第33話*やっぱり部長*

 私は職員室を覗き見渡すと、里見先生のところへ向った。

「どうした焚口? キョロキョロして」

 悪いことをしているわけではないが、発端の田部井先生にはやはり聞かれたくない。

 いないことを確認した私は、プランターが元の場所へ戻せないことを里見先生に話す。

「そっか。分かった、考えておく」

 それだけかよ!

「それよりも」

 それよりもってなんだ。他に重要な話でもあるのか?

「三送会は今年も、いつもの店でやるのか?」

 ハッとする。

 三年生は普段来ないし、冬は活動がないから新しいレポートを渡す機会もなく忘れていた。

 そういえば、幽霊部員が多いとはいえ三年生が活動にいなかったのは初めてではなかろうか? だから二年の私が部長だったわけだし。

「また、来ます」

 不意に聞かれ、逆に話を持ち帰ることになる。

 やるんなら今月中だよね。真空、来週忙しいみたいだし、急いで決めないと。


 あの後メールを送り、今日は急遽部室に集まってもらった。

「みんなごめんね。昨日さ、里見先生にプランターの相談に行ったらそっちは考えておくって話で終わったんだけど、三送会どうするのかって聞かれちゃって」

「三送会?」

 当然のごとく、李華は疑問系だ。

「そそ、部活動ごとに三年生を送るイベントをやるわけ」

「来てないのに、どうやって送り出すんですか?」

 小袖の言う通りではあるが……。

「うちの部は毎年、みんなで鉄板焼き屋に行ってる」

「鉄板焼きですか! 行きたいです」

 小袖は食べられれば何でもいいみたいだが、李華は否定的だ。

「活動もしてないやつらのためにやる必要あるんですかね? 誘っても来ないかもだし」

 李華の言いたいことは分かるけど、私はやろうと思う。

「少ないけど部費から補助出るし、毎年行ってるところだから。まあ、先輩が来なかったら来なかったで、私たちだけで楽しめばいいんじゃない?」

「そうね、紗綾。私もそれでいいと思う」

「ほいじゃあ真空、こっちも話進めておくね。後は先生に言って、お店の予約をしておかないとな。予約行く時はメールするから小袖と李華も一緒に来てよね。場所、教えておきたいし」

「はい」

「それじゃあ私の分も頼んだぞ小袖」

「えっ、李華は行かないの?」

「あー、うん。悪い、来週はちょっと。そう言う事で部長」

「そっか。用事があるならしょうがないけど」

 三送会の段取りは、こんなところかな。

「ところで紗綾。折角集まったんだし、来年度の部長と菜園で育てるものを決めてしまってはどうかしら?」

「うぅん、いいけど。李華やる?」

「ええ? なんでだよ」

「だって、トマトやるんでしょ?」

「そうだけどさ、小袖やれよな」

「ええ! 無理無理」

 この二人が引き受けるとは思ってない。真空も分かっていて、ちゃんと決めておきたかっただけだろう。

「それでは異議なしってことで、部長は来年度も紗綾ということでいいわね?」

「「異議なし!!」」

 私を置いて真空の進行で承認される。

「ただいま、選出されました焚口紗綾でーす。これからもよろしくでーす」

 パチパチパチ……。

 何だろう。うれしくない拍手だ。

「それで菜園に植えるものだけど、去年と一緒でいい?」

「だから、なすのところはトマトだって。部長の座を譲ったんだから、そこは譲ってもらはないとな」

 別に部長の座、いらなかったんだけど。

「ねえ李華、パプリカなんてどう? 赤、黄、オレンジと華やかだよ!」

「パプリカってピーマンなんですか?」

 話に食いつくのも小袖だ。

「仲間だけど違うかな。ピーマンも熟すと色がついて、そっくりだけどね。サラダでそのまま食べられるし、栄養素も色によって違うから混ぜれば見た目華やかなだけじゃなく体にもいいぞ!」

 小袖はこの話に乗る気のようだ。シメシメ。

「ちょっと待ってください部長」

「何? 李華」

「そのパプリカって、何科ですか?」

「へぇ? ナス科かな~」

「いやいや、『かな~』じゃないですよ。ナス科じゃ、植える場所ないじゃないですか! ダメですよ。そこはトマト専用レーンなんですから」

 ちぇ、いい感じだったのに。こんなところだけ気がつきおって。

「はいはいはい、分かったから。苗は来月でも間に合うから、とりあえず三送会のことを先生に話しておくよ。それで細かいことはメールするから」

 こうして私は、もう一年部長をやらされることになった。


「失礼します」

 部活の帰り職員室に寄ると、里見先生に三送会をやると伝える。

「そうか。それなら三年には俺から言っておくよ。他にも連絡事項とかあるからさ」

 里見先生は三年生の授業を受け持っているし、卒業に備えての準備で話す機会もあるのだろう。お言葉に甘えお願いしておくと、職員室を出るのだった。

 そういや二年にも一人、幽霊部員がいたな。後でトラブルにならないように、話だけしておかないとな。


 翌日の午後、北校舎廊下に行き目視でそいつを捕捉すると呼び止める。

「おーい、遼子。相良さがら遼子りょうこ

「紗綾、聞こえてるからフルネームで呼ぶな」

「あのさ、三送会で鉄板焼き屋行くんだけど、行かないよね?」

「行く」

 断られる前提で聞いたのに平然と答えてくる。

「部費から助成は出るけど一部だし、交通費は自腹だけどいいの?」

「いいけど。紗綾は私に来て欲しくないわけ?」

「違うよ。驚いただけ。それじゃあ、細かいこと決まったらまた連絡するよ」

 そりゃ驚くよな。幽霊部員やってるのに参加するとか超意外だろ。

 しかも放課後、里見先生からの連絡にも驚かされる。

「分かりました。予約しておきます」

 幽霊部員率100%の三年生が、全員出席すると言うのだ。

 運動部と違って後援会があるわけでもなく保護者も関わらないとはいえ、全員の出席をこんなに早く取り付けるなんて里見先生やるなと思う。

 その後私は小袖を連れてお店の予約へ行き、そして案内のしおりを作るとみんなに配布するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る