「でんじは」から「シュレーディンガーの猫」まで
光の波動……でも「光子」って!?
その1.5 そもそもエーテルって?
読んでいただいた方から、具体例があるともっと面白くなるよ、という旨のご意見を頂いた。なるほど確かに、エンターテイメントを目指して書いているのだから、もっと突拍子もない思考実験をした方が楽しそうだ。やっぱり、読んでいただいたからにはその方なりの知識となってほしい。
教科書的な、味気ない説明の部分は「余談===」としてくくってみた。面倒な方は読み飛ばしていただきたい。
表題の通り、このコーナーではエーテルとは何なのか?ということを扱う。
エーテルとは、宇宙をすきまなく満たしている謎の物質である。
なんでこんなものが必要になったかというと、
①光は波である
②波ならば間に物質が無いと伝わってこない
③宇宙は真空だと思ってたけど、星の光が届いてる以上何か物質があるはず。
④じゃあとりあえずエーテルってものがあることにしよう
的な流れがあったからである。
「相対性理論」も、
というわけで、エーテルという物質があったとき、どんなものなら良いのかということを考えていこうと思う。最終的にはすっちゃかめっちゃかになるのだが、そこにいたるまでの物理学者の気持ちを体験できれば……と考えている。
そして、最終的にはローレンツ先生の「宇宙を静かに満たす何か」vsアインシュタイン先生の「そんなものあっても無くても良い」という結論に着く。そちらは次回の特殊相対性理論の、2.絶対vs相対でも扱うのでよければお読みいただきたい。
*****
横波だとか縦波だとかっていうのは今回あまり考えない事にしよう。
それで、光が波だというのならそれを伝えるものが必要だ。たとえば真空中では、空気の波である音は伝わってこない。
太陽は四六時中爆発している核融合炉みたいなものなのだが、爆発音が聞こえないのは宇宙が真空だからである(実際にはほんのちょっとだけ気体があるらしい)。宇宙が空気で満たされていたらさぞうるさかっただろう。というかその前に地球があったかどうかも疑わしい。
土星とか木星なんか重力でどんどん大気を取り込んで終いには核融合を起こし、2つも3つも爆弾を抱えた太陽系はそれこそ阿鼻叫喚のどったんばったん大騒ぎになってしまうことは想像に難くない。
それで、いま、光だけを伝える、という都合の良い透明な物質があるとする。これがエーテルだ。まだよく分からない。では、それ以外にどんな性質があるだろうか。
まず宇宙全体を動く事無く、静かに満たしている必要がある。
===余談:宇宙の中で動かない状態、絶対基準===
こういうピタッと止まって動かない状態の事を、物理ではしばしば「静止」という。
例えば、立ち止まったり、家で寝たり座ったりしている時、我々は地球に対して静止している。家が自走式でその辺走り回っている? その場合は家に対して静止しているという。電車に乗っているなら、電車に対して静止している。もちろん電車の中を走り回ってる場合は静止といわない。
そして、この、宇宙に対して静止していることを「絶対基準」といったりする。どういうことだろうか。
我々は静止しているように見えて、毎秒30kmで太陽を公転し、さらにその太陽系も毎秒400km近い速さで銀河系をぐるぐる回っている。さらにその銀河系も一体どれくらいの速さで宇宙を飛んでいるのか、考えるときりがない。
宇宙船地球号に乗っていると、地球号の中からしかモノは見えない。だから今この瞬間も、宇宙の中でピタッと止まっているような気がしているのだ。
実際には、宇宙全体、すなわち絶対基準から見ると、我々はとんでもないスピードで宇宙を飛び回っている。そしてそのスピードが、この宇宙の中における、我々の絶対の速さである。
===
話を戻そう。仮にエーテルが宇宙の中を動き回っているすると、当然中を伝わる光もまっすぐには進めない。
光がまっすぐ進めないと錯覚を起こす。例えるなら、そこら中カーブミラーだらけの世界になる。
我々は光が飛んでくる方向にモノがあるとしてこの世界を見ている。だから、光が直進しているとき、モノの見えた方向にまっすぐ手を伸ばせば、見えたものを手に取る事が出来る。
光を曲げてみよう。我々の横にある車のヘッドライトから光が出ている。その光が、180度ぐるんと曲がって目に入ってきた。
光は我々の正面からやってくるので、我々は目の前に車があると錯覚する。思わず横によけたくなるが、そうすると実物の車がいるので却って危ない。
とまあこんな具合だから、エーテルが宇宙の中を動き回っていると、北極星が東の空に見えたり、オリオン座が長座体前屈を始めたりするだろう。長年積み上げた天文学のデータがパアになってしまう。エーテルは今も昔も、宇宙を静かに満たしてくれていた方が良い。
