謝罪
「……失礼するぞ」
ノック音がしたかと思えば、扉が開いてロンデル様が現れた。
「ロンデル様、この度は誠にありがとうございました」
彼の姿を見て早々、私はそう言って頭を下げる。
「いや、礼を言うのはコッチの方だ。お嬢ちゃんがいなければ、今回のスタンピートによって王都に甚大な被害が齎されただろう。よく、あそこで戦い続けてくれたな」
「……いいえ。私一人では成し得ぬことでした。あそこでロンデル様や団の方が来てくださったからこそ、スタンピートは早期に解決することができたのです。本当に、ありがとうございました。そして、申し訳ございませんでした」
「……それは、何の謝罪だ?」
「皆様に、お手間をおかけしてしまったことを」
私のその答えに、ロンデル様は笑った。
「お嬢ちゃんが気にすることじゃねえよ。それにこちらこそ、謝らなきゃならないことがある」
「……何でしょう?」
「実は、お嬢ちゃんの処遇だが……」
言いづらそうに言い淀むロンデル様に、私は笑う。
「私の役どころは何でしょう?逃げ遅れた生徒?それとも、己の力を過信した向こう見ずな生徒でしょうか?」
そう問いかければ、ロンデル様はそうと分かるほど驚いた顔をしていた。
「なんで……」
「少し考えれば、分かることです。この国が、平民の私を認める筈がありませんもの。大方、後から来た視察の貴族の手柄にでもなっているのではないでしょうか?」
「……っ」
その言葉に、ロンデル様は悔しそうに唇を噛み締めた。
「それも含めての、謝罪です。ロンデル様たちに苦労をおかけした上に、そのような微妙な立場に立たせてしまったことを。誠に、申し訳ありませんでした」
多分、一応騎士団に所属しているロンデル様には多少なりとも褒賞があったと思う。
でも私のその予想が正しければ、褒賞の殆どは後から来たその何もしていない貴族に持ってかれたんじゃないかな。
貴族の、面子を保たせるために。
実際に矢面に立ったロンデル様の労苦を、掠め取って。
本当に、この国は歪んでいる。
そしてそうなると分かってロンデル様を指名した私も、大概だ。
でも、あの時はロンデル様しか頼ることができなかった。
他の騎士団員を知らないというのもあるけれども、ロンデル様以外の騎士団長は貴族出身の者たちだけ。
彼らが自己保身に走るのは想像に難くなかったのだもの。
……実際、ボナパルト様の一件は騎士団が関与しているしね。
「……だから、何故謝る?謝るのは俺の方だろう。お嬢ちゃんの功労はなかったことにされた。おまけに、逃げ遅れた生徒なんて不名誉な形にされてしまったんだぞ!?」
「……私は」
怒りを露わにするロンデル様に対して、私は至極冷静だった。
……優しい、人。
怒ってくれるのは、私のことを思って。
私のために、彼は今、この国の上層部に怒りを露わにしてくれているのだから。
「誰かに褒められたかった訳でも、認められたかった訳でもありません。私は、私の守りたいものを守るためだけに、あの場に残ったのです。彼らを守れたのであれば、どのような不名誉な評価を押し付けられたとしても、良いのです」
そう言えば、ポカンとロンデル様は驚いたというか呆気にとられたような表情を浮かべていた。
「ですから、ロンデル様はお気になさらないでください。むしろ目立つことがなくて良いと思っているぐらいですから」
更にそう言えば、大声を出して笑い始める。
「……お嬢ちゃんは、騎士だな」
「私は、男ではないですが?」
「いいや、お嬢ちゃんのそのあり様がだよ。お嬢ちゃんの心意気とその行動そのものが、騎士を体現きていると思ったんだ」
……そうだろうか。
正直、国のためだとか、見も知らぬ人のためだとかは一切考えていなかったけれども。
むしろ、私は私の願いに忠実に動いていただけだ。
「……本当に、ありがとうな。そして、本当に申し訳ない。今日はゆっくりと休んでくれ」
ロンデル様はそう言って私の頭を撫でると、部屋から出て行った。
途中、部屋に残っていたサーロスのことも引っ張って回収をしていく。
「ありがとうございました」
私はその背に向かって、再度お礼を言った。
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