦しんだけど、具合が良くなったらやっぱり何か食べたくなっちゃうよね。


 私はリコリヌと一緒に鼻歌を唄いながら家へと戻って、ゴハンの準備をすることにした。

 まずは本を探さなきゃ。


 本は家から少し離れた草原に落ちていた。

 なんでこんなところにあるのかわからないけど、薪と一緒に燃えてなくてよかった。


 昨日採ったキノコは全部燃えちゃったので、また森に採りに行こう。

 そして今度はちゃんと食べられるやつを選んで持って帰ろう。


 水浴びに持っていったバスケットが使いやすかったので、キノコ採りにも使おうとしたんだけど、さっき脱いだ汚れものが入っているのに気づいた。

 先に小川で洗濯をしてから木の枝に干した後、リコリヌと共にゼングロウの森へと向かう。


 目につくようなやつはすでに根こそぎ採ってしまったので、探すのに少し苦労した。

 なんとか見つけたキノコは引っこ抜く前に本を開き、食べれるヤツか食べれないヤツかを調べた。


 昨晩はカラフルなキノコをいっぱい食べたけど、そんな色味の強いやつはほとんど全滅、毒キノコだった。

 しかも本がところどころ破けているせいで、挿絵はあるんだけど説明が読めなかったり、説明はあるけど挿絵がなかったりして、情報不足で選り分けができないキノコがいくつかあった。


