1 はじまり
フリルと二人、対魔黒軍ギルドに向かう道中。
もう一つ、聞くことがあるのを忘れていた。
「あの、フリル。」
「はい、何なりとお申し付けくださいませ。」
口調は丁寧で笑顔が微笑ましいフリルだが、重要なことを抜かすタイプの人だ。少し注意をしていなければならない。
「さっき“異世界精鋭パーティーで魔黒軍を倒す”とか言ってなかったか?」
「はい!もちろん言いましたとも!」
待ってましたとばかりにとびきりの笑顔で目を輝かせながら、フリルは説明を続ける。
「葉月さんには、精鋭パーティーに所属してもらい、後には魔黒軍を倒してもらいます!」
「まぁ…そういうことだと思ってたよ。なんたって精鋭パーティーのメンバー募集だもんな、あれ。」
そう俺は分かりきったことを一応確認程度にフリルに問い、答えた。
なんたってここは異世界。日本の常識やらが通用しなくても仕方ないようなところだ。
そんなこんな、話をしながら歩けば早いもんだ。
「到着しました。この建物こそが対魔黒軍ギルドです!」
フリルが目を光らせ格好よく言い放った。
そう、目の前には俺の新たな人生のメインスタート地点が現れた。
ソイツは頑丈そうで年季の入ったドデカイ建物。
「おぉー!!」
目を輝かせてソイツを見上げる俺をみてフリルは笑顔で言った。
「では、参りましょうか。」
「対魔黒軍ギルド。いざ、出陣!」
俺は誰にも聞こえないような声でそっと呟いたのだった。
★★★
「「「選抜おめでとォーーーございますッ!」」」
あちこちではクラッカーの弾ける音がする。
ギルドの職員一同に、そう讃えられ待ってましたとばかりに歓迎された。
今までの人生経験、歓迎されることは誕生日のときくらいといっても過言ではないほど機会が少なかった。
久々…というかここまで盛大な歓迎は初めてなのだ!
フリルには、「今夜の8時にメンバーの顔合わせと職業決定がある」ときいている。それまではパーティーに参加でもして交流を深めては、とのことだ。
「ハヅキくん、1杯どうです?」
「ハヅキ、職業はどうするの?あたしと同じ精霊使いにしない?」
「ソウマくん、よかったら夜食は俺のとこのパーティーと一緒にどう?」
ギルドに入っては否や、色んな人たちに誘われ敬われという事態だ。
選抜メンバーとのことで、どうやら俺はこの世界でちょっとした有名人らしい。
そもそも、選抜メンバーが何人居るのか俺は聞いていない。
そんなに少数なのだろうか、この世界での精鋭冒険者稼業の職業はどれほどあるのか。
間抜けフリルから何も聞かされていないではないか。
「フリルさーん!フリルさん!他の選抜メンバーって何人いるの?あと私、早く職業きめたいんですがー!」
遠くから大声でフリルを呼ぶ声。そしてその声の主は“他の選抜メンバー”と言っていた。つまりそのひとも選抜メンバーと一人ってわけで…
「…ってことは!今日から同じパーティーのメンバーとして一つ屋根の下…フフフ。」
どんな美少女だろう、声的にはバッチコイな感じだったぞ…!
そんな少し下心もありつつ、俺はパーティー会場を後にした。
★★★
ギルドで指定された仮部屋にて俺は、フリルにパーティー事前に貰っていた『職業案内パンフレット』を眺めようとしていた。
そこには誰もが憧れる上級職から初心者でも操るのが簡単な職業まで、数々の職業のことが事細かく書かれていた。
「うぉっ!双剣使いに優獣使い…聞いたことないようなレアで強そうなのが沢山あるな。」
双剣使いはその名の通り、2つの剣を巧みに操り剣術を身に覚えさせ駆使するもの。優獣使いは非悪道的である優しく正しい獣達を操り戦闘、又は自身が獣化し戦闘するもの。他にも沢山ある…!
興味津々でパンフレットにのめり込む。
ふと、呟いた。
「ごく普通のゲーマーが、冒険者となる日が来るなんてなぁ…。」
来るなんて、予測できるものではないからなぁ。
―たしか、メールにはこう書いてあった。
『特典として上級職に着くことを許す』と。
そう、つまり俺には憧れの上級職だって自由に操れちゃう権利があると言っても過言ではないのだ。
これは是非とも駆使したい!…とはいったものの。
勿論、成りたい職業は当の初めから心に決めていたが、その職業と、魔法使いの人は、この権利を使っても最初から上級職ではない。
中級からスタートし、覚醒を起こすことで最上級の地位を得るというスタイルであった。
普通ならば初級からどんどんレベルアップしていく方式。
日本のゲームではあくまでこれが基本なのだが。
この世界では権利があるのに最初から上級職に着けないのはどうも特殊らしい。
要約すれば俺のなりたい職業と魔法使いが他の職業と比べ物にならない程に操作が難しいというわけなのだろう。
せっかくの権利が駆使しきれるとは限らない。
だがあの憧れの職についた暁にはその道のプロに…なんて妄想をしたり。全員上級職についたらどうなるだろうかと考えながら、職業案内パンフレットに釘付けになっていたのだった。
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