突撃!隣のギャング屋敷!!《2》
月が四つ昇り、王都を染め上げる明かりがほとんど消え去った、深夜。
闇に溶け込むようにして、暗がりに佇む三つの影。
「いけ好かねぇ趣味の悪ぃ屋敷だな」
俺の隣でそう吐き捨てるのは、俺とセイハと同じような仮面を被った、二挺拳銃を装備しているネアリア。
俺達の正面には、周囲の建物より頭一つ飛びぬけて大きい、庭園なども備えた一つの屋敷が居を構えていた。
……顔を隠す仮面を被って、デカい屋敷の様子を窺っている、武装した三人組。
完全に押し掛け強盗ですね、これ。
衛兵に見つかったら逮捕直行コース間違い無しである。
自分達の姿にそんなことを思っていると、もう片側の俺の隣に立っていたセイハが口を開く。
「マスター、正面扉手前、二人です。排除しますか」
「あー……いや、アレは俺がやろうかな」
彼女らも相当に練度が高いのは確かだが、そういう『忍び寄る』ということに一番適しているのは俺だからな。
武装は……二人とも腰に佩剣のみか。
防具は、薄いな。ヘルム系統を被っていないから二人とも首元ががら空きだ。
素早く見張りの装備の具合を確認した俺は、ここで尻込みしていても意味が無いので、即座に『ハイド』スキルを発動。
姿を夜陰に紛れ込ませると、その状態のまま眠そうに突っ立っている見張りの二人の真ん中へと歩を進め――そして、刃を二回振るう。
「ッ――」
「グッ――」
二名の首から噴き出す、血のシャワー。
俺は幻刀『妖華』を咥え、声も無く崩れ落ちていく二つ分の死体の腕を取ると、音を立てないようにゆっくりと床に下ろした。
「……相変わらず頭領の隠密は凄まじいな。完全に何にも見えなくなったぞ」
「私も、辛うじてマスターのお姿の輪郭が捉えられる程度です。そこにいると知っていなければ、恐らく全く気付けないですね」
「おっかねぇな。あれだと寝室に忍び込まれてもわかんねーじゃねぇか」
「私は別に、いつでもどんな状態でも忍び込んでいただいて構わないのですが」
「バッカ、お前、アレで夜這いを掛けられても気付けねぇで寝たままになっちまうだろ。心構えも何も出来ずにベッドに潜り込まれでもしたら、間違えて武器に手を伸ばしちまうかもしれねぇ」
「……確かに。盲点でした。突然いらっしゃられると、マスターにしっかりご奉仕が出来ないかもしれません」
「どっちにしろそんなことはしないから、さっさとこっちに来なさい」
盲点でした、じゃないです。
こっちが恥ずかしくなってくる会話、やめてもらえますかね。
暗がりに潜む二人へ呆れたようにそう声を掛けてから俺は、すぐに意識を切り替え、次にアクティブスキルの『索敵』を発動して周囲の敵の様子を探る。
「――人数は、三十に満たない程。半数以上は寝ていて、それ以外は分散。確実に殺す必要があるのは……入って最初の部屋にいる五人だな。これを無力化出来れば後は楽勝だ。やっぱり夜に来て正解だった」
ご自慢の魔導士らしい者や、戦士らしい者も少ない。
これなら、念を入れて用意しておいた、昼間の間にこちらの世界でも通用することを確認済みの魔法封じ系アイテムの出番は無さそうだな。
フルーシュベルト使いが出て来たら、使用することにしよう。
「どうしますか、マスター?」
「そうだな、最初の部屋の五人を潰したら、後はお前ら二人と俺とで別れようか」
「お、いいねぇ。先に目標を確保したヤツの勝ちだな?」
「俺より先に見つけたらワイン瓶を一本くれてやる」
「へぇ、頭領のワインか。そりゃ楽しみだな。んじゃあ、頭領が先に見つけたら、アタシらに夜這いに来ていいぞ」
「そういう反応に困る冗談はやめてください。……セイハさん? 何でそんな、それでいいみたいにコクコクと頷いているのですか?」
「マスター、是非勝負しましょう。こちらは二人で、マスターが一人ということを考慮し、私達は少し遅れてから突入いたしますので」
「いや、君、それ本末転倒というものじゃないですかね」
そんなことを考慮しないでいいので、敵を倒してくれますか。
コホンと咳払いをしてから俺は、彼女らへと言葉を続ける。
「とにかく、十分に気を付けていけよ。お前らのことだし、大丈夫だとは思うが、もしもがあったら怖い。使えるかどうかもわからん蘇生魔法を俺に使わせるハメにならないでくれ」
