半鬼の感情思考

ペンさき丸形

第一章 鬼の子

 人間でもない鬼でもない中途半端な少年の居場所なんてどこにもない世界

 そんな少年のお話


 



「--ねぇ、皆殺しにしようよ」


 何のことだろう?

 目の前には黒くモヤモヤしたものが立っていた。

 

「いい加減、こんな暮らしに飽きてきただろう?」


 ?


「こんな牢獄にいてさ、退屈だろ」

 

 ・・・


「君が肉体を譲ってくれれば僕が自由にしてやるよ」


 いつもの夢か、何度目の夢だろう、僕の肉体を渡せと言ってくる夢。


「夢じゃないぞ。君の中に存在するもう一人の君だ」


 何を言っているのかわからない。

 もういいや、何も考えるな。


「また口を閉じる、あきないねぇ~」

 ため息をつき、消えようとするモヤ。

「君が僕を必要とすることを願っているよ」

 と、言い残しモヤが消えた。



 ----ドン!


 腹に衝撃が走り、目が覚めた。


「起きろ、【鬼】が!」


 ああ、朝。

 今日の始じまり、労働の時間だ。


「さっさと仕事場に行けよ【鬼】」

 

 手錠されたまま僕は牢屋を出て仕事場に向かう。

 僕の仕事は、大型兵器の部品、一つ十数キロある部品をゴミ捨て場か化学班の倉庫に持っていくことだ。これを3時間くらいしたら朝食が出る、パンに水だけの朝食をすませ仕事に戻る。同じようなことを三回繰り返し一日が終わる。

 

「あいつ、あんな生活して死なないよな」

「この前、似たような生活をしている奴が死んだんだろ、二か月くらいで」

「マジですか?先輩」

「他にも何人も死んでるよ。全員一年もたなかったらしい、あいつは【鬼】が入ってるから不死身で見た目はガキだけどもう百年くらい生きてんだと」

「化け物っすね」

 見張りの看守が【鬼】と言っているのが聞こえた。

 【鬼】何度も聞いた言葉、僕のことだとわかるけど、どういう意味か分からない。

 考えたってしょうがない、だって 親も 帰る場所も 誰も必要とされない【鬼】なのだから。

 


 ーーーーガシャン!


 牢屋の鉄格子が閉められ、看守がパンとペットボトルを投げ入れる。

「夕飯だぞ」

 

 僕は何も言わずにパンを口にし水を飲む。

 素朴な夕食をとり、横になり眠りにつく。

 



 会議室のような部屋に十人くらいの看守が部屋の中心に座っている女に整列し敬礼をした。

「【鬼】の様子は?」

 座っている女は低い声に看守たちは息をのむ

「現状、代わりなく仕事をしています」

「一日中一言も口を開くことはありません、少佐」

「・・そうか」

 少佐といわれる女は眉にしわを寄せ立ち上がった。

「分かった。また変わったことがあったら知らせろ」

「了解しました」

「お前は残れ。あとは解散」

そういい、部屋は少佐と残した部下だけになった。

「・・・・計画は進んでいるか?」

「はい、滞りなく進んでいます少佐。あとは時期を待つだけです」

「・・・分かった。二人の時はミザでいいんだが」

「少佐を呼び捨てになんて無理ですよ」




 ----ガシャン!


 鉄格子が開かれ今日も仕事の時間が訪れる。

 いつも道理に働き仕事も終わり寝ようとしたとき、看守が隣の牢屋の鉄格子をあけた

「入れ」

 ドサッ!

 看守が背中を押したのか勢いよく倒れた音がした。

 鉄格子が閉められ看守はきえていく。

 

 ・・・僕には関係ない・・・


 再び眠ろうとしたとき

「・・・隣に誰かいるの?」

 話しかけてきた。

 声からして少女の声だ。

 

「っ!?」

 ビクッと体を震わせ眠気が吹き飛んだ。

 

 ・・・声をかけられた


「いるよね。君のなまえは?」


 ・・・・・・

 なまえ?

 そんなものはない

 看守たちは僕のことを【鬼】と呼んでいる、それ以外の呼び名なんて持っていない

 

「ごめんね。眠いよねおやすみ」


 と言い残し静かになった

 『・・・ごめんね』 

 なんで?なにもしていないのに、いつも邪魔者扱いの僕が言われたことのない言葉

 何度も 何度も頭の中で少女の言葉が繰り返される

 僕は混乱している頭を落ち着かせそっと眠りについた。



 ----ガシャン


 仕事の時間になり僕は仕事場に行くために牢屋から出た。

 隣を見るとショートの綺麗な黒髪の少女が出てきた。

 少女は僕を見るとにっこりと微笑み手を振り


「・・・おはよう」


 と、声をかけてきた。


 ・・・おはようってなんだ?

