第28話 最後の壁
【陽光公園】
「遂に……遂に帰ってきたわ! 陽光町!」
「いよいよって感じだな!」
パレットと赤い髪の少年は、ハイタッチをして喜びを噛み締める。
「あとは陽光町の神社に行って、道場であのハゲを倒すだけね!」
「ミニGPから1週間、僕が特訓に付き合ってやったんだ。これで負けたら承知しねぇぞ?」
「off course《当然よ》!」
パレットと赤い髪の少年は、ハイテンションで陽光神社へと向かった。
パレットたちが石段を全段登りきると、傷だらけの屈強なハゲが赤い鳥居にもたれかかっていた。
「ウリエル!」
赤い髪の少年は、思わず駆け寄った。
「ウハハハ……お前らか……情ねぇとこ見られちまったな……」
「ボロボロじゃねぇか! 一体誰にやられたんだ……!?」
「すまねぇ……道場を
屈強なハゲは鳥居に捕まりながら立ち上がろうとするが、バランスを崩してガクッと片膝をついた。
「乗っ取られただって!? 一体誰に……」
「ヴァルカネル……いや、鋼帝国軍海軍大将を名乗る、『ロイ・ヴァルカン』だ」
「ヴァルカン……!?」
パレットは驚きのあまりか、開いた口が塞がらない状態になっていた。
(すっかり存在忘れてたわ……)
かつての命の恩人が敵に回ったことに、ショックを隠しきれないのであろう。
「それだけじゃねぇ……ヴァルカネルの野郎、女神様から頂いた大切なバッジも捨てていきやがった……」
屈強なハゲは、『L』の字が刻まれたバッジを握りながら、悔しそうに地面を拳で殴った。
「ヴァルカネルの野郎、きっと『4LDK』が気に入らなかったんだ……女神様の思いつきの糞だせぇネーミングの称号に嫌気がさしてやがったんだ……」
「ウリエル……」
辺りは深刻な雰囲気に包まれていた。
パレットはその空気を打開するべく、叫んだ。
「あたしがヴァルカンを倒す!!」
「なに!?」
「なんだと!?」
屈強なハゲと赤い髪の少年は、パレットに待ったをかける。
「相手はベスト8の1人、いや、ベスト4なんだぞ!?」
「悪ぃことは言わねぇ……ここは大会運営委員に任せろ」
しかし、パレットの決意は揺るがなかった。
「ったく、仕方ねぇな……」
赤い髪の少年は、パレットを止めるのを諦めたかわりに、
「使い方は知ってるだろ? ヴァルカネル様の目を覚まさせてやれ」
「ホッブズ……」
パレットは、たしかにそれを受け取った。
「負けんじゃねぇぞ!」
「気張れよ、金髪公!」
「ええ! 絶対勝ってみせるわ!」
パレットと赤い髪の少年と屈強なハゲは、横に
「……って、付いてくるのね!?」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
陽光神社奥にある道場。
先日の戦いによって、道場は既に半壊状態、屋根も吹き飛ばされており、道場内は太陽光が差している。
道場の中央奥、赤い座布団の上に座禅を組みながら待ち構える一人の人物がいた。
「ふっ……来たようだな」
青い髪の青年、ロイ・ヴァルカンである。
普段とは違う、緑色の軍服に身を包み、『鋼』と刻まれた勲章をしている。
「……しばらく見ぬうちに、いい顔つきになったな、パレット」
「あんたこそ、しばらく見ない間に、いいご身分になったものね、ヴァルカン」
青い髪の青年は足を崩して立ち上がり、パレットへと近づいていく。
「御朱印は全て揃ったか?」
パレットは黙ったまま、黒い御朱印帳を取り出し、青い髪の青年に手渡す。
「……確認した。では、始めるとするか……」
「ちょっと、何か言うことあるでしょ!? 凄いねとか、頑張ったねとか!」
パレットは青い髪の青年の態度が気に入らなかったのか、ムスッと頬を膨らました。
「ルールは
「ねぇ、無視?」
