第12話 蟠り・オン・ザ・不安苦をプロデュース
少し前、教室の外にて。
(な......何をしてんスかあのアニメチビはッ!?)
武尾はづきは、自分の眼に写ったものが信じられずにいた。1組の教室を覗くと、麗と津瑠子が殴り合いをし、ブラウスが裂かれた伊緒が応援している姿を見ればこうもなろう。
「ブチのめせ麗!!顎砕け顎ぉ!!」
「その前に貴様の喉笛をぶった斬る!!」
「てめぇの貧弱な拳ごと割ってやらぁ!!」
(はぁ!?いつからここはファイトクラブになったんスか!?)
おかしい。計画では伊緒に難癖付けるやつらを津瑠子が追い払い、自分が駆けつけて終わった筈だ。図書室での説教が長引いたため、急いで駆けつけたらなんとまあ。
(ツルさんマジ何やらかしてんスか!?こんなんじゃますます……)
頭を抱えはづきは項垂れる。
(ミムさんがはづきに振り向いてくれなくなっちゃうじゃないスかぁ……)
「あら、うちのクラスに何かご用かしら?」
「ひっ!?」
突然後ろから話しかけられ、情けない声を出し振り向くはづき。
「な、投げキャラ!?じゃなくてヤスさん?ど、どうされて?」
「久々の出番だってのに何それ。言われてる意味はわからないけど、失礼な事を言われてることは理解できたわ。」
保寺・T・紅音が麗を超える高さで、呆れながらはづきを見下ろす。
「あ、いや、今のはそんなに意味は無いというか、その、ですね......」
「
「え、ピーナッツってはづきの事スか?」
「生徒会で藤間さんに迷惑かけすぎでしょ武尾さん。陰でそう言われてるわよ。」
「うわぁ......」
「ま、そんなことよりも......」
落ち込むはづきから目線を教室の中に向ける紅音。
「あれ、どう思う?」
「あれ、スか?」
教室で未だに行われている麗と津瑠子の殴り合いを再び見るはづき。
「どうにかして止めないといけないんじゃ無いスか?」
「Ha......」
あまりに正しい、真っ当なはづきの言葉に溜息をつく紅音。
「武尾さん......そうじゃないでしょ?」
「!?」
はづきの肩を、紅音は突然右手で握りしめた。
「い、痛いっス!!何するんすかヤスさん!!」
「止める?確かに止めなきゃいけないわよ。こんな所で終わらすの勿体ないからねぇ。」
「も、勿体......ない?どういう意味でスか?」
「あなた......そもそもなんでこんな事になってるかわかってるんでしょ?」
「な、何をおっしゃって!?」
逃げようと、しかし紅音にがっちりと肩を掴まれどうしようもないはづきは、せめて視線を逸らすこと位しかできないのだ。
「普通はさ、麗と藤間さんが素手ゴロ、かしらね?藤間さんのはちょっと怪しいけど。そんなとこ見たら逃げるか通報するかするでしょ?腕があったら止めにでも入るでしょうけど。でもあなた項垂れてたじゃない?まるで計画が上手く行ってないみたいに。」
「そ、それは、で、でスねッ!!ツルさんを探しに行ったらミムさんと!!」
「藤間さんは趣味こそアレだけど、暴力沙汰おこすような事自分からしないでしょ!!そんな事するのは余程見過ごせないことがあったか誰かに頼まれたか位しか考えられな、ん?ミムさんって伊緒の事?」
「は、はい、ミムさんは三田村さんの事でス......」
紅音の威圧による恐怖で、膝をガクガク震わせながら涙目で答えるはづき。
「伊緒の知り合いなの?あの子が他クラスと自ら関わるとは思えないんだけど。」
「ちゅ、中学で友達だったんでスよぉ......許してくださいもう放してください......」
「
「すみません......もうしませ......へっ!?」
紅音による思いもよらない提案に、はづきの口から安堵にも似たような素っ頓狂な声が口から飛び出た。
