私が、覚えているあなた。

まこと

prologue



 突然こんな手紙を押しつけてしまってごめんなさい。

 お元気ですか?

 私はそれなりに元気にやっています。

 家の前の停留所からいつものようにバスに乗り、大学に向かっていたところでした。

 それらは突然現れました。

 支倉台入口を過ぎて山道に入る一本目の橋の右側。

 芽吹き始めの黄緑色をした新緑の群生が美しくて、穏やかな風に優しく揺れるそれらを見て、一番に思い浮かんだのは、あなたのことでした。あなたはもう忘れてしまったかもしれないけれど、私たちが付き合い始めたのも、新緑の芽吹く5月でした。

 まだ5月だというのに、日が経つにつれて暑さは増すばかり。

 月の中間ごろにはみんな、半袖で街を歩いていたくらいです。


 今思えば、初めて話したあの時から、一目惚れだったのかもしれない。


 きっとそうだったと思う。


 確信があった。


 私はどうにかなる、この人と。


 そんなどこから湧いてきたかも分からない不思議な泉がとめどなく溢れ出たことを私はこの先、一生忘れないでしょう。


 タケはお日様のような人でした。

 日陰にいたはずが、ついうたた寝をして、いつの間にか日が移ろいで、陽光が優しく包み込むように差し込んでいたような。

 そんな、とても温かくて、とても優しい人。

 その肩に寄り添った時のあの温もりと肌に触れた時のあのときめきを、何と表現したらいいのでしょう。

 こんなにも人を好きになったのは初めてだった。

 とても愛おしかった。

 愛していた。





 鈴木 咲




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