ナリスマシ

怜 一

ナリスマシ


アナタはスマートフォンが知らないうちに勝手に起動して、意味不明な文字の羅列をSNSなどに投稿していたこと、あるいは投稿する直前だった時ってありませんか?


大体の場合、ポケットなんかにスマホを入れておいてそれがなにかの拍子で誤作動してしまった―――というのがよくある話です。

ですが、そうではない時がありませんでしたか?

その誤作動で打たれた支離滅裂な文字が、たまにしっかりと意味を持った文章になっていた時がありませんか?


もしそれを見つけてしまったら…。


と、まぁ脅してもしょうがないのでとりあえず『ワタシ』が知っている被害例を一つ、お話しましょう。


被害を受けたのは都内某所に一人暮しをしていた二十代半ばの独身男性。

この男性は作家で食べていくことを目指しており、さまざまな賞に応募したり、小説投稿サイトで細々と連載を続けていたどこにでもいるごくごく普通の若者でした。


ある日『彼』のポケットから ヴーン ヴーン ヴーン と三回スマホが振動したので取り出して見てみると友人から「訳わかんねーよ」というメッセージが届きました。

心当たりのない『彼』はその友人とのメッセージログを見てみると、友人からのメッセージがある直前に「あ?ーて」という奇っ怪なメッセージを『彼』がその友人へ送信していました。


『彼』はたまにある誤作動だと思い、その時は友人へ「ごめん。気にしないで」というメッセージで済ませました。

しかしこの日を境に誤作動は頻繁に起こるようになります。


ある日は呟き系SNSに「たぷれ」という呟きをしていたり、またある時は自分の家族にメッセージで「らんけへ」というメッセージを送っていました。

スマホの故障だと判断した『彼』は携帯ショップへ行き「誤作動が頻繁にあるので治してほしい」と修理を依頼し、そのスマホを一旦代替機と交換という形で手放しました。


代替機ではメッセージアプリやSNSなどに自分のアカウントで入っていないため、連絡などは取れない状態になっていましたが「まぁ数日我慢すればいいことだし、別にいっか」という思いもあり、特に気にせず過ごすことにしていました。


しかし後日――。修理から戻ってきたスマホを起動した『彼』は普通ではありえるはずのないことを目の当たりにし、恐怖に顔を歪めていました。


それは『彼』が代替機を持っていた数日の間、決してメッセージやSNSが更新されないその数日の間になぜかどちらともが更新されていたんです。

『彼』はまず自分のアカウントが誰かによって乗っ取られたんじゃないかと疑いはじめました。


この考えに行き着くのは妥当といえるでしょう。今まで被害にあった人達もまずこれを最初に考えついていました。

『彼』も例外ではありません。

『彼』はすぐさまアカウントを削除しようとしますが、なぜか退会やログアウトのボタンにタッチしても反応しません。


修理から戻ってきたばかりのスマホが接触不良?―――しかし退会やログアウト以外にタッチすれば反応する。タッチパネルの接触が悪いわけではない。

では、新手のウイルス?―――しかしなぜ自分のようなどこにでもいる人間のアカウントにそんなことをする?


『彼』の考えはごくごくまともであり、普通で、そして―――泥沼でした。

『彼』は理解できない現象に息を荒げ、何度も何度もメッセージアプリやSNSを開いたり閉じたり、片っ端から「俺と連絡をとるな」などのメッセージを送ったり端から見ればそれは異常な人間の行動でした。


そんなことを繰り返していること十数分後。ついに退会やログアウトできることなく、燃え尽きたようにボッーとメッセージアプリを眺めていると、ひとりでにスマホのテンキーが動きだし


    「ごめん。気にしないで」


というメッセージが自分から友人へ発信されたのです。


なにが起こったのか理解できなかった『彼』はそのまま画面を見ていると、今度は呟き系SNSに画面が切り替わり「もうバイトやめてー」と勝手に呟きました。

『彼』はその呟きを消そうとしましたが、すでにタッチパネルは彼の指には反応せず、その後も普段『彼』がしているようなメッセージを次々に呟きました。


彼はあまりの恐怖にスマホの電池パックを抜き取りましたが、スマホの画面は明るく光ったまま『彼』の意思とは無関係な、普段の『彼』によく似た『カレ』の投稿が続いたのです。


『彼』はようやくこれは人間の仕業ではないことに気付き、そのスマホを地面へ叩きつけさらに粉々になるまで踏みにじっていました。

無駄なのに。


そして『彼』はお祓いで有名な神社へ行き、自分に憑いているであろう幽霊を見てもらうことにしました。しかし斉主には「なにも憑いていない」と言われ、納得のいかなかった『彼』は、さまざまな神社で見てもらうも同じようなことを言われてしまいました。

これ以上無駄足は踏みたくないと最後に尋ねた神社でお祓いをしてもらい、ひとまずの安心を得て帰っていきました。


とりあえず一通りできる事はやりきり、落ち着きを取り戻した『彼』はこの一連の出来事を小説のネタにしようと家に置いてあったノートパソコンを使い、現実から逃げるように創作活動に没頭していきました。

数日後、作品が完成し、小説投稿サイトに出そうとウインドを開いた『彼』の目に飛び込んできたのは―――すでにそれと同じ題名の作品が自分のアカウントから投稿されている画面だったのです。


『彼』は震える手でマウスを握り、恐る恐る見てみると『カレ』が綴った文章は『彼』とまったく同じ内容、同じ文章でした。

そして『彼』が『カレ』の投稿した小説を最後まで読んだあと、ウインドがすぐに閉じられ、画面が切り替わってメモ帳アプリが開きました。もちろん操作しているのは『彼』ではないです。


そして、スマホの時のようにまたしてもひとりでに文字が表示されました。


      ニセモノはどこだ?


それを見た『彼』はすぐに家を飛び出し、あのノートパソコンからより遠くへ逃げるように走りだしました。

『彼』は一心不乱に走り続け、脚が動かなくなっていた頃には見知らぬ場所にたどり着いていました。


辺りを見渡すも真夜中なので人はおらず、いまにも消えてしまいそうなトンネルの蛍光灯群がランダムに点滅していて、いかにもな雰囲気が漂っていました。

疲れ果てていた『彼』はトンネルに入り、ちょうど半分の位置で壁にもたれかかり、乱れた呼吸を整えていました。


それから数分が経ち、また走りだそうとした『彼』の耳には タッ タッ と一定のリズムを刻んだ音が入ってきたんでしょうね。

『彼』は後ろから迫るその音に身体を強ばらせ、とても怖がってましたよ。


その音は『彼』の背後からほんの数メートル離れたところで止めました。

『彼』は震えながら勢いよく振り返り







    『ワタシ』を見たんですよ。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナリスマシ 怜 一 @Kz01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