お題

とりい

ハムスター

想像の遠くへ行く、ハムスターはいつもそうしている。夜中に回し車をぐるぐるしたあと彼女らがきょとんとするのは、あれだけの努力のあと、同じ場所にたどり着くだなんて信じられないからだ。ネズミの眷属は数多くあることを選んだ。多くの生命は多くの試行でもある。そこにはよいもわるいもない。よく試すと少し先が見られる。だましだまし続けていく。ずっと何かを探している。彼女は何を探しているのか。走っても車が回るだけ、降りればまだ壁の中だ。彼女が何かを探しているのなら、探すものがこの外にある。というなら、そして人の手を介してしか外に出ることができないのなら、彼女は嫌でも人を愛さざるをえない。探すことが彼女の宿命であるのなら。生命から逃れるすべはあるまい。彼女は人を愛し、人はそうせざるをえない彼女をせめて愛すことだろう。愛に外側はない。生命にもない。あるのは想像だけ、彼女は走る、人はもがいて帰ってくる。降り立つ、鼻をひくひくさせ、目をこすり、耳をかき、顔を洗う。小屋もエサ箱もそこにある、よく確認をする。その様子を人が見ている。生命が終われば記憶もなくなるだろう。心臓の脈は途絶え、灯っていた意識も消える。そのとき外は見えるか?内側にはきっとむくろが残る。本当は外側はない、あっても別の内側だろう。けれども死の瞬間には、誰かが迎えにくることを期待している、してしまう。きっと叶わないことだろう。けれど当分次の瞬間はある。あるものは使う、想像をする、遠くへ行く。

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