 いちかばちか食べてみることも考えたけど、生きたまま地獄に放り込まれたみたいなあの苦しみは二度と味わいたくないのでやめた。

 賭けるとするなら飢え死にするときだけだ。いまは確実に「食べても大丈夫」とパパの字で書いてあるやつだけを集めよう。


 しかし……探してはいるんだけど、食べられるキノコってあんまりないんだね。


 パパ特製のキノコ図鑑のなかに「食べると絶品」というそそられる説明文のヤツがあった。

 それは「タツマケ」といって茶色くて小ぶりで、タツという木の根っこの近くに生えるらしい。


 これは食べなきゃと思って探してみたんだけど、いくら探しても見つけられなかった。

 よく読んでみたら今の季節には生えてないと書いてあってズッコケそうになる。


 しかしタツマケを探している合間に、他のキノコを手に入れることができた。

 図鑑で「くせは強いが食べるとおいしい」らしい「ターシケ」というキノコだ。


 たしかに木の皮みたいな独特な見た目で、ニオイもタマネギの親玉みたいな強烈なのを放っているけど、大きくて食べ甲斐がありそうなヤツ。

 リコリヌもニオイが気になるのか、横から顔を突っ込んできてヒクヒクと鼻を動かしていた。


「……あなた、このキノコのニオイを覚えて、探せる?」


 ダメ元で聞いてみたら「ウワン」と鳴き返してきた。

 「ウワン」は「うん」という意味だ。


 リコリヌは返事をするなり地面を舐めるように鼻をくっつけて、フンフンやりだした。

 そのままじりじりと進みだしたので、後をついていく。


 しばらくすると切り株にたどり着き、リコリヌは切り株の上に乗ってお座りした。

 「ここにあるの?」と尋ねたら、自信に満ちあふれた様子で「ウワン」と即答する。


 本当かなと疑いつつも目を凝らしてみたら、ターシケが切り株の間に挟まるようにしてぎっしりと生えているのを見つけた。

 偶然にも切り株がターシケと同じ色だったので、ここにあると教えられなければ素通りしてしまうところだった。


「おおっ! リコリヌ偉いっ!」


 切り株の上のキノコハンターは、大物を仕留めたみたいに鼻を高くしている。

 その態度に見合うお手柄だったのでいっぱい撫でてあげると、切り株の上に寝転がってお腹を見せるくらい喜んでいた。


「よぉーし、今日のお昼はターシケ焼きだ!」


 と張り切って、切り株の合間からターシケを引っこ抜いてバスケットに収める。

 たくさんあったけど、とりあえず今日の昼と夜に食べそうな分だけ採った。


 私はお腹が空いているときはつい欲張っちゃうんだけど、いつも食べきれずに残しちゃうんだ。

 パパとママが帰ってくるんだったらそのやり方でもいいのかもしれないけど、明日になっても帰ってこないかもしれない。


 だからこうやって残すようにすれば、明日になってもまた採りに来ることができる。

 自然の食料庫になるってわけだ。


 私は必要なだけのターシケを採ったあと、家に戻ることにした。

 お手柄のリコリヌはご褒美がわりに抱っこして連れて帰った。犬だと重すぎて無理なので、もちろん猫になってもらって。


 家に着いて、さぁゴハンを作ろう! と思ったけど薪がないことを思い出す。

 わずかな望みをかけて地下室の倉庫を覗いてみたけど、もう薪は残っていなかった。


 でも着火用の小枝が床に散らばっているのを見つけた。

 薪や枝は明日にでも森から採ってくることにして、今日はとりあえずこれをかき集めてキノコを焼くことにしよう。


 床から拾い集めた小枝を半分だけ持ち出して、家の跡地の地面にパサッと置く。

 マッチで火をつけてみると、着火用の枝だけあってすぐに燃え上がった。さすがという所だけど、感心しているヒマはない。


 火つきのよい枝はすぐに燃え尽きてしまうので、さっさとターシケ串を作り、軽く塩をまぶして炎の中に突っ込んだ。

 ちなみに砂糖は昨日燃えて炭になっちゃったんだけど、塩はなぜか燃えずに残っていたので再利用できた。


 ターシケは火に包まれると、パチパチと弾けるような音をたてて、汗をかいたみたいに雫を浮かべた。

 焦げたタマネギみたいな独特のニオイがあたりに漂う。タマネギ自体は好きではないけど、嫌なニオイじゃない。


 表面に少し焦げ目がついたところで取り出して、フーフー息を吹きかける。


「うん、もう食べられそうだね。じゃあ、いただきまーす!」


 と口に運ぼうとしたんだけど、私の脇の間からリコリヌがズボッと猫顔を突っ込んできた。

 たぶん昨日キノコを食べてひどい目に遭ったのを見ているから、大丈夫か心配してるんだろう。


「安心してリコリヌ。このキノコは食べられるって本に書いてあったから、多分だけど大丈夫だよ。それともあなた、先に食べてみる?」


 マッシュルームの断面みたいなリコリヌの鼻先に焼きターシケを突き付けると、フンフンとニオイを嗅いだ。

 それで大丈夫だと思ったのか、それとも飽きてしまったのか、プイとそっぽを向いてしまった。


 リコリヌは人間の食べ物には興味がない、というか食べられないとパパが言ってた。

 食べるのは家の外にある、自動給餌器から出てくる専用のゴハンだけだって。


 あぁ、私にも決まった時間にゴハンをくれる仕掛けがあればいいのに……なんて心の中でぼやきつつ、串にかぶりついてみる。

 水気が多くて、噛むと独特な風味のあるエキスが口いっぱいにジュワッと広がった。


 ……あ! これ食べたことある!


 これのカサの裏に変なソースを乗せて焼いたやつを、パパがお酒といっしょによくつまんでた。

 あまりにおいしそうに食べてたからひとつもらったことがあるんだけど、苦くて変な味だったんだよね。


 あの時はすごくマズいと思ったけど、今食べてみるとそれほどでもない。むしろおいしいくらいだ。

 なんでだろう? あのソースがマズかっただけなのかな?


 ま、なんでもいいか、と深く考えずにハフハフと焼きターシケを頬張る。


 お腹を壊した食べ物って嫌いになっちゃうってよくいうけど、私にそれは当てはまらない。

 好き嫌いはするけど、一度好きになったものは嫌いになることはないのが私のいいところだ。

 友達でもそう、一度仲良くなったら嫌いになることはない。その人のいい所を知ってるから、いくら意地悪されたって嫌いになんかなれないもんね。

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