「へいへい、その辺りはよくわかってるよ、ボス。な、セイハ」
「はい。私は、マスターと共に生を歩むと決めています。このようなところで、死ぬ訳にはいきません」
「……まあ、気を付けてくれるなら何でもいいんだが」
苦笑交じりの笑みを浮かべてから俺は、再び『ハイド』を発動して暗闇を身に纏うと、見張りの死体のポケットから盗んだ鍵を使って、ギィと正面扉を開いた。
* * *
「ッ、誰だテメ――」
最初にこちらの姿に気が付いた男が啖呵を切りかけた途中で、その男の口の中にダガーが突き刺さり、それ以上を喋ることなく壁にもたれかかるようにして床に崩れ落ちる。
その間に俺は一息で部屋の中へ飛び込むと、片手に持つ妖華を一人の男の喉に突き刺し、そのまま貫通して壁に縫い付けさせ、もう片方の手に握るサイレンサー装着済みのハンドガン『銀桜』を、近くの椅子に座って唖然としていた男の頭部に向けて発砲する。
と、俺が二人目の脳天に風穴を開けている傍らで、同じくサイレンサーを装着済みの二挺拳銃を構えたネアリアが、残りの二人の頭部に正確に狙いを定め、脳漿をぶち撒けさせる。
俺が撃った男と同じように椅子に座っていたその二人は、背もたれにズルズルと崩れて行き、驚愕の表情を顔に張り付けたまま、絶命した。
――やがて、辺りに漂う、夜の静寂。
「近付いて来ている者はいません。お見事です」
「よし、それじゃあ予定通り別行動だ。俺は二階、お前らは一階。さっきも言ったが、気を付けて行けよ」
「あいよ、ボス」
「了解です、マスター」
二人が頷いたのを見てから俺は、その部屋を後にし、入った正面扉のすぐから見えていた屋敷の二階へと一人昇って行った。
――それにしても、ネアリアも言っていたが本当に趣味の悪い屋敷だ。
成金思考が、全面に出ていると言うべきだろうか。
至る所に如何にもな感じの金目の物が飾られ、ムダに華美な装飾が屋敷全体に為されている。
そして、ソイツがボスなのか、同じ男をモチーフにした絵画や彫刻などが同じく多数飾られており、その激しい自己主張具合から強烈な自尊心が窺える。
まるで己が神とでも言いたげな格好をしているその男の、純金製の像を見つけた時など、思わず失笑が漏れてしまったぐらいだ。
「――ここは外れか」
二階、踊り場から見えている二つ目の部屋に入った俺は、少し広めの部屋で眠っていた男の首を搔き切り、ベッドを血染めにしながらそう言葉を溢す。
索敵で見た範囲の中で、この部屋が少し広めだったので入ってみたが、屋敷中にある趣味の悪い芸術品のモチーフにされている男の顔と共通点が一つも無かったので、コイツは少し偉めの地位を持ったヤツだがトップとは別人だったのだろう。
右腕とか、そんなところか。
――俺は、とりあえず今、ここ『ナローガ商会』本部の、ボスを探す方向で屋敷内を捜索している。
アクティブスキルの索敵は、敵及び敵のいる場所の構造までわかる非常に便利なスキルであるが、流石に一個一個の武器を識別出来る程の超性能は有していない。
なので、総当たりでフルーシュベルトを求めて屋敷の内部を捜索するよりは、ボスを見つけて武器の在り処を尋問――もとい、お話して聞いた方が早く済むだろうという判断だ。
まあ、一階には武器庫らしい部屋があり、ネアリアとセイハの二人は一階を当たっているので、もしかすると俺が聞き出すより先に彼女らが探し物を見つけてしまうかもしれないがな。
――この部屋が外れだったとすると……大本命は、もう二つ隣の部屋か。
アクティブスキルの方の索敵は、常時発動型のパッシブスキルである索敵と違って連発が出来ないため、今は使用が出来ないのだが、先程確認した際、寝室らしいその部屋の一つのベッドの上で……まあ、その、男が一人と女が二人で合体している様子を感知した。
他に部屋へ女を連れ込んでいるヤツなどいなかったし、何よりそんな勝手が出来る者など、屋敷の主ぐらいだろう。
……確か、左隣の部屋に護衛らしい武装したヤツらが数人待機していたな。
先にこっちから無力化してしまうか。
