6.姫琴さんは夢を見た。

6-1.姫琴は眠りの中へ。


 ファミレスを出るとき、葦木くんはわたしにこう囁いた。


『今日寝るときに、俺の名前を呼んでくれ。

 ……え? なにその顔。いやいや、別に変な意味はないぞ。大丈夫だって、寝室に姿を現したりしないから……いや、ほんとほんと、その目やめて!』


 後半は回想する必要なかったかな。

 彼の意図はまだよくわからないけれど、お風呂とドライヤーとスキンケアとテスト勉強とその他諸々を済ませてベットに入る。

 どうしたものか……彼の言葉を無視したら、明日怒られるだろうか。でも変な夢みそうだなぁ……どうしようかなぁ……。

 悩んでても仕方ない。とりあえず要求に応えよう。

 瞼を閉じてひとつ深呼吸をして、一人呟いた。


「葦木くん、今から寝ます……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『やっほー! 姫琴やっほー!』


 う、うわっ! で、出た!


『ちょっ……うわってお前、傷付くぞ』


 あ、あぁと……ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって。

 ここってもしかして……。


『姫琴の夢の中だぞ』


 やっぱりそうなのか。

 葦木くん、何でもありだね。


『悪魔だからな』


 で、どう言ったご用件でしょうか?


『いやほら、さっき話した帆篠のことなんだけど、話すより直接見てもらった方がわかりやすいと思って。

 今から成り行きを見せるから』


 そんなこともできるんだ。


『おう。その前に服着てもいい?』


 ぜ、全裸だったの!?


『まぁ、ほぼほぼ……』


 ほぼってなにさ!? 今葦木くんの姿見えてないんだけど。声だけ何となく聞こえてる感じなんだけど。


『今、現実世界の俺の股間と姫琴の間にうまいこと何かこう……暗黒の物質を出現させてるとこだよ』


 全裸だよ! それ完全な全裸だよ!

 て言うか、わたしと葦木くんの股間を変な感じで繋ぐのやめてよ!

 わたしの見えないところで何てことしてくれてるの!


『そ、そんなに怒らんといて。俺だって好きで全裸になってるわけじゃないんだよ。魔力使うから仕方なく……』


 ご、ごめんごめん。

 やっぱり人間の姿だったり服を着ていたりすると魔法が使えないんだね。


『いや、別に服着てても人間の姿でも魔力はいつも通り使えるんだけどさ』


 じゃあ常に服を着ててよ!


『なんかこの方が盛り上がるんだよね』


 ただの変態だ!


『心がぞわぞわするんだよ』


 だから、ただの変態だ!


『なんだよ、夢の中でくらい好きにさせてよ……』


 わたしの夢の中だよ!

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