第1話 旅立ちのとき……?
[「さー、秘宝大会決勝リーグ第2試合、『白銀の狩人』こと『菜の花
残り時間はおよそ1分。このままだと両者引き分けとなってしまいますが、果たして勝負の行方は!? 解説の
「はい、両選手とも鳥の秘宝獣を最後に出してきましたねー。特に『
「スピード対ディフェンスの勝負ですかー! 時間がありません! 先に仕掛けるのはどっちだー!?
おおっとー!? 菜の花選手の秘宝獣、『アオハラツバメ』が天高く舞い上がっていくぞぉ!? 解説の雅野さん、これはいったい?」
「『アオハラツバメ』は先ほどの攻防で翼の一部を氷漬けにされておりますからねー。長期戦は不利でしょう。ここは勝負に出たと見て、まず間違い無いでしょうねー」
「なるほどー。たしかに、菜の花選手の表情からは焦りの色が伺えます。
おおっとー!? これはどういうことだ? 白鳥選手の秘宝獣、『白羽鳥』も『アオハラツバメ』の後を追い掛けるように天に向かって上昇していくぞー!?」
「これは私も想定外ですね……ここまで一度たりとも攻撃技を仕掛けてこなかった、ディフェンス重視の『白羽鳥』が、まさか追い討ちを仕掛けに出るとは……」
「「「「「しーらとり! しーらとり! しーらとり!」」」」」
「ウワワワァァァッと!? なんと! 今まで防御型の戦術を取る白鳥選手へ野次を飛ばしていた観客たちが一転、『白鳥コール』だっ!? この大一番での真っ向勝負が、観客たちの心に火をつけたぁぁぁぁ!」
「……? 白鳥選手が何やら喋っております。音声さん、こちらに声繋いでください……おおっ繋がりましたー」
「菜ノ花くん! 全力で来なさい!ワタシも全力をもって迎え撃つ!」
「これは白鳥選手の声! どうやらこの攻防で勝負が決しそうです!」
「セルフィィィィィ!燕墜し《スワローズフォール》!!」
「菜の花選手、『アオハラツバメ』の『セルフィ』に指示を出した!! タイムアップまで残り10秒、一体どうなるん……
おおっとこれは、『セルフィ』、上空からの急降下だぁぁぁぁ!! 『白羽鳥』、翼を交差させて最後の一撃を耐えています! 」
「手に汗握る戦いですねー!」
「いっけぇぇぇぇっ!!」
「菜の花選手、力強く叫んだぁぁぁっ! 果たして勝負の行方は…… CMの後で!」]
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「
「はぁ? ネタバレするのやめなさいよ!」
——ミーンミンミンミンミーン
八月も半ば。金髪のサイドテールの少女、パレットは、ゆうたという元気な小学生の男の子の家で再放送の番組を鑑賞していた。
再放送の番組の内容は、今年の『秘宝獣バトル大会』、通称『秘宝大会』の春シーズン、決勝リーグの試合である。
「あはは……パレットさんすっかり試合に釘付けでしたね。 はいどうぞ、キンキンに冷やしたお茶です」
たくみというおとなしい男の子は、お盆の上に載せた透明なグラスをパレットに手渡す。
「ありがと♪ たくみくんはこのクソガキと違って可愛いわねー」
「痛てて……頭グリグリするのやめろよぉ……」
パレットは元気な男の子をとっ捕まえ、手をグーにして両側から挟み込む。
世界の危機をなんとか回避した彼女たちは、この
「それにしても、どうして乃呑ちゃんは『フェンネル』を使わなかったのかしら?」
パレットは、『白銀の狩人』の異名を持つ黒髪のポニーテールの少女の顔を思い浮かべる。『フェンネル』というのは、その少女の異名の由縁である、6つの小型ファンネルを操るフェンリルのことだ。
「
「あらヴァルカン、いつの間に来たの?」
「今さっきだ」
パレットより年上の、青髪の青年が部屋へと入ってきた。その眼は澄んだ青色をしている。
「たしかに防御を無効化できる『フェンネル』を出していれば、おそらく菜の花に軍配があがっていた。だが、菜の花は『セルフィ』の気持ちを優先させたのだ」
「ん……? 『セルフィ』って、『アオハラツバメ』のことよね? 秘宝獣の気持ちを察したっていうの? 」
『アオハラツバメ』とは、お腹の色が青い藍黒色のツバメのことである。『セルフィ』はその個体のニックネームだ。
「
「ふーん……最初は秘宝獣って人間に戦わせられてる、ってイメージだったけど、ちゃんとルールに基づいてやってるみたいだし、なんかスポーツに近い感覚よね」
「パレット、もしかして貴卿……」
「な、なによ……?」
青い髪の青年、ヴァルカンはガシッとパレットの両肩を掴んだ。
「秘宝大会に出たくはないか?」
「ええっ……!?」
パレットは
「パレットさん、大会出るんですか?」
「いいなー、俺も早く中学生になりたいぜ」
おとなしい男の子と元気な男の子も、その話題に食いついた。その場にいた全員から一斉に視線を集め、パレットはさらに困惑した。
(いきなり大会って言われても……)
「あたし、秘宝獣一体も持ってないわよ? 」
「次の秘宝大会は10月に行われる。今から秘宝獣を捕まえ、育成すれば参加資格には十分足りうる。
(うわぁ……めっちゃやる気だ……)
そう言えばこの人、前シーズンの『秘宝大会』第4位だったんだっけ。とパレットは同時に考えていた。
「……で、その参加資格っていうのなんなの?」
「ああ、順を追って説明しよう。秘宝大会の参加資格は、まず第一に中学生以上であること」
「そこが問題なんだよな……」
「そうなんですよね……」
小学生の男の子2人は、ガクッと肩を落とす。
ちなみにパレットは15歳であるため、こちらの条件は満たしていることになる。
「第二に、各地に点在する道場での『秘宝獣バトル』の試合に勝利することだ。強ければ問題ないのだが、パレットのような初心者の場合、回る順番が鍵となる」
「そこはあんたがエスコートしなさいよね」
「ああ、任せろ。そして最後、三つ目の条件……それは……」
青い髪の青年の表情が険しくなる。パレットはゴクリと息を呑んだ。
「……!? それは……?」
「お寺で御朱印を7つ集めることだ」
「What? (は?)」
パレットの眼が丸くなった。朱印というのは、神社や寺院を参拝した記念に住職さんが押印し、書いてもらえる墨書きのことである。
「それって秘宝獣関係なくない?」
「否、これを見よ!」
青い髪の青年は、御朱印帳を懐から取り出し、パレットに見せた。
「ええっ!? なにこれ可愛い……?」
押印されていたのは、お寺の堅いイメージとは裏腹の、狐や猫などの、可愛い動物をモチーフとした印であった。
「この国、
青い髪の青年は力強く熱弁した。鋼帝国とは、日本のこの世界での呼び名のことだ。
そして、八百万の神の設定はまだ生きていたのだ。
「うん、だいたいわかったわ」
「左様か?……ならばさっそく旅の支度を……」
「その前に!」
パレットは青い髪の青年を静止させた。そして、
「テレビの続き観ましょう♪ ネタバレされたけど」
「あ、ああ……」
まさかの発言に、青い髪の青年は、調子を狂わされた。こうして、パレットたちの堂々巡りの旅が始まる……のであろうか?
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