訓練

「……火球」


山の帳が空を覆った頃。

私は平原に突っ立って、的を前に魔法を発動させた。


誰もいない今、遠慮はいらない。

楽な気持ちで、魔法を放った。


そへは真っ直ぐと素早く的に近づき、的に当たった瞬間、火柱がゴウと空へと伸びた。


「……あーあ。やっぱり、難しいな」


昼間、授業で行なった魔法。……皆が発動させていた魔法と同じそれ。

だけど私が力を制御せずに発動させるとこうなる。

威力を制御するのは、本当に苦手だ。


何度目かになる失敗に嘆息しつつ、水魔法を放って消化した。

……放っておいたら、このまま平原が燃え尽きそうな勢いだったしねえ……。


さて、準備運動も終わったし……狩りに行くか。

私は魔法で精製した雷の剣を手に、草原を越えて森の中に入った。

ルーノも、共に森の中を駆ける。

入ってすぐに、ルーノがとある方向に向けて唸り声をあげた。

……警戒の、合図だ。


それからすぐに、魔獣が現れた。

猪型の魔獣……ランクにすると、Dか。

けれどもそれが十以上群れているから、総合評価でCといったところか。


「……行きなさい、ルーノ」


私がそう言うと、ルーノは群れに向かって突進した。

すぐに先頭の魔獣の首を噛みちぎった。

……本当に、ルーノの動きは素早いな。

油断していたら、目で追いきれないほどだ。


一瞬ルーノの戦いぶりに見惚れるも、私もまた、すぐに魔獣に向かって走る。

ここから先、余程のことがない限り魔法は使わない。この剣で近接戦のみという、制限付きの狩りだ。

魔法だけ磨いていたら、近接戦に持ち込まれた時に弱い……体術も鍛えろとはボナパルト様の教え。


あちらこちらから攻撃してくる魔獣に反応し、こちらも攻撃をする。


「……くっ」


突進を避けたものの、完全に避けきれずに腕に掠った。

それでも私は攻撃の手を休めずに、戦い続ける。

数十分後、やっと魔獣を狩り尽くした。


……やっぱり魔法での戦いに比べたら、近接戦は今ひとつだ。

もっと、訓練が必要だ……と決意を新たにする。


「ルーノ、よく頑張ったわね」


そう言って頭を撫でると、ルーノは嬉しそうに目を細めた。

ルーノが狩った分はルーノの食料として、それ以外は組合で換金しようと空間魔法に魔獣の死骸を放り込む。


学園に入学すると仮資格を与えられて、組合に入会することができる。

組合とは、魔獣を狩る組織だ。

魔獣の発現情報を得ることができたり、狩ったそれを換金することができる場所。

やっとそこに、入会することができたのだ。

今までは、ボナパルト様かテレイアさんにお願いするしかなかった。

でも、やっと……ちゃんと自分で稼ぐことができるようになったのだ。


全てを片付け終えると、森を出て怪我した箇所を見る。

前の世では……貴族の令嬢としては考えられないような、傷だらけのこの身体。

けれども、それが誇らしい。

この傷一つ一つが、私の勲章なのだ。


とはいえ、痛いものは痛い。

魔法ですぐさま治療をすると、ルーノに魔法をかけて街に戻った。



組合は街の外れに位置する。

国営のため、建物はそれなりに綺麗だ。

私は受付を済ませると、奥の換金所に向かう。


「クラール、今日も大量だな」


組合で魔獣の死骸を出すと、受付のおじさんは呆れたように言った。

それに対して、どう答えて良いか分からず、結局無言を突き通す。


おじさんは困ったように苦笑すると、計算機を持ってきた。


「猪の魔獣の討伐金は銅貨300枚。今回狩ってきたのは十二体だなら、銀貨3枚に銅貨600枚だな。一儲けだぞ」


そう言いつつ、おじさんはお金を差し出した。


「ありがとうございます」


当初の目標だった、自分の手でお金を稼ぐということ……それを達成したということが、このお金の受け取りだ。

内心踊り出したいほど、嬉しい。

けれども、私の表情筋は固まってしまっているのか、全く顔が動く気配がない。

まあ、別に良いか……と私は受け取ると、すぐにそれを懐の財布にしまい込んだ。


「ここんところ、魔獣の発現が多くなってるって聞く。クラールほど腕があるなら心配はいらねえと思うが、一応、気をつけろよ」


「……魔獣が多くなっているということ?一体、どうして?」


「さあなあ。巷じゃ、聖女様の力が弱まっているっつう話だ」


ああ……と、内心納得する。

そういえば、数年後には聖女選定の儀式が始まるのだ。

それはつまり、先代の死を意味する。


「そっか。……情報、ありがとう」


それだけ言うと、私は外に出た。

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