「始めるぞ」
青い髪の青年は、秘宝の入っているズボンのポケットに手をかけた。
ちなみに、
「
青い髪の青年の持つAランクの秘宝から、彼のエース秘宝獣であるザリガニが、Bランクの秘宝からはマンタの秘宝獣が飛び出した。
「聞く耳持たずって感じね……
パレットの持つCランクの秘宝から、矢状の針を持つスズメバチが、Bランクの秘宝からは白いうさぎの秘宝獣が飛び出した。
「ふっ……それが貴卿の新しい秘宝獣か」
青い髪の青年は、口角を緩ませた。
だが、即座に表情を引き締め、声を荒らげた。
「パレット、
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
(A–Z《エーゼット》は射程の長い攻撃を撃ってくる……だとしたら)
「アネット、近距離フォーメーション!」
パレットは柑橘系の香水が吹きかけられた巾着袋を口で外し、手榴弾の要領でザリガニの近くへと投げた。
「無駄だ。ヒコイトマキエイ、『はばたき』!」
空中を漂うマンタは、羽のようにヒレを動かしてつむじ風を起こす。
香りの入った袋、
「くっ……アネット、近距離戦よ!」
パレットが命令しても、スズメバチは人語の指示が伝わらず、動くことができない。
「どうした、道具が無ければ指示も通すことができぬか? ヒコイトマキエイ、続けて『雷撃』だ!」
マンタの秘宝獣は体内で電気を生成し、その身に
「アネット、下がって!」
パレットの命令は通らなかった。が、スズメバチは自身の意思でギリギリ回避する。
(このままじゃマズイ……アネットを下げる?)
『もしかして指示が伝わらないの? だったらボクに任せてよ!』
パレットがスカートのポケットに手をかけようとした時、パレットの脳に直接声が響いた。
「ソル!? そうだわ! あなたの能力があれば……!」
「何かするつもりか? A–Z《エーゼット》、守りを固めろ!」
ザリガニはマンタの前に飛び出し、目の前にバリアを張った。
「アネット、弓を引き絞って!」
『ボクが通訳するよ!』
白いうさぎは瞳を閉じて、スズメバチへと語りかける。スズメバチは理解したのか、針のある弓の器官をギュッと絞る。
「放て!」
——シュバッッ!
スズメバチの毒針が勢いよく放たれた。
「A–Z《エーゼット》、そのままバリアで防げ!」
——パリィィン
毒針がバリアに突き刺さる。しかし、針は貫通することなくバリアに止められた。
……と思った瞬間、超高速で
「なんだと!? あの距離を一瞬で詰めるなど……」
不可能だ。
よく見ると、パレットの秘宝獣、雀蜂のアネットの姿がない。そして、パレットのBランクの秘宝獣、仔馬のサブレがフィールドに出ていた。
「そうか、
「ふふん♪ そういうことよ!」
馬の秘宝獣、仔馬のサブレと入れ替え、ソルの足裏を馬脚で蹴り飛ばしたのだ。だから今、白いうさぎが超高速でバリアに向かって飛来している。
「ソル、『ソウルバレット』!!」
「崩される……! A–Z《エーゼット》、バリアから離れろ!」
「いっけぇぇぇっ!!」
白いうさぎはバリアを突き破り、雷を纏った前足でマンタに突撃した。ザリガニは辛くもその場を離脱して無事だ。
超高速を加えた前足の攻撃が直撃したマンタは、一撃で戦闘不能になった。
「よし、あと1匹!」
パレットが嬉しそうに叫ぶと、青い髪の青年は、一層真剣な表情になった。
「やるなパレット……だが、
青い髪の青年は、銀色の秘宝を取り出しながら言った。
「
Bランクの宝箱から飛び出したのは、草に擬態した、タツノオトシゴだ。
「パレット、本当の勝負はここからだぞ……!」
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