第11話 幼児・アンド・Destroyをプロデュース

「そうそう、私が伊緒ちゃんとこ来れたのはいつもの3人、えっと、ジュンとチョーサクとショージだっけ?あの子たちが教えてくれてさ。伊緒ちゃんが苦しんでるって。」

「じょんがら節だって歌詞変わるのになぁ......」

 どうやら、親衛隊の馬鹿3人の名前は麗に覚えられてないようだ。伊緒は少しだけ彼女たちに優しくしようと思った。

「ま、伊緒ちゃんほっぽっといて自分たちだけで逃げてきたんだったらキレようと思ったんだけどね。」

 その通りだよ麗。思わず口から言葉がでそうな伊緒だった。

「抱えられてたぱっつんの......ショージだっけ?」

「さとりの事か......」

「伊緒ちゃんが私たちを逃がしてくれた、って言ってたからさー。もう私としては向かわないとダメだし。」

「流石隊長名乗るだけあるわ、機転が利くねえ。」

 皮肉を込めてさとりの事を褒める伊緒。とりあえずこいつとは注意して付き合おう、迂闊に隙は見せられない。

「で......伊緒ちゃんに乱暴した不貞の輩なんだけど。」

 麗が憎しみを込めた視線を、壁際まで吹き飛び倒れた仮面に向ける。

「伊緒ちゃんの知り合い?」

「なわけあるかよ!!なんでどいつもこいつもそんな発想になる?」

「いやいや、思い切りブン殴っちゃったから後々気まずくなるかと思って。」

「大丈夫でしょ。知り合いだとしても、こんな格好してるのが悪いんだから。それよりさ麗?生徒会とか詳しい?」

「生徒会?なんで?」

「あのチビが生徒会の一員みたいな事言ってたから、そっから割り出せると思って。ついでに依頼したやつも。」

 自称暗殺拳使いの子供と依頼者のハヅ。理由はわかったとはいえ、私をこんな目に合わせた奴は絶対に容赦しない。今の私には麗がいる、たいていの障害は除けられるはずだ。

「生徒会なら紅音ベニオンが詳しいんじゃないかしら?聞いてみる?」

 麗がケータイを取りだした時だった。

「くはーっはっは!!とんだ収穫だよこりゃ!!ハヅも粋な事してくれたじゃないか!!」

 鈍い機械音とは違い、柔らかさと、汚れを知らなき幼い声が教室に響き渡り、ゆらりと仮面が立ち上がった。

「おわぁ!?あいつまだ立ち上がれるの!?」

「伊緒ちゃん、私の後ろに!!ついでに腰に手まわしてくれると嬉しい!!」

「オッケー腰ね?ってやるかよ!!」

 非常事態でもイチャイチャしようとする麗を、いつものノリで突っ込み後ろにまわる伊緒。

「ボクをノめせる奴がまさかこの学校にいるとはねぇ......この『蒼蛇』、楽しくなってきたよ!!やっとこいつが脱げるってもんさ!!」

 『蒼蛇』、と名乗り始めた仮面が、麗の拳の形に凹んだ仮面をついに脱いだのだ。

「あ......?あ......?」

「......はぁ?」

 仮面の下の『蒼蛇』の素顔、伊緒と麗は絶句せざるを得なかった。

 その髪色は、心地よく雲が流れる夏の空。少々太目の眉と、顔に対して小ぶりな口にツーサイドアップの髪と、サイズの合わないピンク色のカーディガンは身長と重なり『蒼蛇』の幼さをより強調していた。

「どうした?ボクのこの姿を見て言葉も失っているのかい?」

 翠色の瞳が麗と伊緒を見つめ、不敵に笑う。しかし、

「意外性がない。」

「思った以上に普通。」

 二人からはがっかりしたような返事しか返ってこなかった。

「んなぁ!?なんでだよ!?」

「いやさ、もう身長の時点でこいつガキっぽいなって思ってたんだから、実際に子供みたいなのがでてきても何も驚きが無い。これが麗とか保寺さんみたいな大人っぽいのが来たらちょっとは驚くけど。いや、それはそれでなんかやだな......」

