第5話 古い家

 古い昔の家。大きな平屋で、古い歴史が感じられる大きな家だった。その十畳は、あるだろう広い部屋の中心で士郎と士郎の母親は、その身を寄せ合っていた。

この夢は、士郎が8年前の出来事だと理解するには、さほど時間がかからなかった。もう夜の更けた真夜中で時計の針は、丁度2時を刺していた。この部屋の3方は、襖に区切られていて襖を開ければ別の部屋に繋がっている。一方の白い障子を隔てた向こう側は、白蛇の庭である。

「しろうぅ……今日も来たよ。遊びに行こう……」

唐突に白い障子の向こう側から少女のような声が聞こえてきた。士郎の母親は、ギュっと身を硬くして士郎の身体を強く掴んだ。

「母さん?」

「行っては、駄目よ。このまま母さんと一緒に居ましょ」

母は、そう言って士郎の身体をいっそう強く抱きしめた。

「でも、友達が来たんだ。遊びに行かないと」

士郎がそう言うと母は、悲しそうな顔で顔を左右に振るだけだった。

「ねぇ、しろうぅ……私この家に入れないから。しろうが出て来てくれないと、一緒に遊べないよ」

白い障子の向こう側からまたあの少女の声が聞こえてきた。

ガタン

っと長屋が揺れた。白い障子が少し開き外の様子が見えそうだった。士郎は、目を凝らして、その隙間から漏れる外の様子に意識を集中した。その白蛇の庭に立つ一人の可愛い少女の姿を士郎の目は、捉えていた。あの時の少女は、朝比奈薫にそっくりだった。あの少女は、朝比奈薫かもしれないと士郎は、そう思った。


 ザクッとした感覚。ジャキッとした感触。士郎の周りには、大人たちが大勢倒れていた。赤い血を垂れ流しながら、30人以上の大人たちが死んでいたのだ。満月の明かりが竹薮の中に居る士郎の顔を照らしつけていた。

「だめだ……ためだ……あの子は、僕の友達なんだ」

誰もその声を聞く者など居ないのに士郎は、そんな事を呟いていた。ふとベットリとした感触が気になって、士郎は、自分の両手を顔の前に持ち上げた。竹薮の暗い中で月明かりごしに見えた士郎の両手は、真っ赤に血の色にそまっていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

士郎は、叫んだ。ありったけの声を絞り出して叫んだ。怖くて、恐ろしくて叫ぶしかなかった。誰かが助けに来てくれる事を願って。

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白蛇の庭 @serai

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