1話 黒い空

「ーーーーで、あるからカゲ人間は人を襲うのである。」

「クソつまんねぇ…」

と、思いつつ、佐藤稔は授業を受けていた。


ここは武蔵第一高校といって、いたって普通のどこにでもある高校である。

そして、佐藤稔はこの学校の生徒であり、いたって普通の生徒だった。彼が入学して、早2ヶ月が経とうと、している時だった。


「ーーーで、人はカゲ人間に対抗すべく、防衛軍が設立されたのである。」

と、先生が流暢にかつ滑舌よく言ったのに対して、興味なさそうに、

「いや、この話入学してきて、何回目だよ…」

稔は心の中で、ツッコミを入れて、窓の外の景色を眺めながら、


「カゲ人間か…」

と、小さくつぶやいた。



ーーーーカゲ人間。それは人間の影の形をした生き物。その姿はまさしく影そのもので、黒い。半年に1回の確率で、この地上に現れ人を滅ぼす。

いつ、どこで、何体現れるかは、わからない。いわば、人の天敵である。


だが、この街には一回もカゲ人間は現れていない。そして、こんな噂が立っていた。「近々この街にカゲ人間が現れる。」とーーーー。



「でもさ、最近は防衛軍の人達が超頑張っているらしいから被害少ないらしいじゃん!」

と、休み時間となり席に座っていた稔に河野咲希が、話しかけてきた。


河野咲希ーーーー。

佐藤稔と幼稚園からの幼なじみであり、出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。あと、そこそこ可愛い。

ホントそこそこ。


あまり興味がなかった稔は「そーだな。」と、適当に相槌をして、窓の外の景色を眺めていた。「もー。」と、言って河野咲希はむくれた。


「ふーんだ。今日放課後に新しく出来たカフェに一緒に行こうって思って誘おうとしたけどやーめた。」

「さいですか。」

むくれた河野咲希の文句に対し、興味なさそうに稔は答えたのだが、稔はあることに気がついた。


「ん?ちょっとまて、今日は避難訓練の日じゃなかったか?」

「あっ、そういえば、そうだったね」

と、河野咲希はうっかりポーズをした。

「あざとい…」

稔は自分にしか聞こえないくらい小声でツッコミを入れた。


ここの学校では月に一回自然災害とは別に、ある事に対しての避難訓練が行われていた。そして、今日がその訓練の日であった。


「だいたい今日は嫌な予感がするから、今日は早く帰った方がいいぞ」

「ん~どうしよっかなー。稔の予感当たるからな~。今日は諦めて、明日行こうー。」

そう言って、コロコロと表情が変わる河野咲希は今はちょっとだけ残念な顔をした。


「しっかし、稔のその予感って、昔からよく当たるよね~。」

「この前なんて、お前今日運がいいから宝くじ買っとけって言われて買ってみたら当たんだよねー。

三千円けど(笑)」

「なんで?」

「知らん。」

と、いった会話をしていたら、急に周りが暗くなった。否、外が暗くなった。


ざわ…ざわ…

教室がざわついていて、一斉にみんなが窓から空を見ていた。稔も暗くなった原因の空を見た。

そして、驚いた。


「黒い………」

空一面が、黒一色に染まっていた。

あまりにも異例な光景でただしばらく黒一色の空を見ていた。

そしたら、突然

「…………くっ。」

稔の頭に激痛が走った。

頭の中に電流が走ったような感覚だった。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

思わず、倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。

「稔、大丈夫!?」

咲希がそう言って支えてきたが、そんな咲希の言葉は稔に聞こえなかった。

稔は激痛と共に、入ってくるある事でいっぱいだった。

そして、激痛はだんだんと、無くなっていったが、頭に一緒に入ってきた方が、衝撃的過ぎて稔は数分間何も出来なかった。

そして、とっさに我に戻った稔は

「学校にいたらまずい!早く逃げろ!とにかく早く逃げろ!!」

と、大声で叫んだ。


ざわついていた教室が、一瞬で静まり返った。数秒の沈黙。

そして、

「いきなり、どうしたんだろ?」

「さぁ?」

とか、ヒソヒソ話が聞こえ始めたのであった。

無理もない。佐藤稔は、さっきも言った通りこれといった特徴もない普通の普通。

ましてや、人見知りのせいでまだ話しすらしたことのない生徒が大半だったからだ。


そんなクラスに見かねた咲希が

「いいから早く逃げなさい」と、大声で一蹴。

そしたら、

「何が何だかわからないが、オ、オレはお前を信じて逃げるぞ!」

「わ、私も!」

と、言ってクラスのみんなが逃げ始めた。

「すまない…」と、謝る稔。

「いいって。そんなことより、どうしたの、いったい…」

咲希が話していたら、


『緊急!緊急!この街にカゲ人間が出現しました!市民の皆さんは直ちに避難してください!

この街にカゲ人間が出現しました!市民の皆さんは直ちに避難してください!』


バカでかい緊急アナウンスが街中に響いた。


「えっ、これって…」

戸惑う咲希に

「オレたちも早く逃げるぞ」

といって、稔は咲希の手を取って逃げはじめた。


幸い、クラスのみんなが学校中に広めてくれたおかげて、学校中の生徒、先生達は避難通路を使って避難しているのを見えた。

階段を降り、逃げ遅れた人がいないか確認しつつ、避難通路がある校門の扉を目指して稔達も走って逃げていた。

手はとっくに離されていて、咲希は残念そうな顔をしていたが、稔の顔は真っ青になっていた。

それを見た咲希は「大丈夫?」と、聞くと、「ああ…。」と稔は答えた。


1階に降り、靴に履き替え、外に出た。

校門の所に扉があり、その扉の先は地下通路になっていて、地下にある避難場所と繋がっている。

先に避難していた生徒、先生の姿はなかった。

玄関から校門までグラウンドを挟みだいたい200メートルぐらいの距離だった。

「あと、ちょっとだ!大丈夫か?」

先に外に出た稔が、靴を履いている咲希に言った。そして、咲希は

「私は大丈夫!だって…」

と、その時、


シューーン。


ドォーーン。



突然何かが降ってきた。

ソレはだいたいグラウンドの真ん中当たりに落ちてきた。

何故か、落ちてきた時の衝撃波はなく、音と砂煙だけが立ち上っていた。


まだ土煙ではっきり見えないのだが、

靴を履いた、咲希が

「これってまさか!?」

「そのまさかだ、な、」


土煙がゆっくりと無くなってきて、人の影のような、どす黒い姿が見えてきた。

避難通路まで、あと少しだった稔達の行く手を阻むようにソレは現れた。


「最悪だ!…もう来やがった!」



「カゲ人間!!」




そうして、カゲ人間は稔達の方をゆっくりと見たのであったーーーー。

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