「こんな成りだからいっそ子供っぽく見せてるの!!わかってよ!!」

 伊緒による駄目出しに、『蒼蛇』が泣きながら反論する。

「せっかくコスプレしてるんだから、脱いだ後も魅せられるようにしとけばいい感じなのに。ほら、これとかどうよ?」

 麗は自分の谷間に手を突っ込むと、するすると紐状のものを取り出し『蒼蛇』に渡した。

「お前マジシャンかよ。」

紅音ベニオンにやり方教えてもらったのよ、昔。あいつ一時期色々仕込んでた時期があったから。」

「はぁ、文字通り暴力ですわ肉体の。」

 麗の立派な胸部を見つつ、伊緒はため息をついた。

「眼帯か?」

「つけてみ?でもって、髪一本に縛ったら鏡見てみ?」

 眼帯を装着した後、『蒼蛇』は麗に言われた通りに二つに分かれた髪を解き、耳の下の高さで一つに結んだ。そして、合体ロボの胸に付いていそうなマークの周りに、赤い梵字だかルーンのようなオカルティックな文字が敷き詰められたスマホを取り出し、カメラを自撮りモードで起動する。

「う、うわぁ......やっぱりだと思ってたけどマジモンの中二病じゃん......なんだよあのケースどこで売ってるんだよ......」

「ハヅに描いてもらって印刷屋で作ってきたんだ。カッコいいだろ?」

 右目に眼帯を付けながら、吐き気を抑えきれない顔色の伊緒に得意げにほほ笑む『蒼蛇』。

「これなら仕事できるエージェント感あるでしょ?あんたそういうの好きそうじゃん?」

「おっ、おぉ......ッ!!これいいなぁ!!」

「やっぱハヅ、ってやつ探さないと駄目だわ......私の精神が持たない......」

「伊緒ちゃんの分あるけど、やる?」

「眼鏡あるからいりません!!」

 二つ目の眼帯を渡す麗の手を振り払う伊緒。

「まぁ、眼帯は『蒼蛇』、だっけ。あんたにあげるとしてさ。」

 麗の声のトーンが低くなり、拳を鳴らしながら『蒼蛇』を睨みつける。

「伊緒ちゃんこんな目に合わせたはちゃんと付けさせて貰うわよ?」

「いいよ。まぁ、、の条件付きだけど。キミなら楽しめそうだし、ねぇ?戯れるのもガチなのもさ。」

 無邪気な、しかし威圧するような声色で笑いながら麗に応える『蒼蛇』。

「んなこと言ってるけどさ、もう顔もバレちゃって何でそんな強気なのあんた?」

「逃げ場がないからこそ、戦いってのはできるもんなのさ。三田村の交渉を切っちゃった時点でボクの負けは決まってたわけだし。こんな楽しそうな奴と拳を交えられるのも、最後の手向けとしてはいい感じな演出だろうよ。」

「麗......この自分勝手なクソガキを必ずブチのめしなさい......!!」

 『蒼蛇』の矜持とも自棄ともわからぬ言葉にわなわなと震える伊緒。

「......伊緒ちゃん?」

「私はね!!手段があるのに抗おうとせずにテメェだけで片付けて終わらそうとするやつが糞が着くほど嫌いなのよ!!麗、絶対勝ちなさいね!!ハヅってやつと一緒に私の前で下座ゲザらせてこの一件は片付けさせてやるんだから!!」