「麗が目的かと思ったんだけど、伊緒だったのね。麗釣る餌で使うでもなく。マニアックな人気でもあるのかしら?」
「仮にも友達を餌呼ばわりされていい気分はしないっスねこちとら。」
「その大事なお友達を暴力沙汰に巻き込んでるのはどちら様かしら?」
「そいつを言われると何も言えねえっス......で、協力とはどういったことで?」
先程とはうってかわり、紅音を見据えるはづき。
「
「いや、はづきは、その......」
「わかってるわ?伊緒との話し合いの場はこっちが取り持ってあげる。私を間に挟めば向こうだって反故にはできないでしょ?なんてったって、伊緒の友達だからね私は。」
「嫌味ったらしいスね......『保寺』ってのはさ。」
「だからあなたもその仲間に入れてあげようとしてるのよ、困った人には施しを、『保寺』はそういう家よ。」
「へぇ......で、そちらの見返りはなんなんスか?ヤスさん一人で止めようと思えば止めれるでしょアレ?」
掴まれていない腕をで教室の中を指差すはづき。
「潰せ!!壊せ!!破壊しろぉ!!」
「OK伊緒ちゃん!!前歯全部折ってやるわ!!」
「春川、お前本当にそれでいいのか!?少しは考え直せよ!?」
教室では相変わらず、麗の拳と津瑠子の手刀が互いに交差し火花を散らしていた。
「態々はづきを誘う、いや脅すっスかねぇ?ヤスさんははづきに何をしてほしいんスか?どうせ逆らえないんでしょ?」
「あなたかなりネガティブねぇ?そんな負け犬根性丸出しでどうするの?」
紅音にとっては、諦めて捨て鉢になったはづきに対するただ素直な評価だったのかもしれない。だが、その一言は。
「ま......負け犬......はづきは......負けてなんかないッ!!」
(こいつ、眼付きが変わった?)
「ヤスさんよォ、あんたの誘いに乗りまスよはづきは。そうっスね。よくよく考えりゃミムさんに遠慮なんてする必要なんてなかったんスよ。ずっと怖がって怯えてて馬鹿みたいでスわ。」
自虐的に笑うはづき。しかし、そこにあったのは恐怖で縮こまっている姿ではなく、これから反攻を決意した瞳と歯。
「あら、いい顔をするじゃない。こうでなくっちゃ。
にかり、と笑う紅音。この顔、この瞳。何か危なくて楽しい事をやらかそうとする意思を感じられてこそ、紅音は始めて相手を対等に扱おうとするのだ。
「そいつは嬉しいっスね。ナッツ苦手なもんで。」
「あなたと伊緒の間に何があったのかは聞かないでおくわ、今は。まあ、私のやって欲しいことはさっきして貰ったからもういいわ。」
「へぇ?いつの間にミッションクリアしてた?悪魔と契約、ってとこスかね?」
「
「はっ、ホントにミムさんは調子だけはいんでスから、前からさ。」
呆れながら肩を竦めるはづき。あの女は、昔とちっとも変っていない......
「あら?大変、向こうがケリつきそうね......マズいわ......」
教室の外から、津瑠子に胸を貫かれ血を吹き出し倒れる麗が見え、口に手を当てる紅音。
「ケリ着いたんならいんじゃないんスか?この喧嘩も終わって万々歳って。ハルさんには残念だけど、ツルさんはマジモンでスから仕方ないってさ。」
伊緒の悲鳴が響く教室の中を見ようともせず坦々と喋るはづき。
「
「それはどうい、って!!あんた何する!?のぁ!?」
信じられない......聞き返すも早く、はづきは自分の身体が紅音に持ち上げられ、宙に浮いていたのだ。
「ちょっと重たいけど、これならいけるわねッ!!」
「重たいってヤスさんあんた自分の事言!!」
「
「へッ!?マジ!?ふざけんなこの金髪豚あぁぁぁぁ!!」
かくして、
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