第3話 簡雍、起動
「これがロストテクノロジーか」
周倉は呟いた。
かつて科学が絶頂に達していた時代の名残。
各地にちょっとした物は残ってはいるが、アンドロイドのような高度なものはレアとされている。
それも見た目も動作も人間と変わらないのに山一つ壊すほどの破壊力を有する。
らしい。
このアンドロイドは間違いなく激レアの部類に入るはずだ。
「おっさん、簡擁には変な機能付いてないから期待すんな。こいつは単なるワープロ代わりだ」
「ワープロとか何千年前の単語言ってるですか張飛さん。ハイエンド仕様の私には特別機能が満載ですよー。ね、関羽さ~ん、関羽さんならよく知ってますよね、あんな機能やこんな機能も!」
簡擁は関羽に微笑みかけた。
途端に関羽の鉄拳が飛んだ。
「ポンコツが誤解を招く言い回しをするな! うぬら違うからな! 儂は漢だ! 漢の道は我が道。漢の道に不義不敬は存在せぬ!」
「必死になんなよ兄弟。簡擁のボケて内容の無い霞んだ発言はいつもの事だろ。あんま熱くなると逆に疑われんぞ」
「ボケて内容の無い霞んだ発言。略してボケナスカスですね! ヒドイです張飛さん!」
関羽と張飛、簡雍が再起動の具合を確かめながらの会話を行っている間も、周倉は簡擁に熱い視線を痛いほど穴が空くほどこぼれるほどに注ぎ続けた。
「簡擁さん――か、頭上の赤い輪は何かの兵器か?」
周倉は機械相手にどう喋ったらよいのか戸惑いながら聞いた。
「違います違いますよー。兵器じゃないから触っても平気! なんちゃって! これは通信状態を表していてですねー、赤は不通状態ですです」
「赤以外見た事ねーけどな。賊が近くにいるはずだから、距離と人数見てくれ」
張飛が言うと簡擁の瞳が青から赤に変化し、周囲を見渡した。
「近距離に36人。中距離に1人。目の前に3人。さて逃げましょう!」
「逃がすかよ!!」
草むらに隠れていたのか簡擁の言葉が合図かの如く、黄色いハンカチを腕や頭に巻いている男達が次々に現れて関羽達を取り囲んだ。
だから早く隠れろと歯噛みをした周倉に、リーダーらしい男が唾を吐いた。
「てめえ、馬休と一緒に派手に脱走しやがった奴だな。仲間と落ち合う算段だったとは、楽に死ねると思うなよ」
「けっ、大義名分は立派だが、やってる事は賊と変わらない奴等と一緒にいれるかよ。言っておくがこちらにはあの青山を変形させるほどの最終兵器があるんだぜ」
周倉は簡擁に目で合図を送ったが、簡擁は冷たい視線を返しただけだった。
まるで汚物でも見るように。
そこに張飛がずいと前に出た。
「36人じゃ物足りないが、賊相手なら殺してもいいよな兄弟」
「張飛に全部くれてやる。儂は狂戦士ではないからな。うぬとは違う」
張飛は唇を吊り上げてにやりと笑った。目が既に狂人のそれだ。
一閃。
手近にいた者との間合いを瞬時に詰めて、有無を言わせず剣で首を飛ばした。
驚いて動けずにいた賊を返す刀で更に首を飛ばして剣に付着した血をべろりと舐める。
「ククク。ひゅー!殺戮殺戮! 俺を楽しませrksg!」
張飛の醸し出す明らかに常人とは違う属性持ちのオーラが賊達が圧倒していく。
Sクラスに数えられるヴァンパイア属性。
そうとは知らない者ですら恐怖の感情が湧き出てくるのも自覚できる。
「落ち着け! 相手は四人だ。まず男二人を殺して女は生け捕りにしろ!」
一人だけ槍を持っているリーダー格の男が怒鳴った。ある程度は統制のとれた動きを見せて、張飛を遠巻きに五人が囲み、後の者は関羽と周倉に向かった。
「まずは裏切り者から死ね!」
賊の一人が周倉に剣を斬り下ろした。周倉が剣で受け止めるより早く、関羽の偃月刀が賊の剣をはね飛ばした。
勢い余って周倉にぶつかりかけた賊を、関羽は左手で顔を鷲掴みにして持ち上げ顔面を圧殺していく。
「さるお方からこの者を生かすとの約束だ。漢同士の約束は誓いである。漢の誓いは我が命。その誓いを汚す者には容赦せぬ!」
関羽は賊を真上に放り投げると偃月刀を一閃させた。
「
頭頂から股先まで一刀両断にし、落下して左右で血しぶきが上がる中、簡擁がちゃんと動画保存しましたよーと言うまで十秒近く決めポーズを崩さなかった。
「あああああ! 俺の獲物が! この槍野郎、変な命令するから一匹やりそこねたじゃねえか!」
張飛は周りの賊を瞬殺すると、リーダー格の男との距離を一気につめた。
「オラ突いてこいよ槍野郎! 俺の受け入れ体勢は万全だからよヒヒヒ。早く、早くこいよぉ。男なら突いてこい! 心配すんな、三回は突かしてやるからよ。三擦り半でてめーは昇天だヒャッハー!」
リーダー格の賊は暫時躊躇したが、必殺の構えで足場を馴らした。
「この距離で避けれると思ってるのか。生け捕りはやめだ。死ね!」
賊は槍を張飛に三回突くどころか初撃の動作に入った瞬間に腕を斬り落とされた。
それも立て続けに二本。
「うぎゃああぁあぁぁあ!! てめええぇえ!!」
