影からはじまる恋愛もよう

ちびまるフォイ

影がつながると・・・

「恋してるか?」


ある日急に影が俺に聞いてきた。


「……してないけど」


「影の俺はしてる」


「そうなんだ」


質問でこそ切り出したが、影は話したかったんだろう。

口の動きは見えないが身振り手振りを交えて語り始めた。


「前にいったレストランで彼女の影を見たんだ。

 美しかった。もう影目ぼれだ。

 あの影と接着することができるならなんでもいい」


「接着って……」


「なぁ頼むよ。もう一度あの影にあわせてくれないか?」


「いいけど。どうする気だよ」


「彼女に告白しようと思うんだ」


「影なのに?」

「影なのに」


俺は自分の影にせかされてレストランに行ってみた。

どの影も同じように見えるけど。



「で、どの影なんだよ? お前の好きな影って」


「あ! 来た!!」


「ご注文、お決まりですか?」


やってきたのは美人の店員だった。

俺の好みの女性のタイプを煮詰めて人間の形にしたようなパーフェクト・ウーマン。

なにより、細い。アンチデブの俺が嬉しさで発狂するスタイルの細さ。


「あの……ご注文は?」


「その前に、少しひなた……そうそう、その位置に立ってもらえますか?」


「はあ」


店員は首をかしげながら日差しにたって影をのばした。

俺の影と、彼女の影が接着している。


その後は取り繕うように注文をして店を去った。

店を出た後も頭の中は彼女でいっぱいだった。


「彼女きれいだったな……」


「だろ!? だろ!? 影がきれいな子は本体もキレイなんだよ!」


「べ、べつにそんなんじゃねーし。付き合いたいとか思ってねーし」


「なんで急に童貞くせぇこといいはじめるんだよ。

 女の子の手もにぎったことないくせに。憧れてるくせに」


「う、うるせぇな! 影だったら少しは本体に敬意を払えよ!」


「それより、これからどうするんだよ」


「また彼女に……会いに行く」


「ストーカーかよ!!」


彼女に会うためだけにまたレストランを訪れた。

長居できるようなメニューを頼もう考えていると、ひとりの男が彼女と談笑していた。


遠目に見ていてもそれがただの友達でないことはわかった。


「おいあれって……」


「彼氏だろうな。影も似てなさすぎるし、兄妹というオチもなさそうだ」


「そんな……」


考えてみれば当然で、彼女みたいに痩せてて美人な人をほかの男が放っておくわけがない。

告白でもしようかと思っていた自分の甘い考えを改めた。


「帰る……」


「おいおいおい! いいのか!? 彼女と距離つめにきたんだろう!?」


「彼氏がいる以上もう無理だ。これ以上俺がやることはいやがらせだよ。

 彼女とは付き合いたいけど、それ以上に彼女の悪者になりたくない」


「はぁ!? 聖人きどりかよ!? 勇気がないだけだろ!?」


影はぎゃーぎゃー言っていたが無視して家に帰った。


翌日、朝日で目を覚ます。

自分の影がひとまわり大きくなっていることに気付いた。


「よぉ、やっと起きたか」


「影。お前、なんか大きくなってないか?」


「当然さ。ひとりぶんの影を吸収したからな」


「吸収!?」


「昨日の夜、町が影に包まれた時間にこっそりあの彼氏の影を吸収した。

 影がなくなったら本体がどうなるか、わかるよな?」


「まさか……!」


本体のいないところに影はできない。

逆に、影がなければ本体もいなくなる。


「そう。もうこの世界に彼氏はいない。お前のライバルは減ったんだ」


「ありがとう影! 俺、もう一度行ってみるよ!」


ふたたび彼女のいるレストランに向かった。

自然と目で彼女を追っていると、たくさんの男が声をかけていた。


「いままで彼女ばかり見ていて気付かなかったけど……。

 こんなにたくさんのライバルがいたんだな……」


俺のように彼女との距離を詰めようとレストランに来ているのだろう。

優しい彼女は誰にでも優しく接している。


もし、あの中に彼女の第二希望の男がいたとしたら……。


「どうする? 本体さんよ」


「全部消そう」


ライバルがいなくなれば俺の告白成功率もあがる。

時間をかけて、彼女の周囲にいる男たちすべての影を吸収していった。


彼女に近づく男が一掃されたころ、ついに告白の日がやってくる。


「大丈夫かよ?」


「もう彼女の周りに男の影はない。断る理由がないはずだ」


影に心配されながら、俺も緊張しながら彼女を呼び出した。



「俺と……俺と付き合ってください!!!」




「えっ……」


「俺のこと、覚えてますか!

 いつも窓際の席に座ってジュースを注文してる……」


「ずいぶん、印象変わられましたよね?」


影を吸収しまくった俺は、肥大化した影のシルエットにそって太くなっていた。


「ダメ、ですか……そうですよね……」



「よろしくお願いします」



「へっ? い、いいんですか!?」


「実は私も前からあなたのことが気になってたんです」


「ふおおおお!! やった! こんなことがあるのか!!」


邪魔な男たちの影を消してよかった。

ついに念願かなって初彼女と一緒になることができた。


「よかったな」


「影。すべてお前のおかげだよ」


「さぁ、あこがれてたんだろ? 手をつなげよ」


「て、照れるな……」


ドキドキしながら彼女の手をにぎった。

別れていた2つの影がひとつにつながる。




その瞬間、彼女の影に俺の吸収した影がつないだ手を介して流れ込んでいく。


彼女の影はみるみる肥大化していった。



「そんな……」


「どうしたの? 私、なにか変わった?」


スレンダーだった彼女は激太りした影にあわせて

力士をほうふつとさせるわがままボディに変わり果てていた。


俺はこの先、彼女を愛せるか自信がなくなってしまった……。

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