というわけで、エーテルは、我々がこの宇宙の中でどれだけの速さをもっているのか、を測るための絶対基準にもなった。エーテルがどのくらいのスピードで我々のそばを通り過ぎているのかを調べれば、それが逆に、我々が宇宙の中でどれほどのスピードを持っているか、ということにつながる。
続いて、物質ならば気体・液体・固体のどれか?という話になる。で、ヘルツ先生によって光は横波である事が知られていたため、エーテルは固体ということになった。
光は横波である。そして横波は横ズレが伝わっていく波である、ということはその1で触れてみた。空気や水みたいな、ズレても滑ってしまう物体だと基本的に横波は伝わっていかないのである。
固体、例えばロープなんかは、横にブンと振っても、手に持っているところからスパッと切れる事は無く、ズレが次々と伝わって、波となる。
さてここまででいったんまとめよう。宇宙をあまねく満たしている透明な固体、それがエーテルである。トコロテンなんか考えると近いだろうか?ちょっと地球を置いてみよう。
先ほども書いた通り、太陽系内部だけでも、地球は毎秒30kmにも達する速さで公転している。トコロテンは動いていないわけで、我々はその中を突っ切っていくわけだが、地球上にいる我々の視点からすれば毎秒30kmでトコロテンが迫りくることになり天変地異も良いところである。
ライフル弾の速さが毎秒0.8km、ロケットが毎秒8から12km。ちなみに「君の○は。」を見た人向けに話すと、あの彗星の速さは毎秒11km程度である。その3倍の速度で、地表に余すところ無くトコロテンが突っ込んでくるのだ。
文明が消し飛ぶどころか、そもそも地球の公転止まるって。
トコロテンにしたって何にしたって、我々にぶつかってくる物質はだめだ。すり抜けてくれないと困る。
それにトコロテンじゃ柔らかすぎる。
波は物質が硬くなるほど伝わる速さも速くなる。音を例にとれば、空気中で毎秒340m、水中で1500m、鉄では6000mとだんだん速くなる。光は実に毎秒300000000(3億)mで伝わっていくから、密度にもよるが、これだけのスピードを出すためにはとんでもない硬さが必要になる。
どのくらい硬いのか?「剛性率」、という硬さの指標で他の物質と比べてみる。
エーテルはスカスカしたもので、その密度が仮に空気と同じくらいであるとして計算すると、硬さは鉄の145万倍、ダイヤモンドの11万倍にもなる。
エーテルで作った武器に切れぬモノなど無いのだ。盾なんか何を持ってきても弾き返してしまう。それでいて重さは空気と同じくらい軽い。おー、ファンタスティック。オリハルコンなんか目じゃない良質素材だ。
言うまでもなく、ぶつかった時の被害は、トコロテンより甚大である。
なお、エーテルには重さが無いと考えられていた。そうすると密度も0になってしまい計算できない。エーテルの密度に関しては仮定である。
そんなこんなで、エーテルの奇妙奇天烈な性質が出来上がるのである。
・流体であるが、非常に硬い。
・宇宙中に満遍なく存在し、我々はその中をすり抜けている。
流体としたのは宇宙全体に広がっていることからの推測である。固体と違って、ある程度は自由に形を変えられるようにしたのだ。でも、基本は流れること無く静止している。
本当はもう一歩先に進んだ、固体とも液体とも言いがたい状態の物質がエーテルとして考えられていたのだが、「原子」という化学の分野に少しだけ入ってしまうので今は扱わない事にする。
そして、我々はエーテルの中を突き抜けているわけだから、なんとかしてその証拠をつかもうと物理学者たちは躍起になっていた。素人目からすれば「いや、ないでしょ……」となるようなシロモノでも、彼らは理論を組み立てるために真正面からぶつかっていったのである。
まあ別に、こんな変な物質に納得していたかというとそうでもなかったようだ。
光を伝えるには物質が必要だ→その物質を考えたら変なことになった→とにかくその物質があるという証拠を見つけて、細かいことはその後考えよう。という、正直そんなところだった。
そして、エーテルを見つける事が出来ないままアインシュタイン先生が登場し、「絶対の基準なんてモノは必要ない。各々見たものが正しいのだ」という「特殊相対性理論」を打ち出すと、実験の結果と合わない事もあって、エーテルという物質があるという考えは無くなっていった。
(注釈:エーテルという有機物はある。光を伝えるための物質、というのが無くなった)
ただ、最初に戻るが、光が波である以上それを伝えるものは必要である。そして、その
補足として、光は「電場」と「磁場」を伝わる波であるということを書いておかねばならない。
その電場と磁場がどういったモノなのか、ということを、物理学者たちはエーテルを通して真剣に考えたのだ。
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