 分からない 分からない 分からない ・・・


 頭の中で分からないが飛びまわっていると。

 「お前ら、早く持ち場につけ」

 看守に蹴り飛ばされ僕たちは仕事場に向かう

 

 仕事場に向かう道中で少女は口を開き

「・・・ごめんね・・・」

 と、口にした

 昨日の夜きいた言葉に

 

 なぜ僕に謝るのか?

 こんな、役立たずの僕に--


「私のせいで君まで痛い目にあってごめんね」

 そして、少女の目には涙がこぼれた

 僕はなぜ謝るのか?なぜ泣いているのか?わからないが、涙を見ていると胸の内がモヤモヤし涙を止めたいと思った。

 こんなこと初めてだ

 少女の涙を指で拭った。

 僕を驚きの表情で見る少女。

 

「・・・どうして?君は・・私の・・せいでひどい目にあったのに・・・・怒らないの?」


 怒るってなに?

 さっきの看守のような感じなのか?

 思考が止まる

「--分からない」

 無意識に口から言葉が出た

「・・やっとしゃべってくれたね」

「!!」

 僕は慌てて口を手で隠す。

「君は優しいんだね・・・」

 

 優しい?はじめて言われた。

 また、止まりかけた僕に少女は

「ごめんね。早く仕事場にいかなくちゃ」

 走り出し仕事場に行く少女

「また、夜話をしよう」

 言い残し消えていった少女

 

 また、胸の内がモヤモヤした。しかし、さっきのモヤモヤとは違う。

 

 ・・・今日は本当によくわからない・・・

 

 




 第二章 僕の名前



 少女と別れた後仕事場に向かう。

 仕事場では同じように兵器の部品を運ぶ。


 ・・・あの子は今何をしているのだろうか・・・


 ・・あの時、僕が言葉を口にしたのは何十年前のことか・・・


『また、夜話をしよう』・・・あの子はそう言っていた・・・


 

 ・・・・・・よる


 そのとき、背中かに激しい激痛が走る

 


 ----パンッ!!


「おら、【鬼】サボってんな。仕事をしろ」

 看守からムチで打たれ止まっていた体を動かす

「仕事しないお前なんて存在する価値がないんだよ。休むなんて偉そうなことお前に許されると思ってんのか?」

「しょせん お前ら囚人なんて俺ら【魔性帝軍】の所有物なんだよおとなしく命令にしたがってろ」

 看守たちの言葉に他の囚人たちは苛烈の目線送っていた

「くそ 看守が魔装を持ってるからって好き勝手言いやがって」

「----絶対脱獄して全員ぶっ殺してやる」

 囚人たちは口々に愚痴を言っている

「チっ ゴミ共が」


 ・・・そうだ 僕はものなんだ価値のない存在なんだ・・・

  

 ・・・あの子だって このフロアにいるんだ他の囚人と同じように・・・


 ----すぐに死ぬだろう

 

 ・・しごとをしよう・・・


 考えるのをやめ仕事に戻る。

 そして、仕事の時間が終わり。

 いつもの牢屋に戻る。


 ・・寝よう・・


 夕食を食べると横になり眠ろうとしたとき。


「・・・・ねぇ。おきてる?」


 ビクっ


 聞こえてきた声に体を震わせた。


 ・・・あの子の声だ・・・


 横になっていた体を起こし隣の壁を見る。

 

「今日の朝、本当にごめんね」


 ・・・またあの言葉だ・・・


 また胸がモヤモヤする この感覚は何なのか。


「---君はしゃべれないの?」


 ---違う 言葉は話せる と思う・・・

 もう、何十年も口にしてない・・・


「---しゃべれるよ。うまく話せているか分からないけど」

 何十年ぶりに、自分から口を開く。


「---うん。大丈夫だよ」

 声が明るくなりあの子が喜んでいるのがわかる。

「君は、看守の人や他のみんなから【鬼】って言われているけど本当の名前教えてくれないかな?」


「-----。」


 ・・・名前なんてない・・・


「・・・やっぱりダメかな・・」


 ・・違う そうじゃない 教えられるのならそうする・・・


「----なまえが、ない・・・」

「え、---そんなことー」

 

