Returnee.
@classicbear
第1話
小学6年生になった春。弟は小学3年生になった春。私たちは初めての一軒家に引っ越した。
世界の丁度反対側に。
ロンドン行きの飛行機は、久しぶりの飛行機で、弟とはしゃいだ。
ビジネスクラスだったので割りと美味しかったごはんや、リクライイング付きびいすなんかに。
小さかった私たちに、フレンドリーにサービスしてくれるキャビンアテンダントさんに鶴を折ってプレゼントした。
ヒースロー空港に着くと、一ヶ月前にロンドンに渡っていた父が待っていた。
父は幾度か東京をまだ出ていない私たちに郵便をくれた。その一通に、ロンドンの地下鉄の地図が入っており、海外の香りに、次に行く土地に、英国へ旅立つ前、胸を膨らませていた。
最初にこの国に来たことを、13年たった今でも鮮明に思い出せるのは、その後のこの国での生活が11年に及んだスタート地点であったからなのではないかと思う。
タクシーで父が借り始めてくれたお家に向かう。
途中で弟が車酔いをして、休憩に立ち寄ったファーストフード店は、その後何度も通りかかるたびに、初めての渡英した日を思い出す。
生まれてからずっとマンションに住んでいた私にとって、一軒家に住めるということは、それだけでワクワクしていた。北ロンドンの郊外の一軒家の前に着き、ドアを開くと、思っていたよりずっと広いお家で、思わず
「ととろのお家みたい!」
と階段を上っていく。
私の部屋と弟の部屋と、両親の部屋が2つ。東京でひとつの部屋を二人で分けていた私たちにとって、自分の部屋があるということは、初めてで新鮮だった。初めての自分専用のクローゼットにも愛着がわいて、スーツケースの中に入れて持ってきたキーホルダーを取っ手につけ、名前をつけたりした。
お庭があることも、私たち二人の姉弟には初めてのことで、細い道が四角く庭に沿ってあり、道の内側にはくさっぱが広がる真ん中に、小さい木が植えてあった。
次の日の朝、牛乳とコンフレークといった朝食を家族ととった。牛乳の味が日本のものと少し異なり、独特の味がして。牛乳も紙パックではなく大きいプラスチックに入っていて。そういった小さい違いに、最初はとてもびっくりして。同時に違う世界を知っていくことを楽しみに感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます