パラダイム・シフト

キリン

変貌

「世界が変わる瞬間」を見た事があるだろうか?


いい小説とか映画を見た後などの刹那的な気持ちとかのことを言っているワケではなく、

ホントウに、「世界」そのものがカタチを変えてしまった瞬間のことだ。


今、現在、俺の身にそれは起こりつづけている。

当たり前のようにそこにあったモノが音もなく消え去り、それを気に留めることも無く、

まるで「最初からそんなモノなかったよ」とでもいうように時間がまわりつづけているのだ。


んなアホなことがあるもんか、とお思いになるかもしれない。俺だって思っている。

しかしこの案件は俺にとっても、

そしてあなたにとっても文字通り世界がひっくり返る程の大事件なのだ。

ほんの少しの間だけ、お付き合い願いたい。


つい先ほどの話だ。俺はこの薄暗い四畳半で、サボテンのような無精髭を弄りながら、

ぼんやりと満月を眺めていた。

なんだか雲が速いなあ、などとくだらない事を考えていると、

廊下の奥から大時計が0時を知らせる時報を鳴らすのが聴こえた。

しかし時報というにはそれは大雑把で、もはや号砲といってもいいその音は、その時計がとても古いものだということをよくわからせた。

この音に睡眠を断絶されるのが日頃の常なので、最近はこの鈴報の後に寝るようにしている。


大時計のせいで無意識に入口の方へやっていた視線を窓に戻すと、妙な違和感を感じた。

一陣の夜風が雨樋をガタンと揺らす。

すぐに、この得体の知れない不安の正体に気づいた。

なにが消えてしまったのかは、わからない。

だが、ある人にとっては神に等しく、ある人にとってはただそこにあるなぁという程度の、

非常に抽象的なモノがこの世からただただ消え失せてしまっていた。

なにが消えてしまったのかは、わからない。

それが人間にとってとても重要なものだったということは憶えている。

世界が180度進路を変えてしまった瞬間だった。


俺はしばらく呆然とし、ちょっとだけ声を出して泣いた。自分が遭遇している現象を理解することに努めた。

しばらくして落ち着きを取り戻した後、

一体この世界から何が無くなってしまったのか、考えてみることにした。


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