第2章 這い寄るプラットフォームとか

グルグール翻訳

『うちのは、そういうのに寛容なんだよっ! まぁいいや。魚の文字は、グルグール詮索でもしてみたら?』


 丁鳥ていちょうさんからもらったメッセージ。

 彼氏さんのことを、はぐらかされたのかな、とか思いながら……。


 本 当 に 詮 索 し て み た 。


 既に時刻は、金曜から土曜になろうとしていた。


 折り畳みベッドに寝っ転がって、スマホのグルグール詮索せんさくに、「魚」「文字」とキーワード入力して、「詮索」ボタンをタップ。


 すると。


 なんと!


 毛筆で「魚」って書かれた、書道みたいな画像が、詮索結果にズラリと並んだ……。


(そうじゃない! そうじゃないんだよ! 俺が詮索したいのは!)

 キーワードの指定がダメなのかなぁ?


 その後も、象形文字がどうとか、魚の顔文字ランドとか、関係ないサイトばっかり引っかかる。


(詮索うまくいかねーな……。あっ!)


 ちょっといいアイデアを思いついた。


(この謎の文字列……『翻訳』できないかなぁ? グルグール翻訳機能で)


 天下の巨大プラットフォーマー「グルグール」は、詮索サイトの「グルグール詮索」の他にも、たくさんの便利なサービスを提供してくれていた。


 例えば。


 クラウドサービスの「グルグールモクモク」

 宝の地図サービスの「グルグール巻物」


 なんかが、有名かな?


 翻訳サービスの「グルグール翻訳」もあった。

 流行りの人工知能も組み込んで、翻訳精度が上がったと言われている、アレ。


(やってみるか。もともと、グルグールから来たメールの、謎文字なんだし)


 グルグール翻訳の画面には、何語から何語に変換するのかを指定するボックスが2つ、翻訳元と、翻訳先とがあった。「言語を検出する」から「母国語」へと翻訳する初期設定になっていた。


 俺が入力ボックスに、魚のような謎文字列をコピー&ペーストすると、「言語を検出する」が「クトゥルフ語」に変わった。



 ク ト ゥ ル フ 語 ?

 


(グルグールは、そんな言語にまで対応しているのか……)

 驚きはしたが、不自然には思わなかった。グルグール程の巨大プラットフォーマーなら、正直やりかねない。


 実際、SNSのニュースが「デジタルデータを集めたプラットフォーマーが、昨今、急速に力をつけている」と言っていた。


 例えば。


 詮索せんさくサイトのグルグール。

 イノベーティブなスマホで有名なアッポーパイヌ。

 実名SNSのハスターブック。

 ネット通販のパパゾヌ。


 頭文字を取ってGAHPsガープスと呼ばれる巨大プラットフォーマーを筆頭、あるいは四天王として、各企業はデータ収集にしのぎを削りながら、どんどん肥大化しているらしい。情報をどれだけ蓄積できるかが、これからの企業が成功する鍵だからだ。


 四天王の一角を担うグルグールは、朱雀すざくといった所だろうか? 俺らユーザーには、ありがたいサービスを無料で提供してくれる、ありがたい存在だ。


 全く意味不明だった魚文字。

 スマホのグルグール翻訳機能を使って、母国語へと翻訳した結果には、次のように書かれていた。


ノットウィッチ:あの……。

KP:あ、はい。いらっしゃい。

ノットウィッチ:これ、なんですか?(驚) 頭に直接、声が聞こえるんですが……。

KP:はいはい。そういう仕様です。

KP:仕様……って、なんですか?


……


(なんだこれ? チャットの、ログ……?)

(「KP:」って書いてある。これは……)


 まるでこれは、昔読んだ「クトゥルフTRPG」の、リプレイ本のような……。


 そして、スマホ画面の入力ボックスには、

 「入力して下さい」との表示もある。


(え、ええと?)


 よくわからないけれど、とりあえず、「こんにちは、世界Hello World」と入力したら、その言葉の言語判定は「母国語」になった。(当たり前だ)


 そして、今俺が入力した「こんにちは、世界」は、入力ボックスから、翻訳結果の所へと、した。鮭がビチビチと体をくねらせ、川の激流を這い登るようなエフェクトと共に。



Calc:こんにちは、世界

ノットウィッチ:えっ? また別な声が?

KP:Calcくん、こんにちは! この場所を見つけることができたお友達なんだね!



(これは……!)

 さすがに驚いた。思わず俺は身じろぎし、折り畳みベッドが、みしっと小さな音を立てた。


「グルグール翻訳に、クトゥルフTRPGの、チャット機能まで実装されていたなんて!」

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