恋の痛み

碧い紅葉

飛行機



一人は退屈だ。

ここにいて、

そして私とお話しして欲しい。

どうかお願い、

もうすぐ暗くなる。

今が私のお気に入りの時間。


太陽が沈んでから

まだ明るい黄昏時

私は月を見上げた。


沢山の雲が月の手前を

ゆるゆると動いてゆく。

月は消えたり現れたり、

太陽よりもずっと優しくて冷たい光。

月は影を作らない。

街灯が明る過ぎて、

そちらの影ばかりが地面に伸びる。


あれは昨日のことだった。

貴方はこの時間に現れて、

私を見つけた。

私は一人で月を見ていたのに、

そうするのが好きだったのに、

誰かを待っていて

そうして優しい予感に震えていた。


貴方の暖かさが怖いの。

寒さには慣れていたのに、

貴方が抱きしめてくれるから

私は温もりに慣れてしまった。

また寒空の中、

一人放り出されるのが怖い。

貴方は優しい人だけど、

嘘はつけない人だから。


一人は退屈だと言った。

でも本当は寂しいだけ。

ここに来て、また私を抱きしめて。

二人で夜空を見上げて

沢山お話しをしよう。


空が暗くなって行く。

日が沈んだ後の

美しく澄んだ青が、

だんだんと群青になってゆく。

そんな色も好きよ、

でもお願い。

まだ暗くならないでね。


貴方は知らないでしょう。

私がどのように貴方を愛したか。

一体いつのことだったのか。

私はもう覚えていない。

覚えているのは群青色の空と

少ししか見えない星々と

頻繁に上空を通過する飛行機。


毎日どのくらいの人が

この空を行ったり来たりするんだろう。

貴方はそう言って、

そうしていつも通りに笑っていた。


信じられないようなことだけれど

飛行機に乗って空を飛んでいる

無数の人たちのひとりひとりに

日常と思い出と感情がある。

彼らは数字ではなくて、

私たちと同じように生きていて、

雲よりも高い場所で

私たちが真下から見上げていることに

気づいていない。


思い出すのは

貴方の笑った顔ばかりよ。

ねえ、お願い。

まだ暗くならないでね。

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