 そんなことがあるのかと疑う声。

 それが本当なんだと沈黙し続ける。


「---じゃあ、私の名前を教えるね。私の名前はミヤ。」

「・・・・ミヤ」

 あの子の名前を口にすると胸がモヤモヤではなくソワソワに変わるが、不思議と嫌ではなかった

 そんな感覚に浸っていると、眠気が襲ってくる

「ふふ、今日はもう寝ようか。明日、またはなそうよ」

「・・・ああ」

 

 ミヤは僕の眠気を察したのか話を終える。僕は横になり眠ろうと目を閉じた。

 




「やぁ、もう一人の僕。」

 真っ白な世界にただ一つ黒いモヤが、僕に話しかけてくる。


 ・・・いつもの夢だ・・・


「また口を閉じる。まあいいや、中で見ていたけど君が人と喋るなんて面白いね」


 ・・・・


「はぁ、ミヤだっけ?」


 !?


「おや? 珍しく反応したね」

 

・・・これは夢のはずなのに・・

 そう、これはよく見る夢なのだ。ただの夢がミヤの名前を出すなんて考えられなっかた。

「言っただろ。僕はもう一人の君なんだって、君の中に僕がいるんだから君のことは良く分かるよ」


 ・・・・


「あはは、そういえば、名前がないとか言っていたよね君」


 ・・・そうだ 僕には名前が・・・


「あるよ。名前」


「え?」

 予想外な言葉に驚きを隠せずに口を開く


「おお! やっと口を開いたね」

 黒いモヤは待っていたかのように喋り始める

「そう、君は覚えていないだろうけど、君が生まれたとき両親に名前を付けられた」

「・・りょう、しん」

 何もないと思っていた僕に『ある』と言うこの黒いモヤ。

 こいつは何なのか、何を知っているのかと思い始め。


「・・・・・お前はなんだ?」


「--------」


 と黒いモヤに言うと沈黙し、そして、笑い始める。

「あっははははははは」

 黒いモヤはくねくねと動きまるで笑いをこらえようと腹を抑えているように笑った。

「・・何がおかしい?」

 笑っている黒いモヤに、会話の中に何が面白かったのかと聞いみていると「ごめん、ごめん」といい笑いを収めた。

「そういえば、話してなかったね」

 黒いモヤはそうゆうと、形が変わってゆき

 そして、目の前に僕と姿が同じ、もう一人の僕が現れた。

 違いは髪色が白から、黒に代わっていることぐらいだった。


「初めまして。僕の名前は修羅(しゅら)だよ。そして、君の名前がソラだよ」

「・・・修羅、ソラ」

 目の前にいる、黒髪の僕は修羅、ないと思っていた自分の名前がソラ。

「・・修羅」

 教えてもらった名前をさっそく使い、初めから不思議と思っている修羅の存在、両親のことを聞こうとした。

「--ーそれは、僕から教えられないよ」

「----っ?」

 まだ、口にしていないことを読まれたのか修羅は不敵な笑みを浮かべながら話す。

「--君は過去の記憶がなくなっている。けど、これは自分で思い出さないといけないから無理」


 ----


 僕は黙り込む『記憶がなくなっている』過去に何があったのかを思い出そうと考えこむ。


「あ、そろそろ朝だから夢から覚めるよ。今日はここまでだね」

 修羅がそういうと真っ白な世界がだんだんと黒に染まっていく。

「・・・自由になりたいのなら僕を呼べよ・・」

 消える瞬間にそう言い残す修羅

 そして、目の前は真っ黒になり目が覚める。


 

 ----ガシャン!


 看守が鉄格子を開け僕は仕事場に向かう。

 昨日の夢のことを思い出しながら歩いていくと、後ろから声がした。

 

「・・・おはよう、君」

 声の主はミヤだ。

「----おは よう」

 ぎこちない挨拶を交わす。

 僕が挨拶を返すと、ミヤは少し驚いた顔をしたが満点の笑みを浮かべた。

「今日も何か話そうよ。---えーと・・」

 何と呼べばいいのか悩むミヤに夢で教わった名前を教える

「・・・ソラ」

「え?」

 いきなりの言葉に戸惑うミヤ

「僕の名前はソラ」

「君、名前がないって言ってたよね?」

「僕の本当の名前なのかわからないけどソラなんだと」

「へー じゃあ、ソラまた今日の夜話そう」

「ーーーああ」

 返事をするとミヤは仕事場に消えた

 ミヤとの話を終えると胸がソワソワしていることが分かった。

 

 ・・・僕は夜が楽しみなのかもしれない・・・


 そして、僕は仕事場に向かう。


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