(10月初め、金曜の夜9時過ぎ。

 自室へ帰宅した岡崎、着替えて何となくコーヒーを落としているところへスマホが鳴る)

岡崎「(着信の相手を確認し、ちょっとドキッとしたように出る)……はい」

吉野『——岡崎?

 もう帰宅したか?』


岡崎「……ああ。さっきな」

吉野『もし都合悪くなければ、ちょっと外出てこないか?エントランスで待ってるから』


岡崎「……ん、わかった」


(エントランスで落ち合った二人、近くの遊歩道を散歩)


吉野「(明るい月を仰いで)昨日さ、十五夜だったろ。

 月、今夜も綺麗だな」


岡崎「——……(一瞬激しく動揺しつつ、隣の吉野をぐっと見つめる)」


吉野「ん、どうした?」

岡崎「…………

(ふっと笑い)いや、なんでもない。『夏目漱石のエピソードなんか知るわけないよなコイツが……』」


吉野「なあ。毎晩メッセージ送るの、うるさくねーか?」

岡崎「……いや。

『元気か?』に、『元気だ』って答えるだけだしな」

吉野「(ほっとしたように微笑み)そっか。ならよかった。

 それだけ、どうしても確認したくてさ。

 元気なお前が、すぐ側にいる。

 それだけで、すげー幸せ」


岡崎「…………

 俺もな。

 お前からメッセージくるの、いつも待ってる。

 メッセージ届くのは、お前がいつも通り元気って証拠だからな」



吉野「……月、綺麗だな」


岡崎「——ああ。綺麗だ」



(冷たい風が吹き抜けていく)

吉野「……ちょっと冷えるな。

 そろそろ戻るか」

岡崎「(ふっと吉野を見つめ)お前、部屋戻るのか」


吉野「……え?」

岡崎「(慌てて)——いや、その」


吉野「……(優しく覗き込むように)何? 晶」


岡崎「——……(モゴモゴ)そっ、そんな急いで戻んなくても……

 ま、まあ金曜だし、寒いし……そうだ、コーヒー淹れてたんだよちょうど」


吉野「——お前んとこ、行っていいか」


岡崎「……ん(頰を染めて俯く)」



吉野「…………

『うあ……ちょっ待ってコレ……ぶっちゃけコーヒー飲んでる余裕とかは1秒もねえぞマジで……』」




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