俺のラノベが郵便事故で異世界転移したらしい(ライト)

にぽっくめいきんぐ

第1章 大賞発表日

落選


「なんでだよ! どうして 『座椅子の偉大なる種族』 が載ってないんだよ!」


 タブレットがベッドに叩きつけられた。 俺の手によって。

 ボフッ! という音と共に、折り畳みベットを覆う白い布団が、俺のタブレットを受け止めた。


「うわあ!」

 我に返った俺は、ビクビクしながらタブレットを拾う。

 ふう、大丈夫。壊れてはいないようだ。布団がクッションになった。


(どうすればいいんだろう……)

 タブレットを布団に投げつけることで、苛立ちを外へと発散させた俺に、次に襲ってきたのは、そんな感情だった。


 最近、急速に流行りはじめた『シュットドン』というSNSがある。


 母艦サーバーが沢山ある、オープンソースのSNSで、俺みたいな「大学生小説書き」よりむしろ、「お絵かきクラスタ」の人がよく使っているかな?


 そのSNSで俺は先日、「つまらないモノですが、なんて、自作を卑下ひげする感覚が、全くわからんわ」と啖呵たんかを切った。


 そうしたら、ハンドル・ネーム「宴夜えんや」っていうヤツからの返信で 「じゃあお前は、自分の作品が面白いと思って投稿してんのか?」と、煽られたので、「当たり前ですよね? 読んでもらいたいなら」と返した。


 宴夜からの再返信は「じゃあ、今度のマルヤマ大賞の発表、楽しみにしてますわwww」だった。俺が応募しているのは、SNSで前々からオープンにしていたので、そのつぶやきを見た相手だった模様。

 ご丁寧に草が3つ生えているあたり、某匿名掲示板に縁の有る人かもしれない。


 一応、小説投稿クラスタの仲間の中では、俺と同じ感覚をみんな持ってくれていると思う。読み手の時間を奪うんだから、自信を持って書いて、自信を持って広告するのが良い。


 けれど、違う考え方の奴もいるみたいで。


 ともあれ、春先が締め切りだったマルヤマ書店の公募コンテスト『マルヤマ大賞』に、俺は応募していた。


 応募したのは『座椅子の偉大なる種族』 というタイトルの、12万文字ぐらいの長編(処女作だぞ! えっへん!)だ。元ネタにしたのは、小説投稿クラスタの間で流行している『クトゥルフ神話』。


 クトゥルフ神話は、魚と死の匂いとがネットリベットリと染み付いていそうな邪神が、這い寄ってきたりする、ホラー寄りの神話なんだけど、その中に、『イースの大いなる種族(Great Race of Yith)』という、架空の種族が登場する。「イスの偉大なる種族」とも呼ばれている。


「もしもその種族が、脚を持たないだったら?」


 そんな発想からヒントを得て、一気書きした。


 冒頭部は、こんな感じ。


『(みなさん、聞こえますか。私は今、この世界そのものに直接、話しかけています。椅子から、脚を取るのです。座椅子こそ至高! 地に脚をつけるより、地に座面の裏部そのものをつけるのです。汚れが気になるならば、シート越しでもかまいません。そして、大地の鼓動を、あなたの体で、直に感じるのです。座面越しに』


 神の声が世界中に響いて、しかも第一声が「椅子から脚を取るのです」って。ぶひゃひゃ、傑作な掴みだぜ!


 正当なクトゥルフ神話に登場する邪神だけじゃなく、オリジナルの邪神、つまりいわゆる「おれのかんがえたさいきょうのじゃしん」も沢山登場させた。ホラーではなく、ラブコメにカテゴライズされる感じで。


 ラノベなので、当然ながら、邪神を「かわいい女の子」設定にした。


 邪神はいろんな姿の「化身」を持つことが多いので、その化身を美少女化。読者には、とにかく萌えて欲しい。ってか、俺が萌えたい。


(これ……ラノベ史に残る傑作だわ!)

 書き終わった瞬間の俺は、そう思っていた。


 だって、本来ならばグロくて、人類なんぞ簡単に滅ぼしてしまう邪神が、ことごとく、可愛い女の子になって、主人公(男。座椅子)に這い寄って来るんだよ? 座って来るんだよ? 入れ替わり立ち替わり、組んず解れつ。


 フヒヒヒヒヒヒ!


 これが、多感な10代男性の読者諸兄(特に、オタク)の心を、掴まないはずが無い。


 ピノキオに例えてみる。


『マルヤマ大賞』に応募して以来、俺の鼻は、20メートルぐらいは伸びている感じだった。いやん、棒高跳びで世界記録出ちゃう!


 あれ? ピノキオの鼻が高くなるのは、ウソをつくと、だっけか?

 要は、俺の鼻は、高くなっていたんだ。


 その後の俺は自信満々だった。

 マルヤマ大賞……とまでは行かなくとも、少なくとも、奨励賞ぐらいまでには入るだろうと。


 ――


(あれ? おかしいぞ?)

 漠然ばくぜんとした違和感を感じ始めたのは、大賞発表の、1ヶ月前くらいからだった。


 それそろ、受賞内定の事前連絡とかが、マルヤマ書店の編集部から来ても良い頃だと思うのに。


 メールアプリの「迷惑フォルダ」を探してみても、マルヤマ書店編集部からのメールは無かった。いや、マルヤマ書店直営の小説投稿サイト「カキスギ」の広告メールは、週に1〜2度、定期的に来てた。


 でも、肝心の「受賞内定」の連絡メールが、メールボックスに見当たらない。

 事前連絡をしないタイプの賞なのかなぁ?


 そして、今日の昼。つまり、つい先程の事。

『第14回 マルヤマ大賞』がWEBで発表された。

 

 俺は、タブレットを使ってその発表を見た。


 その結果。

 ベッドに「おりゃあ」と投げつけられ、白い布団の上をバウンドしたタブレットは、発表ページを、ついーっと縦スクロールさせていた――。



(※この物語はフィクションです)

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