第3話 人の本性と旅立ち
人は性質を隠し、性格を演じる生き物だ。
好きでもないのに好きだと言い、面白くないのに大笑いする。嫌われなくないから、孤立したくないから平気で嘘をつく。
しかし、演じるということは自分を騙すということだ。それが自分の負担にならないはずがない。我慢し続ければ、次第にストレスに押しつぶされていく。
ゆえに人は弱者(ひょうてき)求める。そして彼らは徒党を組み、弱者(ひょうてき)を悪人に仕立て上げる。善人を攻撃すれば自分が悪人になってしまう。しかし相手が悪人であれば話は変わる。どんなに攻撃しても自分が悪人になることはない。むしろ善人として扱われるまである。
もし悪人(じゃくしゃ)を見つけようものなら、それを大義名分として性質を解放させ、人はたやすく牙を剥くだろう。
それが人の本質であり、性質だ。
しかしその事実を俺は知らなかった。それも
そのはず、人は演技のプロなのだ。呼吸をするように自然と演じることが出来る。それをたった十六年、甘やかされて生きてきた俺が見破れるはずもなかった。
「ねえ聞いた? アルト君外れ能力だったらしいわよ」
「聞いた聞いた。剣技の才能あるからって調子に乗ってたから罰が与えられたのよ。いい気味だわ」
少し前まで、俺の剣技の才能を褒め称えていたおばさんは、俺の不幸を喜ぶ。
「魔法不適合? そんなアビリティ聞いたことねーな」
「きっとアルトは呪われた子なのよ! 息子達を近づけないようにしましょう。そうしないときっと呪いを移されちゃうわ!」
少し前まで、俺のことを神の子だとか、数百年に一人の逸材だとか言っていた女性は、俺のことを蔑視(べっし)する。
「なんでたよ……」
俺の問題で他の人には関係がないことなのに
「なんでたよ……」
一番つらいのは俺なのに
「なんでたよ……」
――なんで俺をさらに苦しめようとするんだよ!
――俺のことがそんなに嫌いなのかよ
――俺の不幸がそんなに嬉しいのかよ
俺は走る。目に見えない何かから必死に逃げる。
――
――――――
――――――――――――
帰省本能と言うやつだろうか。気づけば家の前にいた。
「ただいま……」
「くうっ くっくっ ううっ うっうっ……」
「母さん……? どうしたの」
母さんは目元をハンカチで抑え、蹲っていた。身体をカタカタさせながら震えていた。
…………泣いていたのだ
「あなたのせいよ……」
「え?」
「村の人達、みんな言うのよ。あなたの育て方悪いから、残念な能力に目覚めたんだって。あなたがアルトの才能を駄目にしたんだって。……もう私耐えられない。なんであんたみたいな子を姉から預かったのかしらね? 昔の私が憎らしくてしかないよ」
「……」
「この家から出ていってくれない? あなたがいると私までも不幸になるのよ! だから早く出ていって!」
「どうしてだよ……なんで母さんまでそんなこと言うんだよ……」
「母さんなんて言わないで! あなたは私の子じゃないだから……」
目の前にいる女性は育ての親だが、産みの親ではなかった。俺を産んだ母親は俺を自分の妹に預けて、村を去った。つまり俺は捨て子だった。それも俺が弱者(ひょうてき)になった理由なのかもしれない。
「……ごめん」
俺は謝ることしか出来なかった。
俺は家を出て走る。走って、走って、走り続ける。
そしてたどり着いたのはいつもの丘。お気に入りの場所。
「ウッ……クスッ……ヒック……」
この孤立した世界で俺は泣くことしか出来なかった。いつもと変わらない村を見ながら……
俺は村を去ることを決意した。
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