毒を吸い息を吐く。

くらん

第1話 愚痴

「でさぁ、〇〇が…」

聞くよ、などと言った覚えはないのに淡々と愚痴を言う。別に友達だとも思っていないが、何故か必要以上に絡んでくるこの人をいい加減どうにかしたい。

相槌を打ちながら苦笑いをするが、相槌にしか気づいていないようで、目の前の人は機嫌よさ気に愚痴を言う。(しかもなぜか楽しそうである。)

そんな毒を吸い、私は息をする。

有益な情報以外にも情報はいろいろ流れてきて、「秘密だよ」なんてものはたいてい守られないし危険な毒物と何一つ変わらない。吸い込んでしまったが最後、その毒に締め付けられる。

ようやく愚痴から開放されたが、嬉しかったことも加えて話してくる。私にとってそんなのどうでもいいし、「これをされると喜ぶのでこうしてください」と、いらない説明書を突きつけられたようで不快感を覚える。これも私にとっては毒のようだ。

いつか言われたあの言葉は、今でも覚えている。「君ってさ、生きてて楽しい?」

いじめの始まりではないかというようなセリフだが、なぜか頭から離れない。「楽しくはないかな。」そうとしか言えなかった。

あの時はなぜそんなことを聞かれたかわからなかったが、今となってはわかる気がする。

好きでもない人に相槌を打って機嫌とって、今じゃスマホに愚痴専用アプリも出来ているというのに、その仕事をさせられているようなものだ。私は人間であってスマホじゃない。そんなのを見ていたら、私も楽しそうには見えないだろう。そのセリフを言われる前から、既にいじめられていたのではないかと思うくらいだ。人「物」というカタチとして。

別の日、私は横の席の人に愚痴を聞かされた。当然この人も、友達だとは思っていない。そもそもクラスに興味のない私としては、なぜ話しかけられるのか、なぜ私の名前を覚えられているのかもわからない。

そういえば委員会決めの日、新聞委員がなかなか決まらずに滞っていたところ、私は「その新聞は手書きか否か」という単純な質問を聞くために手を挙げるのを渋っていた。

すると突然、「あ、〇〇手挙げようとしてるでしょ!やってよ!」と、有無を言わさず新聞委員にされてしまった。できれば図書委員との両立は避けたかったのだが、彼女は人の話を聞かなかった。

去年も同じクラスだったからか、名前をすっかり覚えられてしまったようでとても面倒くさい。声が高く、愚痴を言い、虫を嫌うがゆえにこちらに助けを求めてくるが、要求が酷い。「踏んで!」などと残酷極まりないことを平気で言い、下敷きでパタパタとこちらに飛ばしてくる。結局、私の周りにはろくなやつがいないようだ。また、ろくでもないやつらに囲まれた私も、例外ではないだろう。

どこかでは誰かの毒となり、またどこかでは誰かの毒を吸わされている。

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