第40話

 キサラギの表情が和らぐ。

 ただそれだけでセロは癒やされた。


「じゃまするよー」


 その声とともに現れたのは秋夫だった。


 セロが構えることすらできず驚いてしまった。


「コード893!?」


 セロが、思わず口走る。


「そうだけど俺の名前は南秋夫っていうんだ。

 そっちの名前で呼んでもらえるかな?」


 秋夫がため息混じりにそういった。


「で、その秋夫さんが何のようですかね?」


 キサラギが尋ねた。


「俺ぁは、なかなかの情報通でね。

 取引きをしないか?」


「取引き?」


 キサラギがそういうと秋夫が指を鳴らす。

 すると怪我だらけの赤服たちが現れる。

 意識を失っているもの血を流しているもの。

 沢山、沢山いた。


「こいつらの治療とまでは望まないが一時的に保護してやってくれないか?」


「で、保護をしたら君はなにをしてくれるんだい?」


「嬢ちゃんの居場所を教えてやる。

 なんなら連れて行ってやってもいいぞ?」


「……え?」


 セロがさらに驚く。


「秋夫さんは、どうやってその情報を?」


「言っただろう?俺ぁは、情報通なのさ」


 秋夫が、そう言ってキサラギの目を見る。


「ってか、この赤服たちは誰にやられたんだ?」


 セロの言葉に秋夫が空に指をさす。


「テオスですか……

 デオスがオトネさんを誘拐したことはわかっているんですよ」


 キサラギがそういうと秋夫が床に頭をつける。


「このとおりだ。

 こいつらを保護してやってくれ」


 するとキラサギが言葉を返す。


「なにをいっているんですか?

 そんなの当たり前じゃないですか」


「え?」


 セロはキサラギの方を見る。


「セロくんは、どうしますか?」


「俺はオトネを助けたい。

 でも、キサラギさんはどうしてこいつらを保護するんですか?

 そんな義理はないですよね?」


 するとキサラギが笑う。


「私はヒーローですからね」


 セロには理解できない言葉だった。

 ヒーローは最後には裏切る。

 それがセロの中のヒーローだったからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る