情報収集《3》
俺達がしている情報収集、その対象は、先日武器屋に行った際にたまたま男達が口にした武器。
――フルーシュベルト。
正式名称、『禁剣フルーシュベルト』である。
それは、アルテラにおいて存在した、武器カテゴリのアイテムだ。
凄まじい攻撃力と斬れ味を誇り、装備した者のステータスを倍増させ、そしていくつかの特殊スキルすらも使用可能にするという、かなり壊れ性能を有した武器であった。
ただ――ゲームの中で、あの武器を使っていた者はいない。
それは偏に、デメリットが大きかったからである。
まず、あの武器を装備したその瞬間、最大HPとMPが大幅に下がる。
しかも、使用しているとその二つの値が徐々に下がって行き、最終的には誰からも攻撃されずとも、勝手に自滅する最後を迎えることになる。
この王都にて噂で流れている『命を吸い取る』、というところは、この能力があるが故だろう。
ゲームにおいてネタで使う者や、初心者故に効果がよくわからず使って痛い目を見る者はいたものの、メイン武器として使う者は皆無だったのだが……しかし確かに、短期的に見れば強力な武器であることは間違いない。
確実に死ぬ未来が待っている武器を、現実で使わせるというその発想がまずもって頭おかしいが、アレを死んでも構わない鉄砲玉にでも持たせて襲わせているのなら、胸糞悪いが、効率的な使い方であるとは言える。
――それにしてもまあ、この王都セイリシアに来て、その武器を探すという方針を定めてから、まだ数日しか経っていないのだが……。
「アッハッハ、流石ジジィだぜ! 相変わらずぶっ飛んでやがる」
机をバシバシ叩いて、爆笑するネアリア。
「……ネアリア、はしたないです」
「ネアリアはしたなーい!」
「はしたなーい!」
「うっせーぞガキども!!」
「「きゃーっ!」」
グワー、と吠えたネアリアに、燐華とファームが笑いながらこちらに逃げて来る。
俺は、ヒョイと膝上に燐華を抱え、ファームを肩に乗せてから、呆れた表情でジゲルへと言葉を放つ。
「なぁ、その……真面目にやってくれているのは、俺としてはすげー助かるし、頼りになるが……色々と程々にな。マジで」
ジゲルは何と言うか……ネアリアが言ったように、ぶっ飛んでやがるな。やること為すことが。
加減を知らないというか、加減をぶち壊すというか。
情報収集を命じられたので裏の組織を二つ程潰しました、とか、何でそんなことになるんですかね。
「ふむ、留意致しましょう」
「よろしく頼むよ。ホントに。……それで、報告の途中だったな」
とりあえずその辺りのことは流すことに決めた俺は、老執事へとそう言葉を促す。
「傘下に収めた者の中に、現場に居合わせ、かつ逃げ延びた者がおりました。その者によりますと、襲いに来た男は血のように赤黒い剣を持ち、完全に理性の
「……? そんな特殊スキル、あの武器にあったか……?」
赤黒い剣、というのは、確かにそんな色をしていたものの、人を狂人化させる、みたいなスキルは無かったはずだが。
……いや、まず大前提として、ここはゲームではなく現実、それも魔法とかが普通に存在する世界だからな。
であるが故に、こっちの世界に武器が渡って来てから、そういう新能力を獲得した、という可能性も考えられるか。
俺達からすれば、この世界で何が可能で何が不可能か、なんてことはわからない訳だし、それにあの武器の見た目や性能からすれば、なんかそんな、人をおかしくさせる能力があってもおかしくないと思えちゃうしな。
「……つか、そんだけ思いっ切り現場に居合わせて、よく逃げ延びられたな、ソイツ。基本的に皆殺しなんだろ?」
「自分以外の全員を殺した後、途中で電源が切れたかのようにバタリと倒れて動かなくなったそうですな。その隙に命辛々逃げ出し、どうにか生き延びたと怯えながら話しておりました。恐らくはその倒れた時点で、使用者が死んだのでしょう」
「あん? じゃあ、今フルーシュベルトはどこにあるんだ?」
「衛兵が現場に駆け付けた際、凶器の類は落ちていなかったそうですので、それを使わせた者達が回収したのではないかと。武器の使用者が最後に死ぬことがわかっているのであれば、その時のことを考え、回収要員を予め送っておくことは十分に考えられます故」
「……まあ確かにな。その、フルーシュベルトを使って敵対勢力を潰しているヤツらは?」
「申し訳ありません、まだそちらは調査中です。ただ、今までに潰された組織によって、益を得ている組織を割り出していけば、それも自ずとわかることかと」
ふむ……後は時間の問題か。
「――わかった、お前らは引き続き調査を任せた。頼んだぜ」
「了解致しました」
『ハッ』
次に俺は、自分の上に乗っかっている二人と、そして隣の椅子に腰掛けている玲の方へ視線を送る。
「んで、えーっと……お前らの方も、何か収穫があったんだって?」
「そうなの! あのねあのね、玲とファームと行った孤児院でね、こぉーんな顔のおっちゃん達が、いんちょー先生と、あんちゃんが探してるっ言ってた剣のお話をしてたの!」
俺の膝上からこちらを見上げ、「こぉーんな顔」のところで、両目を指で釣り上げる燐華。
「……へぇ?」
「あ、でもでも、おっちゃん達お顔はこぉーんなだったけど、いい人達だったよ! 燐華達や他の皆とも遊んでくれて! だから、困っているのを見て、可哀想だなぁ、って皆で話してたの」
皆ってのは、孤児院の子供達のことか。
「主様、どうもウチらの行った孤児院の後援が、どこかの組織やったようです。盗み聞きした限りだと、その彼らが『服従するか、死ぬか』を選ぶように脅されているとか」
燐華の言葉を捕捉する玲。
……なるほど。
より大きな組織――フルーシュベルトを持った組織に、傘下に与するか敵対するか、脅されている訳か。
――これはかなり、大きな情報じゃないか?
「ご主人、おじちゃん達はお菓子くれる良い人達で、院長先生は優しい良い人だったから、殺しちゃメ! だよー?」
「いや、そんな誰も彼も殺したりなんかしないって」
苦笑を浮かべてから、言葉を続ける。
「……そうだな、三人が行った依頼は、確か継続のヤツだったよな?」
「そうだよー!」
俺の肩の上で、元気良くそう言うファーム。
「そんじゃあ――ちょっと、挨拶に向かってみるか」
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