アラフォーの焦り

葉っぱちゃん

第1話

 よく晴れた秋の日だった。スミレは、美容院の帰り、公園を通り抜けて家に帰ろうとしていた。そのスミレの目の前に、ウルトラマンの絵を描いたゴムボールが転がってきた。見ると、よちよち歩きの男の子が、ボールを追いかけて、おむつをした大きいお尻を振りながら、スミレの方に向かって来るのだった。スミレはボールを拾い上げて、腰を落として「はいどうぞ」と、男の子に手渡した。男の子は、両手を出してヒュッと受け取り、くるりと体を回して後ろにいる母親にボールを投げた。頭に届くか届かないかの可愛い手だった。ボールはストンと目の前に落ちて、母親には届かなかった。母親は走り寄って来て、ボールを拾い、男の子に向かって、ポンと投げた。男の子は小さい手で受け取ろうとしたが、ストンと落とした。

 可愛いなあとスミレは思う。母親の方を見ると、まだはたちになったかならないかの若いお母さんである。お化粧気もなくジーパンとダウンジャケットとスニーカーという今時の若い子のラフな格好だった。お洒落気は全然なかった。

 スミレは何となく、そばの空いていたベンチに座り込んだ。

 さっきの男の子は、ボール遊びに飽きたのか、ボールをほったらかしにして砂場の方によちよちと歩いて行った。母親はボールを拾って、男の子を追いかけている。砂場の中には、何組もの親子が、熱心に山を作ったり穴を掘ったりしている。日曜日なので、父親と子供が遊んでいるのも、見受けられた。たまに、おじいちゃんやおばあちゃんが連れて来ているのもあったが、殆どが若い母親だった。

 スミレは、若い母親が化粧もせずお洒落もせず、顔色が悪く見えるのも平気で、子供に打ち込んでいる姿を見て、あの人たちは幸せなんだなあと思ってしまう。伴侶もなく、子供もいない自分と比べて、なりふり構わず夫の給料でやりくりして、質素な格好しか出来ないが、若い夫もお洒落気のない妻に満足して仲の良い家庭を築いているのだろうと思うと、羨ましくなって来るのだった。

 スミレは、ベンチに腰掛けて、伴侶が欲しい、子供が欲しいと、強烈に思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る