 いつになく、本気の怒りを込め、力弁する伊緒。

「......うん!!やってやるわよ伊緒ちゃん!!」

「三田村......お前が悪であることを、ボクは今心から残念だと思っているよ......でもさ、ボクの正義の為にも負けるわけにはいかないのさっ!!」

 麗と『蒼蛇』が互いに3歩程距離を取り、構えた。

「あんたに恨みは、いんや伊緒ちゃんの仇討させてもらうわよッ!!」

「絶対正義の名の下に......『蒼蛇』、藤間とうま津瑠子つるこ......いざ尋常に勝負!!」

 真名ほんみょうを名乗り、眼帯を右手で覆いカッと開く『蒼蛇』こと藤間津瑠子。

「麗、マジで勝ってくれ......ホントに見ててキツい......」

 10週で打切られる前の漫画のテコ入れのような展開が目の前で行われ、耐え切れなくなり色々と限界になった伊緒を他所に、麗と津瑠子の戦いの火蓋は切られた。

 


「ごっこ遊びは家でやってなさいちみっこォ!!」

「誰がちみっこだ黒筋女ァ!!」

 踏み込みからの肘鉄をバックステップでかわし、すかさず麗の目の前に飛び込む津瑠子。

「うぉっとぉ!?」

「もう終わりかい?」

 ダブつく津瑠子の右袖が鞭のように撓り始める。

「麗!!あの腕は斬れるぞ!!さとりがやられたやつだ!!」

「斬れるぅ!?よくわからないけどマズいのね!?」

 顔面へと襲い掛かる津瑠子の鞭を、伊緒の忠告から間一髪で避ける麗。それでも、

「はぁ!?マジで斬れたんだけど!?バカじゃねーの!?」

 麗の前髪がわずかだがパラパラと舞い、額から血がゆるりと流れ落ちる。

「ネタバレは良くないなぁ。早売りサイトの愛好家かなんかかい?」

「間接的に私の事ディスってんじゃねーよ!!」

「殺意がストレート過ぎて逆に笑うしかないわ!?あんた『学園ファンタジー』とか『異世界転生』みたいなタグの世界にでも行ってなさいよ!!」

「その為にも手頃な奴から経験値を稼がないとなぁ?」

「ウォーモンガーかよ!?」

 撓る腕を警戒し、津瑠子と距離を取ろうとする麗。あの腕はヤバい。サイズの大きいカーディガンも、間合いを読ませない為の策略だというのか?先ずはリーチを掴まない限りはこちらも迂闊に攻撃ができない......

「へぇ、逃げるのか。じゃあさ......」

 そんな麗を舐めるような視線で見るとすぐに、

「こっちから行くよ......ッ!!」

「なッ!?」

 一瞬だった。津瑠子が弧を描くように飛び、麗ののは。

「がはッ!?」

 麗の背中が切り裂かれ、制服が真っ赤に染まる。

「れ、麗!?」

「大丈夫よ伊緒ちゃん......傷は浅いから......ッ!!」

 痛む背中を抑えずに、ボクサーのような構えで津瑠子から離れる麗。

「今のでわかったろ?蛇からは逃げられないのさ。」

「ええ、よくわかったわ......逃げる必要が無いってことがね!!」

 ニヤリと笑い返すと、麗はまた津瑠子に向かい踏み込む。

「ボクの『裂悪の聖拳プライマス』と『狂気滅する闘牙プロキシマス』を喰らってまだ余裕だと!?マジかげに?」

「わ、技名までついてるのかよコレ......」

 二重の意味で痛い技を目にし頭を抱え込む伊緒を眼にもくれず、『裂悪の聖拳プライマス』を繰り出す為に右腕を撓らせ始める津瑠子。

「太刀筋は見えた!!なら!!」

 先ほどとは違い、津瑠子の鞭に向かい一直線に突っ込む麗。

「なんだとぉ......ッ!!」

「痛つッ!!けど思った通りね!!斬れない!!」

 津瑠子の腕、正確には拳に当たる前に、麗は己の左腕を前腕にぶつけたのだ。

「オプティマスだかプライマルだかぁ!!吹き飛べぇ!!」

 弾かれた左腕を気にせず、残った右腕で津瑠子に強力なボディーブローを叩き込む。

「うぅ.....!!」

「やっぱ吹っ飛ぶな!!」

 苦痛に顔を歪ませる津瑠子の首を掴み、すかさず顔面に膝蹴りをお見舞いする麗。

「いいぞ麗!!ブチのめせぇ!!」

 伊緒は狂喜で震えていた。こんなにも高まったのは、『ソドブリ』の10連ガチャでSSRを3枚引いた時以来かもしれない。自分の為に怒り自分の為に傷だらけになる麗が、こんなにも美しいものだったなんて。

