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「わっ……」
「危ねえから」
きょろきょろと周囲を見渡していたために足もとに隆起する結晶に気付かず、転びかけた咲也子をティオヴァルトは後ろから肩を掴むことで止めた。
「ごめん、ね」
「……乗るか?」
「ん!」
しょんぼりと肩を落としながら謝る咲也子に、子ども特有の、まだ完全には作られていない骨のやわらかさに。掴むのがこわくなったティオヴァルトが抱えようかと提案すると、嬉しそうに頷いた。嬉しそうといっても、表情は無から動いていないのだが。少なくともティオヴァルトにはそう見えた。
かがみこんで片腕で咲也子の腰を抱え持ち上げる。もう片方の手には大剣を握って、いつでも戦えるようにしておく。片腕が使えないというハンデを気にした様子もなくティオヴァルトはさくさくと出てきては襲いかかってくる魔物を倒していった。
「いい、子-」
「は? ……あぁ、ありがとな」
すごいなあと思った咲也子はとりあえずティオヴァルトを褒めることにした。ティオヴァルトにとってはいきなり「いい子」と頭を撫でられたことに対して、困惑しかなかったが。意味が分からないながらも、褒められているらしいことはわかったので礼を言っておいた。
その際全力で顔をしかめ、ただでさえ鋭い眼光がそれはもう凄惨なことになっていたが、抱えられている咲也子から見えた耳は真っ赤に染まっていたことだけは確認した。照れているらしいと。
「ほら、ここが祠だ」
水晶がところどころに突出した迷宮内を歩いて10分ほどしたところに拓けた場所があった。そこでティオヴァルトが咲也子に声をかける。
迷宮と同じように結晶でできたティオヴァルトと同じくらい大きい祠は拓けた場所の中心で青く輝いていた。祠自体に荒らされた跡はなく、なぜかその周りだけあまり魔物が近寄らないようだった。
「降ろし、てー」
「ん」
持ち上げた時のようにひょいと軽く咲也子を降ろすと、祠に近づく咲也子の後ろに続いて歩いていく。わくわくとした雰囲気で祠に近づく咲也子の目がまた、青く光っていることに知識を好むとされる`暴食`がうずいているんだろうなと何となく状態まで察することが出来てしまって、ティオヴァルトは複雑な気分になる。
うれしいような、しょっぱいような。微妙な顔をしているティオヴァルトには気付かず、咲也子が水晶でできた祠を開ける。
「とってもきれい、ね」
「そうだな」
祠の青味とは全く違う。あえて言うなら最下層の赤い水に近しい深い色合いの紅石。紅く輝いており、その光の帯が虹色にも見える。しずく型にカットされて祠の中に飾られていた。
自然では絶対に作ることが出来ない不自然な形であるうえ、これは『迷宮の一部』と認定されているらしく、どんな屈強な冒険者たちが持ち帰ろうとしても持ち上がらないという噂だった。だから、最近では迷宮見学を目的とする観光旅行の目玉になっているらしい。確かにそれにふさわしいくらい美しい紅石だ。
「『迷宮の一部』だから持ち上がらねえんだと」
「見るだけでもきれい、よー」
小さい手が涙のしずくと呼ばれる紅石に伸ばされるが、身長的な意味で届くことはなかった。小さい主人がしょぼくれているのも何なのでティオヴァルトはさっきのようにもう1度抱えあげて、祠の中に手が届くようにと近づける。
「ありが、とー」
「ん。触るなら早く触れ」
照れ隠しにぶっきらぼうになってしまったティオヴァルトの言う通り、咲也子は涙のしずくに手を伸ばす。
ひんやりと冷たい紅石の感触とつるりとした表面が気持ちよくて何回もなでる。
「みーたんの泣き虫が治りますよう、に」
「そういうんじゃねえと思うんだが」
願掛けをするものではないのだとその鋭い目を呆れながら言ってくるティオヴァルトに、ううんと咲也子は首を横に振る。なんとなくお願いしてみたかっただけで、特に意味がないことはわかっていたらしい。そもそも神様がお祈りとはこれいかに。
前言っていたみーたんって創世の
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