退室
ロンデル様と話をしてからすぐに、私も医務室から解放された。
それはもう、割とあっさりと。
まあ、元々傷は自分で治していたので、意識が戻ったら問題ないとのことらしい。
部屋に戻ればルーノが嬉しそうに私に駆け寄ってきた。
「……ごめんね、長らく独りにさせちゃって」
謝りつつ抱き上げれば、ルーノは私の頬を舐めた。
まるで、その謝罪を受け入れてくれているかのように。
私はルーノを下ろすと、ベッドに寝転ぶ。
……流石に、疲れが抜けきれない。
今日はもう寝よう……と。
……それから、日常はすぐには戻ってこなかった。
スタンピートによって、生徒は死者こそ出さなかったものの重軽傷者がかなりの数いる。
また無事だった者たちもあのスタンピートの光景に精神が参ってしまって、とてもじゃないが授業を続けることができなかったのだ。
当然、実地訓練の評価は棚上げ。
途中教師と合流することを渋った、あの貴族の坊ちゃん達も五月蝿いことを言わないだろう。
尤も、実はあの訓練で殆どの生徒が教師に回収されたか、あるいは自らの判断で合流していたらしいけど。
私たちのことを回収できなかったのは、単にそれだけ私たちが魔の森の奥深くまで到達していたからだったらしい。
まあ、どうでも良いか。
私は学院を出て街を歩く。
スタンピートの報にどことなく街を歩く人たちの顔色は浮かない。
もうそれは、終息したというのに。
それだけ、スタンピートは人の心に恐怖を焼き付けるのだ。
ひたすら歩き続けて、向かった先はテレイアさんの家。
扉を開けて顔を見せた瞬間、テレイアさんが私の元に駆け寄る。
「良かった……っ!無事で、本当に良かった!」
そう、泣きながらテレイアさんは私を抱きしめた。
……温かい。
そう感じたら、何故だか分からないけれども私の両目からも涙が溢れ落ちていた。
そっと、衝動的にテレイアさんの背に腕を回す。
「……ご心配を、おかけしました」
「本当よ!生きた心地がしなかったわ。貴女まで失ってしまったら、あの子達は……私は……っ」
その優しい言葉に、ますます私は涙で頬を濡らす。
私、まだ生きているんだ。
……生きてて、良かった。
死ななくて、本当に良かった……と心底実感する。
「ありがとう、ございます」
そう、思わせてくれて。
私のことを、こんなに心配してくれていて。
なんて、幸せなことだろうか。
なんて……嬉しいことなのだろうか。
「ごめんね。さ、中に入って」
しばらくそうしていたら、テレイアさんが離れて私の案内をしてくれる。
「ありがとうございます」
私はテレイアさんの後に続いて、家に入って行ったのだった。
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