(最高だわ......!!やっぱり私はツイているぜ!!こんなお宝を手に入れてるんだからさ!!)

 『ソドブリ』のスタミナはとっくに溢れているのに、伊緒がスマホで起動しているのはカメラのビデオモードだ。

(売れるぞ......麗のシンパは少なくとも60人以上はいるみたいだから1000円で売っても6万は私の元に!!)

 どんな時でもどんなものでも、自分の利益に変えることだけは忘れない。それが三田村伊緒という女であり、彼女のメンタルの強さの証でもあった。

「ごめんね伊緒ちゃん......」

「どうしたの、麗?」

 不穏な麗の発言に、首を傾げる伊緒。

「こいつ、やっぱり強い!!」

 膝をつくと同時に、麗の胸に貫かれた傷から血が噴き出す。

「れ、麗ぃーっ!!」

「糞ったれ!!ボクがここまでマジになんなきゃいけなくなるなんてさ!!」

 ボトボトと血が流れる潰された鼻を右手で押さえながら、麗の血が付いた左手を津瑠子は払った。

「顔面蹴たぐってる間に抜手とか冗談じゃないっての!!」

「お前だってえげつない事しやがって!!折れてなきゃいんだけど鼻。まぁ......」

 倒れ込む麗の前に、鼻血を流しながら立つ津瑠子。

「これで終わりだ!!『裂悪のプライマ』......!?」

「おわぁああ!?」

 『裂悪の聖拳プライマス』で麗に止めを刺そうとした津瑠子に向かい、投げ込まれた音の鳴る巨大な何か。構えを解く間もなく、それは津瑠子に当たり麗との距離を離した。

「麗、大丈夫!?」

「怖かったよ伊緒ちゃーん。ナデナデしてぇ。今日一人じゃ寝れないから一緒に寝てぇ。」

「心配して損した。」

 血まみれの麗をほっとき、吹き飛んだ津瑠子と何かに近づく伊緒。

「つってー!!何なんスかあの外人は!!いい加減に......あれ、ツルさん?」

「ハヅ!?どうしてお前が!?」

「どうしてって聞きたいのはこっちの方っスよ!?何でハルさんとたたかっ......て?」

 冷たい視線が刺さるのを感じ、後ろへ振り向く武尾はづき。

「へぇ......ハヅってタケの事だったのかぁ......久しぶりねぇ。中学ん時以来かしら。」

 怒りを隠し切れない笑顔で、はづきを見つめる伊緒。

「お、お久っス......ミ、ミムさん......!!違うんスよ!!これには深い訳がっ!!」

「ずっと私の邪魔ばっかしやがってアンタってやつは!!今度は暗殺か!!どこまで私の事が嫌いなんだ!?」

「ひぃ!?」

 縮こまるはづきに殴りかかる伊緒。

「ハヅに手を出すな屑!!」

「伊緒ちゃん馬鹿にすんじゃねぇ雌ガキぃ!!」

 互いの友人を守るため、麗と津瑠子も拳を交えようとした時だった。

「やめんかこのMoron馬鹿垂れ共 !!」

 英語が混じった怒声が教室に響き、手が止まる4人。

「や、保寺さん?」

紅音ベニオン?」

「久しぶりね、伊緒。そして」

SeeYouNextTimeまた次回

 教室のドアの前で、保寺・T・紅音が4人を見下しながら立っていた。

 

 

 

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