「アハハハハ! クククアハハハハ! あれぐらい避けろ避けろ単なる準備体操だろ何で避けないんだ死ぬのか死ぬつもりか、んんん? 返事しろよつまらないだろ! なんだ死んだのかやりたりねーやりたりねーよ!」
張飛が次の獲物を求めると、その真っ赤に染まった瞳と目があった者が脱兎の如く逃げ出し、それを追うように全員が逃げ始めた。
「こら逃がすか! 殺す殺す逃げたら殺す! 捕まえて殺す! 全員殺す!」
張飛は賊を追って茂みに飛び込んだ。時おり悲鳴と張飛の狂声がが聞こえてきたが、どこまで追ったのかやがて聞こえなくなった。
「あいつめ、しばらくは帰ってくるまい。念のためにうぬ等は下がっておれ。賊が潜んでるとも限らん」
「周囲にセンサーの反応ないから大丈夫ですよー」
関羽は簡擁を無視するかのように背中を向けて賊が逃げ出した方向に注意を向けた。
「だから反応無しって言ってるのに。もしもーし、関羽さーん! こちらも反応無しですかー。はは~ん、さては耳掃除の催促ですね。んもう、人使いが荒いんだから」
「黙れポンコツ。儂は機械を信用しないし機械と無駄に話をしないと何度も言わせるな」
「しゅーん」
「擬音を口にするのもやめろ。壊したくなる」
「めちゃくちゃに壊したくなるって、それセクハラです。関羽さんにはがっかりです」
「うおおぉおおぉぉお!!」
関羽は偃月刀をめちゃくちゃに振り回して茂みを切り刻んだ。
「張飛がいないのを忘れるな! つまり儂を止めれる奴はいない!」
そう怒鳴ると大木を斬り倒した。
簡擁もふわわ忘れてましたと二歩三歩後退して周倉のかげに隠れた。
周倉の目から見て、簡擁は重宝されてるわけでも可愛がられてるわけでもないように見えた。
貴重なるロストテクノロジーの最高峰なのにもったいない。
嘘か本当か青山の形を変えるだけの破壊力があるというが、実際にどれだけの能力があるかは分からない。
仮に役立たずだとしても、この外見ならば高く売れる。
劉備が挙兵するには十分な金になるはずだ。
こんな蛮族が所有してるなんて宝の持ち腐れとしか思えない。
「ふわわわ、すいません見ず知らずの方。関羽さんが襲ってきたら盾になって下さいね」
「無茶言うな。あの強さに対抗できる術はないわ」
問題はそこだった。
簡擁を奪うにしても、化物じみた二人が相手では勝ち目がない。
あれは何かしらの属性保持者の強さだ。
だがしかし今は張飛がおらず、関羽もこちらに背中を向けて意識的に無意識となっている。
つまり、絶好のチャンス。
「簡擁さん。あの二人といて幸せなのか」
返答によって行動が変わるわけではないが、聞いた。
「うーん、ロボットに幸せかと問われても、死ねハゲとしか答えようがないですね」
「なんでだよ! それに俺ハゲてないだろ!」
「ハゲは褒め言葉ですよ。あなたとても輝いてるよーって意味なんですから」
「そうかいそうかい。なら簡擁さん、あんたもかなりハゲてるよな」
「アトミックボンバー!」
「ふげ!」
「私はハゲてなんかないから!」
まともに鼻にパンチをもらい、ちょっぴり関羽の気持ちが分かった周倉だった。
ともかく事は一刻を争う。
張飛が戻ってきたら簡擁を奪うチャンスが奪われる。
周倉は人差し指を唇に当てて簡擁に目で合図を送った。
受けて簡擁が唇を突き出し目を閉じたので危うく惹かれそうになるが、明らかに罠なので無視した。
小さな拳がいつでも飛び出せる体勢なのを容易く見破れるぐらいに周倉は集中していた。
そして緊張していた。
首を飛ばすのが確実だが、それでは横の動きで関羽の視界に入ってしまいかねない。
やはり直線の動きで突き刺すのがいい。
心臓狙いならば多少ずれても致命傷だ。反撃する余力は残るまい。
大儀の前の小事、悪く思うなよ。
劉備の旗揚げには簡擁がどうしても必要だ。
周倉はまだ目を閉じている簡擁からそっと離れ、抜き身の剣を手に音も無く関羽に忍び寄った。
山賊をしていた頃から気配を断つのは得意だった。
それもそうで、易者から蜃気楼属性だと告げられていた。
属性の中でも自然現象系ナチュレに周倉は満足するも、たいていの属性持ちがそうであるように、いまいち使い方を把握していなかった。
ただ気配を消して旅人に近付くのには重宝した。
悲鳴すら上げさせずに殺すのが得意だった。
今回も手順は同じ。
躊躇や良心の呵責はないが、嫌な予感はあった。
死相が出てる。
劉備の言葉が脳裏によぎったが、もう止まらない止められない距離に達していた。
剣をぐっと引き、跳躍。
声も音も立てない。
断つのは相手の命のみ。
「関羽さん!!」
簡擁の悲鳴。
何だ、嫌いじゃなかったのか。
しかしもう遅い。
振り向くのが間に合うかどうかだ。
心臓は外すかも知れないが、一撃必殺なのは変わらない。
関羽が振り向く。
散々無視していたくせに一瞬で反応した。
次の瞬間、風が巻き起こった。
周倉が剣を伸ばした先に、関羽の背中が確かにあったはずだが、風に吹き飛ばされたのか何も無かった。
何も。
何も無かった。
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