アイスコーヒーと腕時計

@kakudeppyomu

第1話

 確か中学二年生だった。誕生日祝いにと、その年で持つには少し背伸びした値段の腕時計を両親に買い与えられた。三つ折りプッシュ式ベルト、薄水色のシェル文字盤で出来たその腕時計は、小振りながらも存在感があり、いつも私の手元でキラキラと輝いていた。付け外しの際、金属のかち合う音さえも魔法のように思い、うっとりと聞いた。


 腕時計に愛着はあったが、丁寧に扱うことをしなかった。教科書の詰まったスクールバッグは、その角ばった縫い目に腕をぶつけることが多かった。机上に見やすく置いておきながら何かの拍子に床に落とすことも度々あった。ポケットに腕時計を突っ込む癖のせいで、そのまま見失う。数日経ち、まさか本当に無くしてしまったのではないかと一人焦り始めた頃、ふっと出てくるのだった。そんな時、正しい時刻で針が秒を刻む様子に、失われた時間を取り戻してもらったような、妙な安心感を覚えた。




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