闇の洞窟

Allen

人間など…

”死ぬ確率が10%の洞窟と、死ぬ確率が90%の確率の洞窟どっちへ行きたい?”




「パパ、そんなの決まってるよ。死ぬ確率が10%の洞窟に決まってるよ」

俺の膝にちょこんと座っている俺の息子サクヤが答える。困ったことにこの子は、俺のことをどこぞの英雄と勘違いしてるようで本当に困る。もう、5歳になるのに困った息子だ。


「俺もそう思った。そして、俺の仲間もそう思った。しかし、それが間違いだった」

俺は確かに左は10%、右は90%と聞いていた。そう、人の口から。人、から。

「パパは、2つの洞窟の前に立った時にこれは何かがおかしいと思ったんだ。『完全に逆ではないか』と。それほどその2つの洞窟には明確な違いがあったんだ」

   

    獲物を待っている獣の声、目

    吐き気をもよおすほどの死臭


何もかがおかしかった。

「結局、パパ達はどうなったの?」

怖くなったのか、サクヤは俺の服の裾を掴みその先を促す。

「パパ、以外は皆死んだよ」

サクヤが目を見開き、その小さな肩を震わせていた。

「止めようとしたよ。もちろん。しかし、もう手遅れだった。前を歩いている仲間は次々に獣に食われ、仲間を囮にしようとしたやつは別の獣に食われ、もう酷い有様だったよ。俺は声をあげることも出来なかった。ただ、ひたすらに無我夢中で逃げた。仲間など助けることは‥‥出来なかった。本当に酷い話だよね。俺はただ聞いた話をそのまま仲間に伝え、仲間はそれを信じて進んだだけなのにね。誰の言うことも信用しちゃダメだよね。そう、誰の言うことも…ね」

サクヤの方を見ると今までにないくらい怯えている。もう、このくらいにしたほうがいいかな。


「必死に逃げ、分岐点に戻り、もう片方の道へ行くと何も危険など見当たらないような道だった。ところどころ段差があるくらいで0%と言っても過言じゃないんじゃないかな。その道を抜け、俺は宝物を見つけることが出来た。それがおまえのママだ。洞窟を抜けた村におまえのママがいた。確かに犠牲は大きかったが、得るものも大きかったってわけだ」


ずっと、震えていたサクヤもママが話に出てきたことにより少し笑顔になった。

「パパがそこで死んじゃったら僕はいなかったんだよね。パパが死ななくて本当によかったよ」

満面の笑みでサクヤは答える。俺は、今出来る精一杯の笑顔で返した。

「それじゃあ、今日はもう寝る時間だよ。ゆっくり休みな」

うん!と言ってサクヤは俺の膝元から離れ、ベッドに潜った。少しすると規則正しい寝息が聞こえてきた。俺は、それを確認し静かに部屋を出た。



誰にも宝物は渡したくなかった



そう、大切な仲間であっても


「パパは、英雄になんてなれないや」

そう呟いた。

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闇の洞窟 Allen @Alenn

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