そう判断を下した俺は、いつもの手口で『ハイド』を発動したままキィ、とその部屋の扉を開くと、瞬時に内部へと忍び込む。
流石にボスらしい男の護衛をしている者達であるためか、練度が高く扉が開かれた瞬間各々武器に手が伸びるも……俺の存在には、まるで気が付いていない。
護衛の男達が扉の方に注視している間に、俺は瞬時に部屋の一番奥まで入り込むと、魔導士らしい格好の男の首を掻き切り、ブシュ、と血を噴射させる。
一番最初に、魔術士職を殺すのはゲームにおいてもセオリーだ。
補助魔法や回復魔法などを使われると、一気に面倒さが増すからな。
まあ、こっちの魔導士というものがどのレベルなのかはわからないので、それらを使えない可能性もあるのだが。
一歩遅れて、味方の異変に気が付いた男が二人、こちらを振り返るが……もう遅い。
すでにその時点で次の攻撃動作へと移っていた俺は、流れるように幻刀『妖華』をもう一閃させ、戦士職らしい恰好の男の頭部と胴体を泣き別れさせる。
その首が地面に落ちるまでに、反対の手に握っていたハンドガン『銀桜』の引き金を引き、究極まで強化された銀桜から放たれた銃弾が、別の男の心臓を大きく抉り取る。
と、流石に激しく動き回り過ぎたせいで、ハイドスキルがいつの間にか解けてしまっていたらしい。
最後に残った護衛から正鵠にこちらに向かって放たれる、プロらしい惚れ惚れするような、洗練された居合斬り。
妖華で受けると金属同士がぶつかり合って甲高い音が発生してしまうため、俺は一歩跳び退って回避し――そして、刃が行き過ぎた瞬間に今度は一足飛びで中空を駆って距離を詰めると、相手の間合いの中に滑り込む。
その俺の挙動に虚を突かれた護衛は、即座に迎撃の構えを取るも……真剣勝負で見せた一瞬の虚の代償は、限りなく大きいのだ。
鋭く放った妖華は、男の防御を潜り抜け――その心臓を、一突きにしていた。
「カフッ……」
俺は男の胸から刃を引き抜くと、口から血を吐き出して倒れるソイツの身体を掴み、ゆっくりと床に横たえる。
ちょっと激しく戦闘したため、大きな音を立ててしまったが……隣の部屋からは、男の気持ち悪い嬌声が聞こえて来るだけで、何か異変を察知した様子は無い。
オーケーオーケー、これで二階にいるヤツは隣の部屋を除いて全員だったはずだし、これで少しはうるさくしてもいいだろう。
隣の部屋も、微かに声が漏れ出てはいるが、そういうことをするための寝室であることを考えると、結構しっかりと防音もしているだろうしな。
そうして俺は、血臭の漂い始めたその部屋から廊下に出ると、切れていた『ハイド』を再び発動させ、隣の部屋へと先程と同じように忍び込み――と、途端に鼻を突く、臭気。
――ひでぇ臭いだ。
わかっていたことだが……部屋の内部には、男と女の色んなものが混じり合った臭気が漂っており、嗅いでいるだけで気分が悪くなりそうだ。
「フッ、フッ、フッ!」
「……ん、あ、う」
――そして、中央に置かれたベッドの上にいるのは、屋敷中に飾られていた、絵画や彫刻などのモチーフにされていた男の顔を、数十倍は崩して髪の毛を薄くさせたような相貌の、でっぷりと太った男。
贅の限りを尽くしたような醜いその肢体を震わせ、下に組み敷いている虚ろな目をした少女の身体へと腰を打ち付けている。
また、ベッドの端には、双子らしく男に組み敷かれている少女と見分けが付かない顔付きをした、同じく虚ろな目でぐったりしているもう一人の少女。
彼女らは恐らく……何か、薬物でも使われているのだろう。
思っていたより大分酷いその惨状に、臭気で顰めていた自身の顔から、スッと表情が消え失せる。
……まあいい、さっさと終わらせよう。
俺は、そのままデカいベッドの端まで近づくと、必死になって腰を振っている全裸のブタの首を後ろから掴み上げ、グイと思い切り引っ張って後ろの床に引き倒す。
「いッ、な、何――」
身体を強かに床に打ち付け、突然の事態に困惑の声を漏らすブタの胸の辺りを踏み付けると、その首筋にスッと妖華を突きつけ、俺は嘲るような声色で口を開いた。
「こんばんは。強盗です」
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