キミの性格。
狐
第1話
「ただいまー……」
間の抜けたチャイムの後に帰ってきたアキオ君は、今日も額に汗を滲ませながら小さく息を漏らす。
「残業お疲れさまです! 肩揉もうか? 先にシャワーの方がいいかな……」
「ありがと。お腹すいててさ、なんか軽く用意してくれない?」
「はーい!」
私が元気よく返事すると、アキオ君は安心したかのようにへにゃっと表情を緩ませた。あの顔を見るたび、美味しいものを作ってあげたくなる。
リビングに戻るなり、アキオ君はスーツのジャケットを大ざっぱに脱いでソファに沈むように腰掛けた。何度か深呼吸をすると、私が切るきゅうりの音に誘われるようにキッチンに近寄ってくる。
「ミカ、何作ってんの?」
「内緒ですー!」
私がわさびのチューブを片手にそう言うと、アキオ君はリビングに直行して、ソファに座って姿勢を正した。晩ごはんを楽しみに待つ小学生みたいだ。
「じゃーん! 今日は冷やし茶漬けにしてみました!」
「うっわ、めっちゃ美味そう」
アキオ君はお椀に盛り付けられたきゅうりの浅漬けを箸でつまむと、はじめて地球が回っていることに気づいたかのように「おっ」と驚く。大袈裟だなぁ。
「これ、ハート型? 凝ってるねー」
「って言いながら真ん中から折るのはどうかと思うよ」
「腹に入っちゃえば変わらないもーん」
アキオ君は何かと大ざっぱだ。「O型だから」という理由をずっと否定しているけど、私の今まで会ったO型さんの中でもかなり上位に入る。
「マヨネーズある?」
「えっ、これにマヨネーズ!?」
「そんな意外か!? うちのオカンもやってたけどなぁ」
「お義母さん、面白い人だもんね……」
遺伝じゃん。私はアキオ君の性格が生まれた理由をそう推測し、お代わりを用意しにキッチンに戻った。
キミの性格。 狐 @fox_0829
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